F1第11戦ハンガリーGP、決勝スタートで早々にニコ・ロズベルグを抜き去りトップ独走状態に突入したと思われたルイス・ハミルトン。20周経過時にペースに苦しんでいるという無線が飛んだことで、後方を走るダニエル・リカルドにチャンスが来るかと思われたが……。
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「リカルドがトレイン(トップ集団)の後ろに追いついてきている。かなりギャップを広げる必要がある」
「このタイヤでできる限りの速さで走っているよ」
「もしペースが上げられないなら、ニコを先にピットインさせる。優勝が危機に晒されているんだ」
33周目、ルイス・ハミルトンとレースエンジニアのピーター・ボニントンの間でそんな無線交信が交わされた。
ラップタイムを見れば、確かにソフトタイヤに交換してからのメルセデス勢はレッドブル勢よりも常に0.5〜1秒ほど遅いペースで推移しており、ソフトタイヤとの相性に苦しんでいるようにも思われた。
「ペースに苦しんでいる!」
20周目にはハミルトンが、そう叫んでもいた。
「ダニエル、良くやってるよ。メルセデス勢は1分26秒9、君は彼らより1秒速い。ロズベルグまで6秒差だ」
ダニエル・リカルドのエンジニア、サイモン・レニーが伝えた。一方のハミルトンは、ボニントンからの「ペースを少し上げてくれ」という指示に対して「もうやってるよ」と、やや怒気を含んだ声で答える。
33周目、リカルドはメルセデスよりも先にピットインしてアンダーカットを狙う。もしタイム差が縮まっていれば、アンダーカットされないためにはニコ・ロズベルグを先にピットインさせなければならなくなる。冒頭の無線交信は、戦略の優先権がある前走車ハミルトンに対する断わりだったのだ。
しかし実はメルセデスには、まだまだ余裕があった。ここまでの控え目なペースはタイヤマネージメントを慎重に行っていたからだったのだ。
「今日はフリー走行に較べて路面温度が10度も高かったから、ソフトタイヤがどれだけもつのか、まったくの未知数だったんだ。だから僕たちは、かなり慎重にケアした。最初からプッシュしていたら、おそらく最後までもたなかっただろう」と、ハミルトンは振り返る。
「素晴らしいレースだった。良い仕事だった。メガ・ジョブだ」
「みんなありがとう。ファクトリーも含めてチームみんなの努力のおかげだよ」
指示を受けたハミルトンは一気にペースを上げ、新品のソフトタイヤに交換したばかりのリカルドさえも上回るペースで周回して勝利を確固たるものとした。周回遅れでタイムロスを喫する場面もあったが、ロズベルグとの差が縮まっても、すぐに引き離してDRSを使わせなかった。
得意のハンガロリンクで最多勝となる5勝目は、まさに完勝だった。
(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)