ゴールの後の1周、キミ・ライコネンは小さく控え目に──休むことなく──ファンに応えて手を振り続けた。表彰台でも、ティフォシ全員に気持ちを伝えるように、小さなスペースを移動してすべての声援に感謝を伝えた。決して、笑顔になれる気分ではなかったけれど。
ポールポジションからスタートして2位という結果は、「理想からはほど遠い」。しかし置かれた状況を考えると、完走できたことが奇跡だ。レース終盤は左リヤだけでなく右リヤもフロントも、4輪がボロボロの状態。ライコネンだから破綻せず、ゴールまでマシンを運んで2位を守りきれたのだ。
「走行中はもちろん観客の声援は聞こえないけれど、トロフィーを受け取った時には本当に多くのファンが応援してくれていたのを感じた。最高の結果を残すことはできなかったけれど、僕らがトライしている限り、みんな精一杯、応援してくれたと信じてるよ」
20周目という早い段階のピットイン。チームの作戦についてたずねられたライコネンは、慎重に言葉を選んだ。
「後になって考えれば、いつだってあれこれ“調整”することは可能だ。でも、後になってからではもう遅い。僕らが何かを間違えたとは思わないよ。単純に、タイヤを使い切ってしまったということで、それについて今すぐ考え込むのは意味がないと思う」
土曜日には2000年以来の地元フロントロウ独占で、ティフォシを沸かせたフェラーリ。しかしスリップストリームを使い合った予選のトップ3は僅差で、2位セバスチャン・ベッテルと3位ルイス・ハミルトンの差は1000分の14秒しかなかった。Q3の1回目のアタックでトップタイムを記録していたハミルトンは、最後のアタックでも「2位は可能だと思っていた」と言った。
スパ・フランコルシャンでベッテルが快勝した後、モンツァのFP2でも1-2位のタイムを記録して好調さを印象づけたフェラーリ。そんなスクーデリアに「少し後れを取っている」と繰り返したメルセデス。しかし実際には、バルテリ・ボッタスを除いた3人にはほとんど差がなかった。
FP1は雨。FP2はマーカス・エリクソンのクラッシュによって20分以上の走行時間が失われた──。誰も十分なロングランは行っていなかった。
「タイヤは2スペック(スーパーソフト、ソフト)ともOKだけど、十分な距離を走れていない」と、読めない部分があることを指摘していたのはライコネンだ。
もしフェラーリが楽観視していたとしたら、それは“条件が同じならメルセデスよりタイヤに優しいはず”“乱気流に弱いメルセデスはついて来れないはず”という、ざっくりとした予測によるものだっただろう。
Sutton
レースでは、1周目のロッジア入り口でライコネンに仕掛けようとしたベッテルが右に大きくスペースを空ける判断ミスを犯し、ハミルトンに隙を与えてしまった。そしてふたつ目の右コーナーに向かってラインを取り戻そうとして、メルセデスと接触、スピン。モンツァではよく見られるレーシングインシデントだったが、多くを失ったのはもちろんベッテルとフェラーリだ。