一部のイギリスメディアが「ジェンソン・バトンが日本GP期間中に引退を発表するかもしれない」と報道したことによって、木曜日に開かれたFIAの共同記者会見は、異様な雰囲気に包まれていた。
6人が出席した会見は、まず司会者による代表質問から始まった。最初にマイクが向けられたのは前戦シンガポールGP勝者のセバスチャン・ベッテル。その後バルテリ・ボッタス、ウィル・スティーブンス、マックス・フェルスタッペン、ニコ・ヒュルケンベルグと続き、司会者が最後に質問したのがバトンだった。
しかし、バトンは「まだチームと話し合いをしているから、何もいうことはできない。来年についてはたくさんの選択肢がある。申し訳ないけど、もう少しだけ待ってほしい」と答え、噂されていた引退発表は行わなかった。だが、それで一件落着となったわけではない。なぜなら、バトンは引退そのものを否定はしなかったからである。むしろ、木曜日の会見での発言によって、さまざまな憶測を呼ぶ結果を招いてしまった。
ひとつは木曜日の時点では発表は行わないが、この週末のどこかで発表するのではないかというものだ。その理由は、F1に復帰したばかりのホンダの復帰後初めてとなるホームグランプリが始まるというときに、自分がそのチームを引退することで、ホンダの顔に泥を塗りたくなかったのではないか。もしそうなら、レース終了後に引退発表を行うことは十分に考えられる。
もうひとつは、じつはバトンは引退したいのではなく、チームとの交渉を有利に働かせるために、メディアを使って引退を匂わせているのではないかというものだ。というのも、バトンが「日本でロン・デニス、エリック・ブーリエが参加した話し合いが行われるだろうし、本社の方でもミーティングが行われることになるだろう」と一部のメディアに語っているからである。
つまり、交渉はまだ継続中で、交渉中のテーマが今年減額に応じた分の年俸アップという金銭的な問題なのか、あるいは2016年以降も複数年チームにとどまるというような条件面での問題なのかは定かではない。もし、それが理由だった場合、オプションの期限が切れるのは9月末だと思われるので、マクラーレンがわざわざ日本GP期間中に決定を下すとは考えづらく、その場合バトンも発表は行わないだろう。
木曜日の会見では、ドライバーとともに広報も記者会見場に入ってきた。基本的にこの類の会見に入場する広報はひとりなのだが、マクラーレンだけ今回はふたりの広報が厳しい目つきでバトンの発言を聞いていたのが印象的だった。
ちなみにバトンが日本GPで引退するだろう、というニュースをシンガポールGP翌日に報じたタイムズ紙の記者によれば、バトン引退の根拠となったのはレース後のバトンのコメントと彼の雰囲気だったという。木曜日の会見でバトンはシンガポールGPのレースについて、「シンガポールGPが決して楽しくなかったことは本当だし、それは本心だった」と語っており、おそらくこれが鈴鹿での引退発表につながったのではないかと思われる。
しかし同時に、バトンは鈴鹿でこうも語っている。
「勝利を争っていないレースを楽しめるドライバーなんていないと思うよ。僕は14位でフィニッシュしたくはないし、10位だって不満だ。でも、そこに可能性が感じられたり、喜びを取り戻せる何かを感じられれば、気持ちも高ぶるし、チャレンジしたくなる」
果たして、鈴鹿での発表はあるのか。サイはいまバトンではなく、マクラーレン側が握っているのかもしれない。
(尾張正博)