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【焦点】凶暴さをフェアに使いこなすハミルトン

2014年4月7日

Sutton

 ヘルメットを装着したまま、ピットガレージで見守るメカニックたちの目が笑っていた。“自分たちの”ふたりのドライバーが繰り広げる大接戦を、心から楽しんでいた。ハミルトンとロズベルグのレースはそれくらいフェアで、不安なく胸躍らせるものだったのだ。

 チームの上層部には様々な思考があり、エンジニアにはレースを科学的に見る目がある。でも、素直に純粋に、スポーツとしてのレースを楽しむことに長けているのはボーイズたち――最終的な結果以上に、ゴールまでの経緯が嬉しくなるレースだった。

「トップで1コーナーに入っていくことがレースを決めると、僕には分かっていた」と、ハミルトンが言った。2位のグリッドからまっすぐに加速したカーナンバー44のメルセデスは、ポールポジションのチームメイトに並び、イン側のラインで前に出ると、1コーナーのエイペックスを手前にとって出口の加速を優先した。上り坂の先、4コーナーでロズベルグがアウトに並んだときも同様。1周目のセクター1のこの攻防で、ハミルトンは主導権を握った。

「第1スティントの終盤にはオーバーテイクにトライしたけど、決められなかった」と、ロズベルグ。1コーナーのブレーキングで先行しても、出口ではハミルトンが前に出た。出口で“決めた”と思っても、今度は4コーナーの先で並ばれた……

 それでもマレーシアGPとは異なって、週末を通してペースを上げてきたのはニコのほう。第2スティントでミディアムタイヤを履いたのも、自分が望んだことだと説明した。
「スタートの前から話し合っていた作戦。レース終盤にソフトを履いて、仕掛けるチャンスを作るためだった」――今日は自分のほうが速いと確信していたからだ。

 ミディアム対ソフトで走った第2スティント、間隔は10秒近くまで広がったが、この差は想定内。2スペックの差は大きく、最後のスティントでハミルトンがミディアム、ロズベルグがソフトを履くと、一気に接近するはずだった。ふたりの後方には、すでに40秒以上の大きな空間が広がっていた。

 グティエレスの事故によってセイフティカーがコースインしたのは41周目。メルセデスでは2台が同一周回でピットイン――ふたりの間に10秒の開きがあったことが幸いした。そしてセーフティカーの後方で10秒の間隔がゼロに近づくと考えると、流れはロズベルグに傾いたように見えた。しかし実際のところ、このタイミングでのセーフティカーはふたりに“平等に”働いた。

 ロズベルグが第2スティントで履いたミディアムはまったく性能を落としておらず、余力を残していた。あと数周長く第2スティントを走行していたら、その分だけソフトで走る最終スティントは短く、ニコは最終ラップの最終コーナーまでアタックできたはずだ。


 しかし46周終了時点でセーフティカーがピットに戻った後コース上で展開されたのは、そんな計算よりも何よりも、心を沸き立たせるドライバー同士の戦いだった。48周目にハミルトンがファステストを記録すると、次の周回にはロズベルグが0.3秒上回る。3位以下の集団より2〜3秒(!)速いラップタイムで競うふたりの間隔は0.5秒。1コーナーでロズベルグがインに飛び込んで先行すると、4コーナーではハミルトンがイン側から巧みなラインを取って出口でロズベルグの加速を阻む。

「オプションタイヤのほうが0.65秒速いはずだったから、抑えるのは本当に厳しかった」とハミルトン。「仕留めたと思っても、ルイスは必ず取り戻してきた」とロズベルグ。互いに“相手が死角に入るとどこにいるのか分からないから、最小限のスペースは残さなければならなかった”と、チームメイトとの戦いを振り返った。

 至近距離で走行したせいで、最後はロズベルグのタイヤが滑り始めた。「ハイブリッドではパワーを使える時とそうでない時があるから、パワーを放出できる時に正しい位置にいるのも難しかった」と、けっして不幸には見えない“敗者”ロズベルグが言った。

「僕らのスポーツにとって、最高の1日になったと思う」と、ニコ。「テレビの前のみんなも、そう感じてくれたよね?」

“凶暴さ”をフェアに使いこなすことにおいてはハミルトンが一枚上手だったけれど、ロズベルグがアタックしたから、レースはこんなに楽しくなった。F1が好きで良かった――そう思える瞬間を与えてくれたのは、ペレス/ヒュルケンベルグ、リカルド/ベッテル、マッサ/ボッタス……も同じ。チームメイト同士の戦いがスリリングなのは、パワーユニットの使い方で攻撃のパターンに選択肢ができるからだ。

 1年前、ベッテルがここで記録したファステストラップは1分36秒961。49周目にロズベルグが記録した今年のファステストは1分37秒020。2013年の勝者ベッテルに1000分の59秒差まで迫りながら、メルセデスのふたりは去年の自分たちのペースを軽く上回った。そしてあとひとり――去年はトロロッソで戦ったリカルドが、レッドブルで1年前の自己ベストを更新。

 2014年のF1は、ここからどんどん速くなっていく。エキゾーストノートは低くても、こんなに力強く路面を蹴っていく。

(今宮雅子)


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