2014年シーズンのGP2シリーズにカンポス・レーシングから今季から参戦している佐藤公哉。アブダビで開催された最終ラウンドを終え、合同テストまでの間にくつろぐ公哉のもとに、マネジメントチーム兼レーシングチームであるユーロノバ・レーシングのオーナー、“タキ井上”こと井上隆智穂から、公哉の電話に着信があった。
●スペイン人の英語はわかりづらい
佐藤公哉(以下公哉):もしもし? 井上さんですか?
井上隆智穂(以下タキ):うぉーい。元気?
公哉:ええ、なんとか元気にしています。スカイプをいただいていたのに、出られなくてすみません。
タキ:ううん、いいよいいよ。僕、アブダビへ行けなかったし、テレビでレースを観たりビンチェ(ユーロノバ社長のビンツェンツォ・ソスピリ)の話を聞いたりしただけだと、細かい部分が分からないでしょ? だから直接、公哉くんと話したかっただけなのよ。いま、大丈夫?
公哉:はい。
タキ:アブダビ大会、まずはお疲れさま!
公哉:お疲れさまでした。
タキ:初日の練習走行は11番手でまずまずだったじゃない?
公哉:ええ。チームメイトの約0.6秒落ちでしたけれど、想定の範囲内でした。走り始めからクルマにグリップを感じていましたし、ミディアムからスーパーソフトにタイヤを履き替えれば、捕まえられるという自信はありました。
タキ:だよな。実際、予選で1セットめのスーパーソフトを履いてタイムアタックしたら、チームメイトよりも速かった。
公哉:0.009秒差でしたけれど、(アルサー)ピックを上回って8番手でした。ピックのエンジニアは慌てていましたよ。
タキ:そりゃあそうだろ。カンポス・レーシングはピック優先のチームだからな。チームは彼とアブダビ前に2015年シーズンの契約を結んでいるし、やはり公哉くんに勝って終わらせたいはずなのよ。
公哉:まあ、他人事はあまり気にしませんけれど……。
タキ:でも、予選で2セットめのスーパーソフトを履いたときは、どうしてタイムアタックしなかったの? ビンチェはエンジニアとのコミュニケーションの問題だと言っていたけれど?
公哉:あのとき僕のエンジニアは、「ほかのドライバーは1回アタックして1回リラックスして、それからもう1回アタックしている」と無線で状況を伝えてきました。続けて「公哉はもう1回リラックスして、それからアタックに入れ」と指示がありました。そのとき僕はウォームアップ中でリラックスして走っていたので、「じゃあ、あと1周リラックスして、その次の周にアタックだな。2周リラックスを入れるのか」と勘違いしました。エンジニアのエミリオの指示を聞き誤りました。
タキ:なるほど……。
公哉:そうしたら次の周にエンジニアから、「なぜアタックしないんだ!」と無線が入り、僕は「え?」と。たしかに予選の残り時間が少なかったので、おかしいとは思っていましたけれど……。ビンチェにあとから聞いたところ、「スペイン人の英語は分かりにくいんだよ。あのときオレも、あれ? 公哉は大丈夫かな? と思った。オレから直接、公哉に無線で確認の指示を出しても良かったんだけど、ここはオレのチームじゃないし」と言っていました。
タキ:事件だな!
公哉:……(汗)。