メキシコ人にとって23年ぶりのF1、もちろんセルジオ・ペレスにとっては特別なレースだ。ペレスが最後にメキシコでレースしたのは12年以上も前のことで、久しぶりの母国戦となる。
「11万枚のチケットはほぼ完売だと聞いている。これだけ多くのメキシコ人の観衆が見守るなかでレースをやるのは生まれて初めてのこと。メキシコ人にとってだけでなく、僕にとっても11月1日は夢が叶う特別な一日となるだろう」
グランプリ開幕前日の木曜には、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領がサーキットへ現れ、フォース・インディアのガレージを訪問したほど。メキシコ人ドライバーがメキシコGPに出場するのは、1970年のペドロ・ロドリゲス以来45年ぶりということもあって、メキシコ国民の期待は高まるばかりだ。ペレスも「いい結果を残して、応援してくれているファンの声援に応えたい」と語っている。
そんな思いに応えようと、フォース・インディアはメキシコに新しいフロントウイングとリヤウイングを持ち込んている。ペレスはロシアGPで3位表彰台を獲得し、前戦アメリカGPでも5位に入賞。新しい空力パッケージを手にしたメキシコGPにも期待が高まる。
ここ数戦の好調は、Bスペックが熟成してきたことだけが理由ではない。「実はチームメイトのニコ(ヒュルケンベルグ)の目に見えない貢献があった」と松崎淳タイヤ&ビークルサイエンス部門シニアエンジニアは分析する。
「アメリカGPは金曜フリー走行2回目がキャンセルされました。我々は2回目もインターミディエイトタイヤで走ることを想定して、できるだけ磨耗させないように午前中のフリー走行1回目は、ふたりとも計測ラップを1周しか行わなかった。つまり、土日に向けた最終的なセットアップ変更は、あわせて2周だけの走行データで判断しなければならなかったわけです」
ところがウエットコンディションということもあり、ペレスの1周で必要なデータは収集できなかったという。エンジニアたちが注目したのは、ヒュルケンベルグのデータだった。
「確かにラップタイムだけを見れば、チェコ(ペレス)のほうが速かった。でも我々が欲しいデータはニコのほうに含まれていた。そこでニコのデータをもとにベースとなるセッティングを2台に施していったんです。もちろん、チェコがレースでいい仕事をしていることは確かです。でも、それを支えているのは実はニコのデータなんです」
23年ぶりのメキシコGPを、45年ぶりに母国人ドライバーとして走るペレス。12年ぶりに地元で戦うペレスが、どんな走りを披露するのか? その裏にはヒュルケンベルグも含めたチーム全体の力があることを忘れてはならない。
(尾張正博)