「今シーズン、初めて『パワーユニットには問題ない』と言われました」
シンガポールGPの金曜日のセッションを終了した後、深夜0時30分から行われた定例の記者会見で、長谷川祐介総責任者はそう語って、初日のセッションを振り返った。
この言葉には、2つの意味がある。ひとつはホンダのパワーユニットが着実に進化しているということだ。ホンダがスペック3を投入したのはベルギーGPだが、投入早々、アロンソに2度トラブルが発生した。そのため、ベルギーではトラブルの再発を防ぐことで精一杯だったが、その後イタリアGPでは問題は起きず、ホンダはスペック3のマップのチューニングをいくつか試し、シンガポールGPに向けて、さらに調整を行ってきた。
マップの調整は、それだけでもコンマ数秒の違いが出るほど、大きな改善となる。「パワーユニットには問題ない」というコメントには、ベルギーGPと同じスペックのパワーユニットでも、使い方において前進しているという意味である。
「パワーユニットには問題ない」ということはのもうひとつの意味は、「パワーユニットを評価できる状態ではなかった」というものだ。
金曜日のマクラーレン・ホンダの2人に関して、長谷川総責任者は「全体的に、あまり満足できる内容ではなかったようです」と語っている。理由は信頼性、パフォーマンスともに低かったからである。
まずフリー走行1回目のセッションが開始してすぐ、バトンのマシンに燃料システムのトラブルが発生する。幸い、バトンが止まった場所はピットロードに近かったため、マーシャルに押されてピットに帰還することができ、バトンはマシンをチェックされた後、コースに復帰することができた。
すると今度は、フリー走行2回目に、チームメートのアロンソのマシンに、ギアボックストラブルが発生する。ただし、金曜日に使用するギアボックスは、フリー走行用のものなので、6レース連続で使用しなければならないというレギュレーションに抵触することはなく、こちらも大きな問題にはならなかった。
さらに2人はグリップ力不足にも悩まされていた。「僕らの最大の問題は全体的なグリップ不足」とアロンソが不満を口にすれば、バトンも「今日はただグリップが得られなかったから、コンペティティブになるにはペースをしっかりと出す必要があるだろう」と険しい表情だった。
ただし、そのような状態でも初日アロンソは9番手、バトンも12番手。つまり、セッティングさえ改善できれば、マシンはもっと速くなるし、その改善する余地は大きく残されているということでもある。
長谷川総責任者「伸びしろがあるけど、どうすれば改善できるかというポイントを見つけられるかどうか……」
いつもより7時間半遅く午後11時にセッションが終了した初日のシンガポールGP。マクラーレン・ホンダのスタッフがサーキットを出るのは、明け方になるのは間違いない。
(Text : Masahiro Owari)