さて今回は、最初のピットストップの際にウイリアムズが採った戦略を検証してみたいと思います。ウイリアムズの2台は、序盤3番手フェリペ・マッサ、4番手バルテリ・ボッタスの順で走行し、スタートに失敗して5番手を走るロズベルグを抑え込んでいました。ロズベルグはボッタスを抜こうとするも、直線スピードに優れるウイリアムズをなかなか攻略できず、しかもその都度ブレーキがオーバーヒートしてしまうという難題を抱えていました。
本来の速さには勝るものの、先行するマシンをコース上でオーバーテイクできない場合、各チームは“アンダーカット”を行います。ライバルよりも早く新しいタイヤに交換し、そのタイヤの性能を最大限発揮してペースを上げ、古いタイヤで走るライバルよりも速く走ることで、ライバルのタイヤ交換に乗じて前に出る……という作戦です。イタリアGPでも、ロズベルグはウイリアムズに対して、このアンダーカット作戦を実行します。18周目のことでした。
ウイリアムズはこの作戦にすぐさま反応し、翌周タイヤ交換を行います。タイヤの性能差が生じる周回を、極力少なくするためです。しかし、ここでウイリアムズは、通常とは異なる判断をします。この時点で3番手を行く、マッサを先にピットに呼び戻したのです。
本来ならば、ロズベルグの直前を走行する、ボッタスを先にタイヤ交換に呼ぶのがセオリーです。しかし、今回のウイリアムズはマッサを優先しています。ロズベルグがピットに入る前、ボッタスとの差は約1秒、マッサとの差は2.5秒でした。ウイリアムズのピットは、ロズベルグにアンダーカットされた場合、約1秒しかマージンのないボッタスでは、ロズベルグの前で戻ることができない、しかしここでマッサのタイヤ交換を行えば、3番手のポジションは守ることができる……そう判断したのでしょう。この判断は、決して間違いなかったはずです。
しかし、2.5秒の保険があったマッサですら、ロズベルグに先行されてしまいます。計算してみると、ロズベルグは17周目から20周目(ロズベルグのピットインは18周目)まで、6分19秒14かかっています。これに対し19周目にピットインしたマッサは、6分23秒317と、ロズベルグよりも4秒177も多く要していることになります。つまり、タイヤ交換作業はもちろん、その前後の周回のロズベルグは、驚異的に速かった。2台前を行くマシンをアンダーカットするというのは、滅多にないことであり、その間のロズベルグの集中力もさることながら、ここもメルセデスAMGの圧倒的な速さを示したシーンだったと言うことができるでしょう。