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【特別インタビュー】ホンダF1田辺豊治TDに聞く就任までの経緯と現場力、トロロッソとの手応え

2018年3月22日

 いよいよ開幕を迎える2018年のF1シーズン。今季、マクラーレンからトロロッソへとパートナーを変更するホンダの、新たな挑戦が幕を開ける。今季ホンダF1の現場を率いるのは、ゲルハルト・ベルガーの担当エンジニアとしてホンダのF1活動第2期を戦った田辺豊治氏。昨年のインディ担当から、今季はホンダF1のテクニカルディレクターを務めることになった田辺氏に就任までの経緯、そしてトロロッソとの作業の手応えを聞いた。


──これまでやってきた第2期、第3期と現在のF1との共通点や違いはどのように認識していますか?


「共通点は戦いに参加している人すべてが、勝つために参加しているというところです。ある程度の制限があるとはいえ、そこに金と時間を惜しまない。そこは変わらないと思います。違いの部分で言うと第2期、第3期はエンジンサプライヤーでしたが、PU(パワーユニット)サプライヤーという形に変わっています。大きく電気モノが入ってきたというところが違うのですが、技術的には大きく違うものの動力源をサプライ(供給)するという意味で考えると、基本的なところはあまり変わらないと思います。F1に挑戦するということは過去も今もあまり変わらないと感じています」


──最近までやられていた、アメリカのインディとの違いや共通点というものはどんなものでしょうか?


「インディでは基本的にシャシーは一緒で、エンジンはチームが選択するというかたちになります。F1は基本的にはシャシーはコントラクター別で、PUは今でいうと4サプライヤーの中から選ぶことになる。つまりサプライのある中からの選択になります。車体側のところがずいぶん違うと思います。もう1点は敷居の高さが随分と違う。参加するチームの面でもそうだし、お客さんとの敷居の差も感じます。特にお客さんとの敷居はアメリカのほうが低く、オープンであると感じますね」


──インディとF1では、その違いは大きいですか?


「ずいぶん違いますね。木曜からパドックにお客さんが入りますが、値段も10ドル(約1100円)程度でものすごく安い値段になっていますし、お客さんはガレージで作業してるスタッフの姿なども見られます。F1では一般のお客さんはほとんど見られないところですね。ドライバーもそのあたりを歩いていて、呼び止められたら気軽にサインをしてくれたりもします。お客さんに対しては世界がまったく違うと思います」


──田辺テクニカルディレクターから見て、トロロッソというチームはどんなチームであるという印象ですか?


「チーム代表のトストさん、(トロロッソ)テクニカルディレクターのジェームス・キーさんとは何回か会ってお話をしました。シンプルでこじんまりとしていて、マネジメントに関してはトストさん、テクニカルに関してはジェームス・キーという明確な司令塔がいるために判断のスピードも早く、そこで決まれば基本的には決まりで動きが早い。そのふたりもフレキシブルで、新しく組んだことで我々としても相談ごともあるのですが、快く受け入れて対応してくれます。非常にやりやすいチームだなと思います」


──アメリカとはやり方や、サプライヤーとしての立場も少し違うのでしょうか?


「アメリカだと、今のインディのエンジンは6年目か7年目ということで中身をも含めて骨格も成熟しているので、あまりチーム側とのやりとりが少ないんです」


──インディのときにはどのようなことをやってきたのかを、少しお聞かせください。


「インディのときはテクニカルな部分のまとめですね。レースには全レース帯同していましたが、その現場でのまとめとHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント/アメリカ、ロサンゼルスにあるインディなどの開発施設)側へのフィードバック。最終的にレースにはどのモノを適用するか、しないかという最終判断をしていました。今年のインディは12台ですが、去年は13台が走っていました。それだけの台数で走っていると、いろいろなことが起こります。担当エンジニアのレベルも、上から並べるとバラバラです。13台で起こったことをまとめてテクニカルリードの人と話し合い、またHPDの事務所で話し合い、どうするかを考えます。たとえばこれは、このクルマだけに試してみて、次の日はどうしようとか。そういったテクニカルな最終判断をしていました」

2017年インディ500 佐藤琢磨と共に記念撮影をする田辺豊治氏

──現場で起きていることを把握し、チーム側がどういった姿勢で臨んできているのかはよくご存知なのですね。


「そうですね。それぞれのチームで4台走るところ、2台で走るところと特色があります。チームから上がってくる苦情なり意見なりをまとめます。このチームはこんなことを言っている、このチームにこれをやるなら、あっちのチームにもやらなければいけない。そういったことです」


──そういった意味ではトロロッソが相手というのは、やりやすいかもしれませんね。


「僕は最近のマクラーレンと付き合っていないので分かりませんが、先程も言ったようにトストさんやジェームス・キーと話をしていても、ヘジテーション(躊躇)なく何でも相談できそうな感じはあります。レスポンスも早いですし、変に隠している感じもありません」


──中団のトップという彼らの目標をクリアできそうな気配があれば、一気に良い方に加速していきますね。


「そのためにもガッカリさせないようにしないといけませんね(笑)。そこを私、HRDさくら側のもうひとつの大きな責務としています。サーキット側と連絡を取り合いながら、現場側の要求とHRDさくら側の実情を合わせながら最善をつくしていくことになります」


──気持ちの部分も含めて、トロロッソとホンダとの共通するのはどんなところだと思いますか?


「今のホンダとしての立場は、トップに向かってチャレンジしていく立場です。こんな言い方は失礼ですが、彼らも今まで中位から下位というトップに至らなかったチームです。それで一緒にやって、今までの我々の結果のさらに上を目指そうということで気持ちが一致していると思います」


──イタリア、ファエンツァにあるファクトリーは良い意味でアットホームな雰囲気で知られていますが、いかがでしたか?


「設計にしろ作業場にしろ、ちょっと密度が高いかなという感じで人が入っていて、みんな休まず何かに向かって働いているということが感じられた。トストさんやジェームス・キーにファクトリーを見せてもらったのですが、とてもフレンドリーで『調子はどう?』といった感じで話をしてました。そのあたりがアットホームで、大きくないけど最適なサイズで効率よく働けているオフィスという感じを受けました」


──トロロッソとは、パッケージとしてどのように今シーズンを戦っていきますか?


「新しいパッケージということで、お互いのことをよく知るということが最初になると思います。知るためには、我々としてはトラブルを出さずに距離を走らないといけない。ドライバーを含めて新しい人たちの集団になりますので、距離を稼いでいろいろなデータを計測、収集する。プラス、いろいろな意味での経験を積むことが大切だと考えています」


──実際にトロロッソとやりとりするなかで、向こうからのリクエストがあったり、技術的な部分でリクエストを出すこともあると思います。そうした連携は上手くいっていますか?


「今のところはまったく問題なく上手くいっています。今のところと言うとおかしいですが(笑)、大丈夫です。先程も申しましたようにジェームス・キーから適宜質問や懸案などが来ますから、我々はそれに答えます。我々もクエスチョンがあれば質問するというかたちで進めています」


──具体的に、今年はどんな年にしたいと思っていますか?


「昨シーズンからを含めてですが、確実にPUとして……過去を振り返ると壊れていたということがありますので、壊さないように確実にレースの完走を目指す。トロロッソとともに、結果をもって戦闘力を上げる。チーム代表のトストさんもおっしゃっているように、中団のトップを狙っていくことに注力していきたいと思っています」


──ジェームス・キーとは、第3期のころから接点があったのでしょうか?


「私はないです。ジョーダンをやられていたので(佐藤)琢磨選手とは一緒だったと聞いています。一緒に仕事をするのは今回が初めてです」


──ジェームス・キーといえばF1パドックのなかでも実力を認められている人物のひとりです。これまでの経歴を含めて、どのように見ていますか?


「最初に会って話をした段階で、この先もお付き合いをしていくことを考えると、非常にやりやすい方だと思いました。その後にもう一度ふたりだけで、どのように付き合っていくかという話をしました。そこでは、私個人として心配なこともあなたに話すから、あなたも心配なことがあったら言ってほしいと言いました。隠しごとなく話をしようということになっています。正直ベースで、これから話ができると思っています」


──こうした開発の場合、一般論としては車体側とパワーユニット側で要望が食い違うことがあります。そのような場合の落としどころは上手く見つけられそうですか?


「そうですね。折衷案という言い方をしていいかどうかは分かりませんが、最終的には彼らの要望と我々の要望を折衷案へと持っていったとき、もしくはどちらかの要望を受け入れたときに、車体のパフォーマンスとしてどちらが得なのかという技術的な判断で結論をつけます。その過程ではきちんと話ができると思うので、大丈夫だと思います」


──ジェームス・キーはワークスエンジンを使ったことがないということで、どこまでリクエストできるかという部分であまり経験がないとおっしゃっていましたが、そこについてはもっとリクエストがあってもいいのでしょうか?


「ワークスであるか否かに関わらず、勝ちたいと思っているんだったら好きなだけ言ってもらいたいですね。特に今年はワークスということなので、とにかく要望はいくらでも言ってほしい。最終的なできる/できないはパフォーマンスにかかってきます。お互いにどこまで妥協するか、パフォーマンスが上がるのか上がらないのかで最終判断しますから。そこがないと勝てるクルマは作れないと思います」


──久々のF1復帰になりますが、第2期、第3期F1からインディも含めて、今の田辺テクニカルディレクターの強みはどういったところにありますか?


「今までサーキットの現場でやってきたいろいろな場面と、それを準備するファクトリーでの仕事で得た経験です。当然、我々ホンダ内でも活用しなければならないし、ドライバーも含めてチームとの関係においても、私が得た経験を出していけるように。それがある意味、私が現場を担当する意味だと思います」


──今年の田辺テクニカルディレクターご自身にとっての夢は?


「夢として言ってしまうと何ですが、やっぱり勝ちたいですよね。当然やっていくうえでは使命でもあり、我々にとっては夢です。レースに出る以上は勝つということがついてくるわけですよね。そういう表現がいいかもしれない。僕らも勝ちにこだわっているから全クラス制覇したいし、レースをやる以上は勝つことが使命みたいなものです。F1に限らないことですが、F1が一番苦戦しています」


──少し失礼な質問にはなりますが、去年の中盤以降はマクラーレン側のホンダに対する発言は、報道でも取り沙汰されました。それをご覧になってどう感じましたか?


「正直に言えばいい気持ちはしませんでしたが、ある意味では仕方がないというところもあります。マクラーレンというチームがどのレベルであるは分かりませんが、やはり結果に結びついてこないと、ある程度の規模で従業員も抱えているので生きるか死ぬかの話になる。スポンサーがいなくなったりとか、彼らの言っていることは筋がその通りなんです。けれども矛先をひとつに向けて話をする必要はないんじゃないかと思います」


──2015年から2017年までホンダのパワーユニットを見ていくと、どういったところが弱点だったと思いますか? 信頼性やパフォーマンスなどは年によって変わると思いますが、どう分析しますか?


「とにかく出力と信頼性が足りないということしかないですよね。みなさんがご覧になったことと、ある意味同じです。私もアメリカにいたのであまり逐次見ていませんし、(HRD)さくら研究所にもいなかったので……。一般の視線と同じレベルで見いてるかもしれませんね」


──実際、中に入ってみて、見えてきた悩みなどはありますか?


「なぜ今のF1に挑戦をし始めたのかというと、高い技術があるからです。それがF1ともなると、とてつもなく高いところにあるということを、外から見ていたときよりも中に入ったほうがより実感する。だから挑戦する意味がある。けれどもこれから4年目に向けては、小さいステップかもしれなくても着実に、高い技術のレベルへと上げていく。今までの3年間で蓄えたノウハウや技術を活かして、そのレベルへと登っていく必要があります。それでもまだまだ高いです」


──今のF1の熱回生に関して、田辺テクニカルデイレクターはこれまでに経験がありますか?


「まったくありません」


──技術的に非常に難しいことなのでしょうか?


「そうですね。当然ハードウエアとして難しい部分があるのと、あとは使い方です。ハードウエアだけがあっても上手に使えなければ意味がありませんから、そこで何が起きているのかを理解しながら使っていくということが難しいところだと思います」


──もちろんパフォーマンスと信頼性が両立できていればベストではありますし、データ収集のためには信頼性が不可欠です。けれども規則の問題もあり、そこからパフォーマンスを上げていくこともまた困難です。どのようにしてバランスを取っていくのでしょうか。


「まずは信頼性でベースラインをきちんと抑えるというところから、我々が知っているなかでの攻めにいったときのパフォーマンス向上分と、またそのときの耐久性低下分。そのあたりを見極めながら、どこで使ったほうが得か、どう使うのが得かということを見極めていきます。シーズンを進めていくなかで、ここだという時期なども考えて、もう少しパフォーマンスに振ろうということもあります。そういった使い方をしていければベストだと思います」



(autosport)


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