スタートの失敗に関しては、フォーメーションラップのあいだにクラッチをオーバーヒートさせてしまったのかもしれないと言うハミルトン。他のすべての要素が完璧だった今回こそ、反省材料として集中的にスタートを研究する機会だ。クラッチは生き物──同じポジションでも温度分布によって、その働き方は変化する。メルセデスのシステムが過敏なのかもしれないし、ハミルトンの操作にどこか隙があるのかもしれない。モナコのレッドブル、あるいは今回のフェラーリのように、前を行くマシンが先にピットインしてくれる幸運は少ないのだから、ハミルトン/メルセデスとしては改善が急がれる。次にポールポジションからスタートするときの出足が、シーズン中盤のハミルトンの成績の指標となる。
第1スティント、前を行くベッテルのペースに驚きながらも、ハミルトンは遅れることなくフェラーリを追った。11周目のVSC(バーチャル・セーフティカー)導入でベッテルがピットインした瞬間、メルセデスはフェラーリのペースの意味を理解し、1ストップ作戦を確定したと言う。
「もしFP2のように暑ければ、1ストップ作戦は無理だったかもしれない。でも冷たい気候では、グレイニングは問題とはならなかった」
路面温度30度のFP1、42度のFP2、18度のFP3から、メルセデスは正確に、路面温度20度のレースを見きわめ、1ストップ作戦を予測していた──対フェラーリでは、もともと低温に強いのがメルセデス。さらにフェラーリが2台そろって2ストップ作戦を選んだことによって、メルセデスは1ストップの意志を固めた。
それにしても、46周の第2スティントをソフトで走り切ったハミルトンのドライビングは見事。タイヤ温度を保つためにコーナーでは入力しつつ、ブレーキングでは早めにアクセルを戻して極力ロックアップを回避する丁寧なコントロールだった。ブレーキを遅らせるのが好きと言いつつ、こういうドライビングができるのは、ジル・ビルヌーブ・サーキットは自分の味方だという信念でもある。
フェラーリには違う道もあった。しかし、ベッテルは自分たちの選択を悔やまず
XPB Images
対するフェラーリは、キミ・ライコネンが週末を通してバランスに苦労したことも手伝って、レース時のコンディションを読み切れなかった。2ストップ作戦が誤りだったことはマウリツィオ・アリバベーネも認めている。ベッテルも「VSCが導入された時点では、あそこでピットインすることが正しい判断だと思ったけれど、振り返れば違う方法もあったかも」と言う。「メルセデスのタイヤがもったことも、僕自身のスーパーソフトが予想以上にもったことも、驚いた」とも。