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【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】完璧な最終戦。F1で戦うために必要な心理モードに入れた

2021年12月25日

 2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。今回は2021年F1第21戦サウジアラビア、第22戦アブダビについて語ってもらった。


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「F1ほどメンタルが重要なスポーツはない」と私は何度も言っているのに、多くの人が鼻で笑って首を横に振る。皆、何も分かっていない。私が話しているときには注意してよく聞いた方がいい。私の口から出てくるのはすべて、天才による得難い言葉なのだから。


 私はあらゆる経験をし、あらゆるものを見てきた。本を書いたことだってある。多くのドライバーのキャリアの初期に関わり、そのうちの何人もが後に優勝を飾った。たとえば……。


 なんだね、無礼に言葉を遮って。聞きたいのは角田裕毅の話だって? 追い追いその話をしようとしていたところだったのに。ええと、F1ドライバーにとって、心理的な要素が何より大切だという話だったね。ドライバーは、マシンを信頼していなければ、いい走りはできない。自分の思いどおりにマシンが動くと100パーセント信じられる状態であって初めて、ドライバーは真の能力を示すことができるのだ。そうでなければ、疑心暗鬼に陥り、それがパフォーマンス不足につながる。

2021年F1第22戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 アブダビGPの週末は角田のここまでのキャリアのなかで一番の出来だったと思う。FP1では5番手でセルジオ・ペレスの4番手タイムとの差はわずか0.015秒。FP2では7番手、FP3では6番手で、プラクティスではピエール・ガスリーに3対0で勝った。予選での角田も素晴らしかった。Q1で5番手、Q2で8番手、Q3で8番手だ。ガスリーはQ2落ちしたから、予選でも角田の勝ちだった。そして決勝は、終盤にセーフティカーが出動し、皆さんもご存じのあの波乱が起きた。しかしその展開のなかでも、角田はチームメイトより上位でフィニッシュした。


 つまり、角田は週末を通してすべてのセッションでガスリーに勝ち、決勝では4位、つまり『ミスター・ベスト・オブ・ザ・レスト』の座に就いたのだ!


 カタールから、こうなる兆候は見えていた。角田は常に予選でトップ10に入っていたのだ。ただ、決勝スタートをうまく決められなかったり、戦略が間違いだったりして、良い結果につなげられなかった。それでも明らかに速さはあったし、マシンを信頼して走れているように見えた。ジェッダでは特にそれを強く感じた。あそこは“F1サーキット”と呼ぶにはあまりにもクレイジーな場所で、自分のクルマを100パーセント信頼して走れる状態でなければ、すぐにミスが出てしまう。

2021年F1第21戦サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第21戦サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 角田はアブダビで完璧な週末を過ごし、良い形でシーズンを締めくくった。ひとつもミスをせず、すべてのセッションで非常に良いラップを走った。金曜日にエンジニアから「ターン16ではトラックリミットに近かったね。そこまで近づかないで」と言われた時、角田は「速く走るにはそうしなきゃ」ときっぱり答えていた。そして週末を通してトラックリミットぎりぎりで走ることに挑み続けたのだ。Q3最初のランでリミットを超えてしまったのは残念だったが、この週末、彼はしっかり自信を持って走っていたと思う。

■謎が解けた! 角田裕毅が輝き続けるために必要なこととは……

 今の私は、全戦グランプリの現場に出かけたりはしない。コロナ禍で、国境をまたぐ移動には、銀行に融資を申し込む場合よりも多くの書類を用意しなければならないから、できる限り自分の国から出ないのが得策だ。それでも私はサーキットで起きていることすべてを把握している。関係者全員を知っているし、彼らの方も私を知っている。私が知らないところで起きていることなど、何ひとつない。


 最終戦の後で複数の知り合いから聞いたのだが、シーズン終盤、ヘルムート・マルコは超接戦でタイトルを争っているマックス・フェルスタッペンのサポートで頭がいっぱいで、アルファタウリを訪れることが減ったという。つまり、マルコが角田に無用なプレッシャーをかけに来なくなった時期と、彼が輝き出した時期は一致するわけだ。


 謎が解けた。マルコを角田の半径50メートル以内に近づけなければいいのだ。2022年も彼の活躍が見たければ、マルコを遠ざけておくこと。そうすれば角田は輝き続ける。この私が言うのだから、間違いない。

2021年F1第21サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)
2021年F1第21サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)

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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。


 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。


 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。


 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。



(Eddie Eddington)


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