今宮雅子氏によるカナダGPの焦点。得意なジル・ビルヌーブ・サーキットを味方につけたルイス・ハミルトン。結果的に戦略でも敗れたが、負けて悔いなしの笑顔を見せたセバスチャン・ベッテル。チームとの共同作業で隙のないピットストップを実現し、静かに巧さを見せたバルテリ・ボッタス。そして、どんなときも温かくレースを見守る、モントリオールのファンたちへ。
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カナダGPの功労者は、寒風のなかでレースを見守ったファンだった。温度計は12度を示していても、セントローレンス河の川面を渡って吹きつける風は冷たく、体感温度はずっと低い。晴天に恵まれれば蒸し暑く、曇り空なら凍えるような気候でも、変わらない熱い声援を送り続けるのがモントリオールの観客の特徴──カナダGPを構成する、いちばん大切な存在だ。
ただし、ファンの熱気はレースに向かって上昇しても、金曜のFP2と日曜のレースで路面温度が20度も異なると、タイヤは同じようには働かない。フェラーリがレースの作戦を読み違えた要因のひとつだ。
舗装の目が細かく、高速コーナーの乏しいジル・ビルヌーブ・サーキットでは、もともとタイヤ温度を作動領域に入れるのが難しい。路面温度が下がるとタイヤはいっそう冷えやすくなり、長いストレートの先のブレーキングでフラットスポットを作ってしまうリスクが大きくなる。一方で、メルボルンと並んでシーズン中もっとも燃料消費の大きなコースでは、燃費走行も心がけなくてはならない──ペースを抑えつつ、タイヤ温度を維持する巧みなドライビングが必要なのだ。
そんな作業を誰よりも冷静に、淡々とこなしたのがルイス・ハミルトン。ラッキーな要素はいくつかあったものの、予選でもレースでも強さを発揮した。
「カート時代から、誰よりもブレーキングを遅らせるのが僕のスタイルだった。それが、このコースに合っているのかな」と、モントリオールとの相性を説明した。ストップ&ゴーのレイアウトでタイムを向上するにはブレーキングと加速がカギ──空力コースなら“突っ込み過ぎ”と映るドライビングでも、ここではロスがない。それを熟知しているハミルトンは毎年フリー走行のあいだに1コーナーとシケイン、風向きによってはヘアピンのブレーキングでトライ&エラーを繰り返し、最高のバランスを見出してくる。
ポールポジションからのスタートは今回も失敗、セバスチャン・ベッテルに先行されたものの、ハミルトンは落ち着いていた。モナコGPで取り戻した“運”と一緒に、ニコ・ロズベルグとの攻防でも以前の“強気”を取り戻し、「アンダーステア」でチームメイトをアウト側に押し出した。