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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回後編】改善に必要なのは「受け入れて隠さないこと」判断力の欠如で低迷した1年
2023年12月18日
2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。今年のハースはコンストラクターズ選手権10位に終わり、昨年とは一転して低調なシーズンを過ごした。冬のバーレーンテストで見つかった課題を解決できずに戦い続けることになった理由は、一体どこにあったのだろうか。
コラム第19回は前編・後編の2本立てでお届け。後編は2023年シーズンを小松エンジニアが振り返ります。
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■コンストラクターズ選手権
マネーグラム・ハースF1チーム 10位(12ポイント)
■ドライバーズ選手権
#20 ケビン・マグヌッセン 19位(3ポイント)
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 16位(9ポイント)
2023年シーズンはケビンがドライバーズ選手権19位、新しく加入したニコが16位、そしてチームはコンストラクターズ選手権で10位という結果に終わりました。今年を振り返ってみると、バーレーンテストの段階でVF-23は予選一発の速さはある程度あるものの、レースペースに課題があるということが明らかで、残念ながらこの課題を改善することができないままシーズンを終えることになってしまいました。
ではどうしてクルマを改善することができなかったのかというと、“チームの判断力・決断力がなかったから”だと思っています。2019年と同じような状況ではないかという意見もあると思いますが、まさにその通りでした。実際にあるレース後のデブリーフィングで、僕は「これでは2019年と同じだ」と言ったことがあるのですが、別のレースでもケビンが同じことを言っていました。
僕は、判断を下せないというのは一番痛いことだと考えています。僕たちの仕事において、特に現場では常に判断を下すことが求められます。週末を通していろいろなことを判断するなかで、すべて完璧にできる人はいないかもしれませんが、それでもできるだけ正解の判断をより多く下そうと努めています。最悪なのは何もしないことです。
チームのなかには「2019年と同じではない」「一緒にするな」と現実を受け入れなかったメンバーがいたのも事実です。でも、まずは現実を受け入れて認めないと前に進めないし、改善もできません。うちとは反対に、クルマの出来が悪いというのを受け入れたのが今年のマクラーレンだったのではないでしょうか。もしチーム内でもっと早い段階で現実を受け入れて、マシン開発の方向性を変えていれば、僕たちはアメリカGPに持ち込んだレベルのパッケージを夏前には投入できて、アメリカの時点ではもっといいものがあったはずです。そうすれば2024年型マシンの開発にもよりよい影響があったと思います。
結局アメリカで投入したパッケージについてはニコとケビンの考えが分かれたので、ラスベガスとアブダビではニコが旧型、ケビンが新型と両方を使いました。もちろん収穫はありましたし、アメリカでふたりが言っていたこともデータに出ているので、これからのクルマの開発に活かしたいです。少なくとも高速コーナーやストレートラインでは旧型の方がよくて、フロントの一貫性は新型の方が優れているという手応えだったので、アブダビに限っては旧型の方がいいと考えていたのですが、それがどれくらいふたりの予選の差に影響したのかというのはまだデータを解析しているところです。
ちょっと話はそれますが、クルマが予選では速いがレースで遅いということがチーム内でもホントにいろいろな議論を生みました。それをうけて、現場ではとにかくすべてを網羅するためにいろいろなセットアップや走り方を試したんです。しかし、結果としてクルマは改善せず、何をしても付け焼き刃にしかなりませんでした。このような結果になることはわかってはいましたけれど、それでも実際に事実として出すことはチームの足並みを揃えるために必要でした。その後、シーズンの中盤に差し掛かるころになってギュンター(・シュタイナー/チーム代表)も状況を受け入れてくれました。そこからアメリカGPに持ち込んだアップデートにつながるわけですが、このチームがよくなるためにはこのあたりのプロセスをもっとシンプルに改善しないといけないですね。
また、アブダビGP後のヤングドライバーテストにもオリバー・ベアマンを起用しましたが、このヤングドライバーテストではクルマのセットアップを変えることが許されているので、VF-23の弱点を風洞担当のメンバーにもわかってもらえるようにいろいろなことをやりました。僕たちにとっては重要なテストで、ここでもオリバーはテストの目的を理解して安定して走ってくれました。もちろんピエトロもそうで、個人では最多となる130周を走って実りあるテストになりました。
そして肝心のレースドライバーについてですが、ケビンの方はまだまだやれることがあるという状況です。シーズン後半は明確な目標を定めて、ちょっとやり方を変えていき、改善の糸口をつかみ始め、シンガポールGPでやっと結果を残すことができました。しかしカタールGPでは明らかな準備不足でまったく納得のいかない週末になり、反対にしっかり準備ができていたラスベガスGPでは好調でした。アブダビGPで調子が悪かった理由もわかっています。とにかくどうすればもっとケビンの能力を安定して発揮させられるのか、一緒になって試行錯誤しながらやっているところです。
ニコはコラム前編でも書いた通り、本当に予選一発の速さに関しては問題ありません。課題はレースでのタイヤの使い方です。これもシーズン序盤から言ってきたことですが、1年を通して改善してはいるもののまだまだやることはたくさんあります。ふたりとも経験豊富なベテランですが、まだまだ伸びる余地があるのでそこは前向きにとらえています。
最後になりますが、今年は本当に不本意なシーズンになりました。ここから這い上がるためには、とにかくチーム一丸となって自分たちのことをしっかりと見つめることです。チーム内に優秀な人たちは大勢いるので、マネージメントとしてみんなが力を発揮できる環境を作っていかなければなりません。一晩でできることではありませんが、二度とこのようなシーズンを繰り返さないためには根本的に見直すべきところが多々あります。なるべく万全なチーム状態で2024年のプレシーズンテストに臨みたいと思います。そして来シーズンはもっといいレース結果の報告をできるようにしたいです。今年も1年間、お付き合いいただきありがとうございました。
(Ayao Komatsu)
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12/6(金) | フリー走行1回目 | 結果 / レポート |
フリー走行2回目 | 結果 / レポート | |
12/7(土) | フリー走行3回目 | 結果 / レポート |
予選 | 結果 / レポート | |
12/8(日) | 決勝 | 結果 / レポート |
1位 | マックス・フェルスタッペン | 437 |
2位 | ランド・ノリス | 374 |
3位 | シャルル・ルクレール | 356 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 292 |
5位 | カルロス・サインツ | 290 |
6位 | ジョージ・ラッセル | 245 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 223 |
8位 | セルジオ・ペレス | 152 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 70 |
10位 | ピエール・ガスリー | 42 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 666 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 652 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 589 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 468 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 94 |
6位 | BWTアルピーヌF1チーム | 65 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 58 |
8位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 46 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 4 |