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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】タイヤ管理よりも“プッシュ”を優先。2ストップ戦略で着実に完走

2021年5月19日

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。シーズン4戦目となるスペインGPは、タイヤに厳しいバルセロナ-カタロニア・サーキットでの戦いだったが、ドライバーはふたりとも2ストップ戦略でしっかりと走り切った。


 また今年は『スプリント予選レース』の導入が決まり、新たな試みが始まる。7月の第10戦イギリスGPを皮切りに3回の実施が予定されており、サーキットの最前線で戦う小松エンジニアは、この新フォーマットについてどう考えているのだろうか。ハースの現場の事情とともに、小松エンジニアがお届けします。


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2021年F1第4戦スペインGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝19位
#47 ミック・シューマッハー 予選18番手/決勝18位


 今年はバーレーンでプレシーズンテストをしたので、バルセロナを走るのはこれが初めてとなりました。予選はミックがとてもよくやってくれ、初めてウイリアムズのニコラス・ラティフィを上回って18番手となりました。4戦目でこれを達成できたのは大きな成果だと思います。しかし、このラップはまだまだ完璧からはほど遠いラップだったので、これから伸びる余地は大いにあります。


 レースではミックがスタートでポジションを落としたものの、1周目をうまくまとめ、ウイリアムズ勢2台の前に出ました。ただクルマのバランスが悪く、C3(ソフト)のリヤタイヤが厳しい状況で前を走るアルファロメオには突き放され、ウイリアムズに抜き返されるのも時間の問題のような状態でした。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第4戦スペインGP ミック・シューマッハー(ハース)


 その後の第2、第3スティントではクルマのバランスを調整して、ペースはよくなりました。特に誰も周りにいないフリーの状態で走っている時のタイムはよくて、第2スティント序盤はウイリアムズやセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にも引けを取らないペースでした。しかし青旗が出てマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)やルイス・ハミルトン(メルセデス)に周回遅れにされた後はなかなかタイムを戻せませんでした。


 C2(ミディアム)タイヤを履いた際のバランスがよかったので、2回目のピットストップでもミディアムを選択。ここでも走り出しのペースがよくて、同じタイミングでピットインしてソフトタイヤを履いたラティフィよりもいいペースで走れました。


 ニキータも状況は同じで、ペースはミックに劣るものの最初のスティントはよくやってくれました。1回目のピットストップ後はミック同様に青旗もありましたが、ミックがクルマに対して自信を持って走っている時は、やっぱりふたりのペースの差は広がってしまいます。


 2度目のピットストップをミックより早めに行ったのは、ランド・ノリス(マクラーレン)やセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)、カルロス・サインツJr.(フェラーリ)などが近づいてきていたので、青旗を掲示される前にタイヤ交換をしようと決めたからです(40周を超えていたので、すでにピットストップウインドウ内でした)。ただ第3スティントの走り出しのペースでもミックには敵わなかったので、このあたりは改善が必要です。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第4戦スペインGP ニキータ・マゼピン(ハース)


 ふたりがスタートで履いたC3タイヤで苦労したとはいえ、ウイリアムズと同じようにセーフティカー(SC)のタイミングでタイヤを変えることは基本的には考えていませんでした。まだかなりの周回数が残っていたので、ミディアムで最後まで走りきれるかどうかというと、走れない可能性の方が高かったのです。なんとか走りきるためにタイヤをセーブしながら走ることもできますが、そうするとラップタイムがどうしても落ちます。今回のウチの場合はベースとなるラップタイムが遅かったので、それよりも遅く走って1ストップを目指しても結果には繋がりません。


 ウイリアムズを見ると、第3スティントで23周走ったラティフィは、最後の5周でアストンマーティンやアルファロメオに抜かれてどんどんタイムが落ちていました。チームメイトのジョージ・ラッセルも第2スティントを19周走った後、残り37周のところでピットに入りましたが、残り15周くらいの段階でかなりペースが落ちていました。ラッセルの前を走っていたアルピーヌの2台も1ストップ戦略をとりましたが、最後はまったく競争力がなくフェルナンド・アロンソは残り4周でタイヤ交換せざるを得ませんでした。


 SC後の残り56周を、もし1度のピットストップのみで走ろうとするならば、どうしても残り30周あたりまでピットストップを我慢しなければいけなくなります。ですから28周目(残り37周)にピットインしたラッセルのタイミングはちょっと早すぎました。アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)は残り27周まで引っ張りましたが、すでにピットストップを済ませたドライバーたちに抜かれ、最終的にピットストップ1回分ぶんくらいのタイムロスになりました。ですから、実際に1ストップが機能したとは言えません。


 もちろん僕たちがレース前にここまですべてわかっていたわけではありませんが、1ストップを狙えばこのようにタイムロスをすることは想定できていました。仮にジョビナッツィと同じ戦略を選んでも彼以上の結果が出るとは思えなかったので、SC中のピットストップを見送って正解だったと考えています。


 4レースを終え、特にミックは進歩していますが、クルマへの慣れという部分ではふたりともまだまだです。やっぱりF1は簡単じゃないし、物事が進んでいくスピードも速いですから。タイヤの使い方ひとつをとって見ても、FP1の出だしで路面ができていない時に硬くてあまりグリップしないC1(ハード)タイヤで走り出すのに、その直後には柔らかいC3タイヤでタイムを出さなければいけません。これは当たり前ですがとても難しいことです。


 もっと言えば、ひとつのランから次のランの間で何も変わらない(一定した状態で走れる)ということはほぼありません。タイヤの種類、路面状況、風向き、燃料の搭載量など、複数の条件が変わっていることがほとんどです。だからクルマのバランスや感触が変わった時に、何が原因だったのかということを正確に把握するのが特に比較的経験の少ないドライバーにとっては難しいのです。以前は、レースドライバーになる前にテストドライバーとしてテストで走行距離を重ねてからレースに参戦していたのでベースができていました。今はシミュレーターなどが発達してきているものの、やはり実際のF1での走行距離不足を補うのは容易なことではありません。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第4戦スペインGP ニキータ・マゼピン(ハース)

2021年F1第4戦スペインGP ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第4戦スペインGP ミック・シューマッハー(ハース)

■『スプリント予選レース』導入決定も、理想は『レース』との別物扱い

 今年の第10戦イギリスGPで、初めて『スプリント予選レース』を導入することが正式に決まりました。F1側はグランプリの3日間をもっと価値のあるものにしたいと考えていて、スプリント予選レースをはじめ、グランプリを2日間開催にする案などについて様々な話し合いを行ってきました。


 僕自身は会議には出席していませんが、スプリント予選レースに関しては、エンジニアリングの観点からタイヤの使い方やパルクフェルメ規則、ポイント配分などを議論し、それをまとめてマネージャーやチーム代表が出席する会議で話し合ってもらいました。


 週末のフォーマットも変わり、金曜日にFP1と予選、土曜日はFP2とスプリント予選レース、日曜日にレースというスケジュールになります。ウチは新人ふたりというラインアップなので、スプリント予選レースによる影響はあると思います。FP1で2セットのタイヤを使って走っただけでは、とてもその後の予選でクルマの限界を引き出すことはできません。ですから経験のあるドライバーと新人とではどうしても差が広がります。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第4戦スペインGP ミック・シューマッハー(ハース)


 またスプリント予選レースの結果で日曜日のグリッドが決まるということは、土曜日のミスやアクシデントが日曜日にも影響するということですが、個人的にはこれはあまりよくないんじゃないかなと思います。たとえば他車にぶつけられてスプリント予選レースをリタイアすると、日曜日のレースを後方からスタートしないといけなくなるので“泣きっ面に蜂”状態です。


 だから僕はスプリント予選レースと日曜のレースをまったくの別物(結果が影響しないレース)として扱ったほうがいいのではないかと考えていて、あくまで個人的な案ですが、土曜日のFP2を日曜日のレースのための予選にしてもいいかなと思いました。金曜日に通常のノックダウン方式の予選があるので、同じことをしてもおもしろくありません。使えるタイヤの数も限定して、FP2の1時間という時間のなかでタイムを出すというやり方にしても良いのではないでしょうか。


 覚えている方もいるかと思いますが、2019年の日本GPでは台風の影響で土曜日のセッションがキャンセルになり、もし日曜日の午前中に予選ができなければ、FP2の結果がそのままレースのグリッドに反映されるという状況でした。こういう場合はFP2のどのタイミングでレースに向けて燃料を積んで走るのか、いつ予選アタックをするのかなどを考えなければならないので、各チームごとの考え方が見えておもしろいのではないかと思います。


 ちなみにあの時は路面が一番いいセッション終盤にルノーがアタックをかけましたが、他チームは燃料を積んで走っていたので、彼らは2台ともセクター1でトラフィックに引っかかってタイムを出せませんでした。通常の予選は時間が短いのでみんなやることはほぼ見えているし、タイミングも読めます。しかし1時間のセッションで予選アタックとレースに向けた準備もしなければいけないセッションだったら、なかなか相手の動きを読むのも難しくなります。まあ、これはちょっと冒険的すぎたみたいで通りませんでしたけど。


 グランプリ週末のフォーマットが変わるので、見た目的には大きな変化に見えますが、これでもF1としては保守的な動きだと思います。失敗がないように物事を少しずつ変えていっているのである程度は仕方ないですが。土曜日に100km走ってこの週末は誰がレースで速いのかがわかって、スプリント予選レースが日曜日のプレビューにならないことを願いますが、とにかくやってみないとわかりません。新しいものを試してみるのはいいことですからね。

小松礼雄(ハース エンジニアリングディレクター)
2021年F1第4戦スペインGP 小松礼雄エンジニアリングディレクター



(Ayao Komatsu)




レース

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8位フェルナンド・アロンソ31
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10位ランス・ストロール9

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※中国GP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング195
2位スクーデリア・フェラーリ151
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム96
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム52
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム40
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム5
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位BWTアルピーヌF1チーム0
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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