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ファンの期待に応える新たなスポーツカー構想も。 三部敏宏社長が話すF1撤退後のホンダ:後編【大谷達也のモータースポーツ時評】

2021年7月29日

 モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。今回のテーマは、ホンダ第9代 三部敏宏社長のインタビューを通して推察する『F1撤退後のホンダ』についてです。


* * * * * *


 自動車メーカーが主役となるモータースポーツでは、モータースポーツで用いられるテクノロジーと自動車メーカーが生産する製品の間に一定の結びつきが求められる。
 
 なぜなら、自分たちが販売する製品と無関係なモータースポーツに参戦しても、自動車メーカーにとっては旨みがないからだ。裏を返せば、モータースポーツに参戦する自動車メーカーは、必ずといっていいくらいスポーツモデルを販売している。


 F1に参戦するメルセデス・ベンツ、フェラーリ、ルノーがいずれもスポーツモデルをラインナップしていることからも、この事実は裏付けられる。


 では、現在のホンダはどうか?


 たしかにフラッグシップとしてのNSXは存在するが、軽自動車のミッドシップスポーツ S660は、2022年3月をもって生産を終了することが発表された。つまり、“ホンダ・スポーツ”の歴史は、いまや風前の灯火といっていいだろう。

ホンダNSX 2020年モデル
ホンダNSX 2020年モデル

ホンダS660 Modulo X 特別仕様車
ホンダS660 Modulo X 特別仕様車


 こうした状況に対し、著名な自動車ジャーナリストである清水和夫氏がグループインタビューの席で鋭く切り込んだ。三部社長に対して「やっぱり200万円から250万円くらいで楽しいクルマが出てこないと、将来的にお客さんのホンダ愛が消えている恐れがある」と指摘し、“手軽なホンダ・スポーツ”の誕生を切望したのである。


 これに対する三部社長の反応は、驚くほど率直なもので、私は大いに心を打たれた。その言葉をここで紹介しよう。


「まったくご指摘のとおりで、(ホンダの)商品ラインナップはちょっと問題があって、今後少し見直していくつもりです。いまはまだ、なにを打ち出すかは申し上げられませんが、軽自動車と小さなミニバンだけで戦う気もさらさらないので、次の時代のホンダというものを少し見直していこうと思っています」

ホンダ・フリード。2008年5月発売以来、シリーズ累計販売台数が2021年6月末時点で100万台を突破した。
ホンダ・フリード。2008年5月発売以来、シリーズ累計販売台数が2021年6月末時点で100万台を突破した。

ホンダの軽乗用車『N』シリーズ。N-BOX、N-WGN、N-VANの累計販売台数が2021年6月時点で300万台を達成。
ホンダの軽乗用車『N』シリーズ。N-BOX、N-WGN、N-VANの累計販売台数が2021年6月時点で300万台を達成。


 三部社長が想定しているのは、まさに清水氏が提案したような「ちょっと頑張れば誰にでも買えるスポーツカー」だと言う。


 三部社長が続ける。「八郷さんの時代からずーっとそういうのはあって、研究はしてきたんですが、なかなか発売するには至りませんでした。いずれにせよ、いまからいきなりEVの時代に飛ぶわけではなく、コンベンショナルな(内燃機関を使った)技術を使う時代はあと10何年間も続くので、そういった部分をやっていこうという考えはあります」


 内燃機関を用いたスポーツモデルを発売するのであれば、モータースポーツ活動がこれまで同様、重要となることは間違いない。ちなみに三部社長は7月中旬に行なわれたスーパーGT第4戦もてぎを視察。関係者と議論を重ねてきたという。


「(レースには)ずっと行きたいと思っていたんですが、コロナの影響があるから行っちゃダメだと周りの人間にいわれていたんです。でも、そんなことしていたら、いつまで経ってもいけないので、『もう、いいんじゃない?』と言って出かけてきました」


「最近のホンダは、四輪事業が儲かっていないと指摘されることが多く、このためクルマ文化を少しおろそかにしていた部分がありました。ただし、今後は『これはこれ、それはそれ』という考え方でやらなければいけないと思っています」


 三部社長の人となりに触れて、彼は率直な情熱家で、思ったことはすぐに進めないと気が済まない人という印象を私は抱いた。


 大企業のトップである以上、ときにはポーカーフェイスを駆使して人を煙に巻くことも必要なはずだが、三部社長はとても正直に胸の内を語ってくれる人物だと私の目には映った。


 もちろん、ホンダのような大企業では、トップの考えがすべてそのまま実現できるとは限らない。取締役会や株主からの同意が得られなければ、前に進められないことも多いだろう。この点、創業家出身で自身大株主でもあるトヨタ自動車の豊田章男社長とは大いに立場に異なる。


 それでも、私は三部社長の純粋さに期待をかけたいと思った。そんな人を魅了する力が、三部社長にはあったのだ。


 初代社長の本田宗一郎氏から数えて5代目の吉野浩行元社長以降、ホンダのトップは5年から6年で交代している。そしてある世代の社長がF1参戦を決めると、その次か、その二世代後の社長がF1からの撤退を発表し、これに続く社長がF1復帰を決断するという歴史を繰り返してきた。ちなみに第4期のF1参戦が具体的に検討され始めたのは2012年のこと。それは、第3期F1が2008年に終わってから、わずか4年後のことだった。


 その第4期は第7代伊東孝紳社長が復帰を決めて、第8代八郷隆弘社長が撤退を発表した。では、第9代三部社長の役割はなんなのか? 私は期待を胸に秘めながら、新社長が決断を下すときを待つつもりだ。

スーパーGT第4戦もてぎを視察する三部敏宏社長
スーパーGT第4戦もてぎを視察する三部敏宏社長



(Text:Tatsuya Otani
Photo:Shigenobu Yoshida/Honda)




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