「これがいまの実力です」
長谷川祐介ホンダF1総責任者は、2台そろってノーポイントに終わった中国GPを、そう総括した。いったい、何が足りなかったのだろうか。
「いつも指摘しているように、パワーが足りなかったのは明らかですが……」と言ったあと、こう続けた。
「タイヤのマネージメントがもうひとつだったのは、確かですね」
長谷川総責任者が指摘したのは、スタート時のタイヤだった。11番手のアロンソはソフトを履いてグリッドについたが、チームメイトで12番手からスタートするジェンソン・バトンはスーパーソフトを装着していた。
予選でQ3に進出した10人のうち、Q2の自己ベストをソフトタイヤでマークしたいニコ・ロズベルグ以外の9人はスーパーソフトでスタートしなければならない。しかし、予選11位以下のドライバーは、3種類あるタイヤのどれを装着してスタートしてもかまわない。その12人のうち、バトンと同じ選択をしたのは、予選17位のケビン・マグヌッセンだけである。
「われわれはQ2で敗退していたので、スタート時のタイヤは自由に選択できる権利があった。タイヤは、もう少し選びようはあったと思います」(長谷川総責任者)
ただしスーパーソフトを選択したこと自体は、スタートでのポジションアップにつながり、スタート直後に一時は8番手まで上がったことを考えると必ずしも失敗だったとは思わない。むしろ、今回マクラーレン・ホンダのタイヤの選択で疑問が残るのは、セーフティカーが導入されたときのバトンのタイヤチョイスだった。
4周目に9番手でピットインしたバトンに、チームはミディアムタイヤを装着する。ところが、「ミディアムはグリップ力が足りなくて、グレイニング(ささくれ摩耗)ができて、タイヤがもちませんでした」と長谷川総責任者は語っている。バトンはレースが再開して10周を過ぎたあたりから、ペースが落ち始めて、次々にオーバーテイクを許してしまった。
セーフティカー導入に合わせてピットインしたドライバーのうち、バトンと同じミディアムに交換したドライバーはマーカス・エリクソンただひとり。あとの8人はスーパーソフトかソフトだった。
さらに31周目にピットインしてきたバトンに、チームは再びミディアムを装着。ミディアムを選択すること自体は、レース後半、多くのドライバーが行っており、間違いではない。しかし、ソフトに対して1秒以上ペースが遅いミディアムを2スティント連続で使用したドライバーは、バトンのほかにフェルナンド・アロンソ、エリクソン、フェリペ・ナッセしかいない。つまり、今回マクラーレン・ホンダが選択したタイヤ戦略は、他チームとは明らかに異なる少数派の選択だった。
タイヤ選択は、その日の路面コンディションによって変わるタイヤのパフォーマンスと、レース展開によって大きく左右される難しさがある。もしかしたら、金曜日のフリー走行でソフトタイヤのデグラデーション(劣化)が大きすぎて、レースでは使いものにならないと感じていたのかもしれないし、ソフトタイヤを使いきれるセットアップがうまく仕上がっていなかったのかもしれない。したがって、レース戦略が機能しなかったからといって、マクラーレン・ホンダの実力が、中国GPの結果どおりだったとは言い切れない。
「残念ですが、今回は予選でQ3を狙えるところまで行け、クルマが確実にステップアップしていることが確認できました。次につながるレースだったと思います」
まだ、3戦が終わったばかり。あと18戦、長いシーズンが残っている。
(Masahiro Owari)