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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】順位を入れ替えた直後に「ありがとう」の無線。ケビンとミックの信頼関係は前進

2022年4月21日

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3年ぶりのオーストラリアGPでは、アルバートパーク・サーキットのレイアウトが変わり、路面も再舗装され、各チームが様々な影響を受けた。もちろんハースも例外ではなく、今回は入賞を逃す結果に。それでも決勝ではドライバーふたりがチームのことを考えて行動し、信頼関係に前進が見えたという。そんなオーストラリアGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。


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2022年F1第3戦オーストラリアGP 
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝13位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝14位


 3年ぶりのメルボルンは週末全体で過去最高の42万人ものお客さんが来場したとのことで、盛り上がっていました。印象的だったのはギュンター(・シュタイナー/チーム代表)のファンがたくさんいたことですね。ケビンのファンも多くて、顔を大きくプリントした応援グッズを持っている人もいました。


 アルバートパーク・サーキットはレイアウトが変わり、路面も再舗装されました。予選ではこの両方の影響を受けましたね。予選結果が振るわなかったのは特にタイヤに苦労したからで、再舗装されて凹凸のないツルツルとした路面でソフトタイヤを機能させられなかったのが原因です。


 サウジアラビアも同じような路面なので兆候はあったのですが、今回はFP2でガソリンの量を軽くして予選練習をした時も全然ダメでした。タイヤをきちんと使えていない時は、コーナーのあるところではタイヤが機能したり、別のところでは機能しなかったりと安定せず、しかもそれがフロントで起きたりリヤで起きたりと一貫性のないクルマになります。僕たちはそれに苦労していました。


 ケビンは木曜の夜から体調を崩していて、金曜日の走行に影響が出ました。しかしそれでもクルマやタイヤへのフィードバックは相変わらずとてもよかったですし、プログラムも通常通りにこなして、周回数もミックと同じくらい走ってくれました。しかし、本当のクルマのポテンシャルがどこにあるかというのは見極めづらかったですね。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 ただ金曜の体調不良を踏まえても、ケビンのQ1敗退という結果は想定外でした。Q1はプッシュ(計測)→クールダウン→プッシュのサイクルを2回やろうと思っていたのですが、2度目の計測ラップ前にセッション残り時間2分1秒のところで赤旗になりました。アルバートパークはアウトラップに2分4秒ほどかかるので、赤旗の後はすぐにコースに出ないと間に合いません。それでもアタックに向かわなければならないなかで、ピットレーン出口でセッション再開を待っているうちにタイヤが冷え、アタックラップではセクター1でコンマ4秒のロスがありました。


 ミックはなんとかQ2に進みましたが、2回目のアタックで新品ソフトを履いてもQ1のタイムを上回ることができませんでした。アウトラップのセクター3で3台のトラフィックに引っかかったのも影響しましたが、それがなくてQ1と同じくらいのタイムを出せていたとしても14番手くらいだったでしょうし、ケビンもミスがなくても1分19秒6くらいだったと思います。ですから残念ながら今回はQ3に進めるポテンシャルはなかったです。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ミック・シューマッハー(ハース)


■スムーズな順位入れ替えに見えたミックとケビンのチームワーク

 予選を失敗したのと、一発のタイムよりレースペースの方がいいというのがわかっていたので、ミックとケビンの戦略を分けてスタートすることにしました。アルバートパークは抜きづらいコースですし、予選で実力を発揮できていない時は他と違うことしないと前のクルマを抜けないので、15番グリッドのミックがミディアムタイヤ、16番グリッドのケビンはハードタイヤでスタートすることにしました。


 スタートタイヤを分ける際は、基本的にはグリッドが前のドライバーが柔らかいタイヤ、後ろのドライバーが固いタイヤになります。というのも前のドライバーが固いタイヤを履いてしまうと、レーススタートで柔らかいタイヤを履いている後ろのドライバーに抜かれてしまう可能性が増えてしまうからです。ただ今回は10周を過ぎたらハードの方がペースが速いというのをわかっていたので、ミックには「もしケビンが迫ってきたら争わずに抜かせるように。そして、もしそれが唯一の理由でレース終盤にケビンがミックの前にいた場合は、再度順位を入れ替える」と伝えました。

ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ミック・シューマッハー&ケビン・マグヌッセン(ハース)


 するとレース前半は、ケビンが周冠宇(アルファロメオ)を抜いてミックの後ろで詰まっていた時に、こちらから何かを言う前にミックはケビンにポジションを譲りました。そしてレース終盤、ケビンのタイヤがダメになりミックが迫ってくると、ケビンもすぐにミックを先に行かせました。もしケビンがチームのことを考えずに自分がミックの前でフィニッシュすることが大事だと思っていたら順位を入れ替えるなんてしないはずです。でもケビンは、自分はタイヤがダメになってきて厳しいけれど、ミックはタイヤも問題ないし、ペナルティを受けたランス・ストロール(アストンマーティン)の5秒以内に入れるかもしれない、とチームにとっての最適な状況を考えてミックを前に出したわけです。


 ケビンは自分かミックのどちらかが入賞できればいいという感じでしたし、自分がどうしてこの位置を走っているのかを理解していて、本来の実力じゃないというのもわかっていました。順位を入れ替えた後、ミックも「ありがとう」と無線で言っていました。ふたりの信頼関係というのもこのレースで一歩前に進んだと思います。


 ケビンとミックはそれぞれキャリアのどのあたりにいるのかというのも違うし、頻繁にコミュニケーションを取っているというわけでもないですが、ケビンはミックにとってのいいお手本となる存在です。ミックはまだ若くて学ぶことも多いし、自信がなかったりもしますが、ケビンがミックを目の敵にして戦うとかそういうこともないので、ミックは自分のことだけに集中できる環境にあります。


 ちなみにFP3ではミックの方がケビンよりもいい状況で、ケビンは「自分のクルマの感触がよくないから、ミックのクルマと比較して、いい部分があったら取り入れよう」と言って実際に予選の前にミックのクルマのセットアップの一部を取り入れました。チームとしてうまく機能していますよね。チーム全体が明るいし、全員がやらないといけないことに集中できる環境になっていると思います。

ケビン・マグヌッセン&ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン&ミック・シューマッハー(ハース)


 新車で序盤の3戦を終えて、ここまで性格の違う3つのサーキットでレースをしてきましたが、やはりポーパシング(クルマの縦揺れ)の影響は大きいです。このクルマでは油圧のサスペンションがなくなって自由にリヤの車高をコントロールできなくなり、メカニカル面でやらないといけないなどの制約はたくさんありますが、それはみんな同じなので言い訳にはなりません。


 オンボード映像を見ると、ハースやフェラーリ、メルセデスはかなりクルマが揺れているのがわかると思います。反対にマクラーレンやアルピーヌは揺れていないですよね。おもしろいのはあれだけ揺れていても速いのがフェラーリで、苦労しているのがメルセデスです。各チームによって方向性も違いますし、まだまだ対応策が完全に理解されていない状態です。あまりにも揺れているとブレーキングに影響が出るし、今回で言えば高速のターン9〜10でミスをしている人も多かった。揺れのせいでクルマの挙動が不安定になり、性能に影響が出ます。ハースとしては、妥協点を探しているところです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 信頼性に関しても、ミックのサウジアラビアGP欠場を除いてすべて完走できているものの、まだ安心できないです。メルボルンでは水曜日の夜にミックのクルマ(新車)を組み上げるためにカーフューを破って深夜3時まで作業をしましたが、実はこの時にケビンのクルマにも漏れが見つかったのでその修復も行いました。これがもしレースで発生していたらリタイアなので、僕のなかではまだ全然満足できるレベルまできていません。


 部品の状況もギリギリなので、もっと余裕があれば3時まで作業することもなかったです。きちんとした状態でサーキットにマシンが届かなければトラックサイドで時間を食うことになり、そうなるとピットストップ練習や空力のチェックなど何かが犠牲になり、そういうものがすべてクルマの性能に繋がります。仕事量が増えれば個人のパフォーマンスにも影響が出るので、そういうところも底上げしないといけないなと実感しています。



(Ayao Komatsu)




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