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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】成長したケビンが最高のカムバック。クルマの速さは本物

2022年3月24日

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。2回目のプレシーズンテストを前に、ニキータ・マゼピンの後任としてケビン・マグヌッセンがチームに復帰することが決まり、ハースは求めていた経験豊富なベテランドライバーとともにシーズンを戦えることになった。


 迎えた開幕戦では、そのマグヌッセンがトラブルを抱えながらもミスのない走りで予選Q3に進み速さを披露。決勝でも5位入賞を果たし、ハースに2シーズンぶりのポイントをもたらした。昨年シーズンを諦めてクルマの開発に力を注いだことが実を結んだ形だ。そんなバーレーンGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。


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2022年F1第1戦バーレーンGP 
#47 ミック・シューマッハー 予選12番手/決勝11位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選7番手/決勝5位


 タイミングとしては前回のコラムを書いた直後ということになるので少し遡りますが、ニキータの後任としてケビンがチームに戻ってきてくれました。チームとしてケビンを選んだのは、やはりF1経験があるということが一番です。ウチには基準になるドライバーが必要なので、F1でしっかりとしたレース経験があり、速さがあることをわかっているというのは必須でした。


 そしてケビンはチームのことをよく知っていますし、彼の性格的にもシンプルにレースで結果を出したいだけなので、今のチーム状態にはぴったりはまると思いました。なので、いろいろな面でうってつけです。チームの反応は大多数が驚くと同時に喜んでいました。昨年チームに加わったばかりでケビンを知らないメンバーのなかにはアントニオ・ジョビナッツィに来てほしいと思っていた人たちもいましたが、開幕戦の結果でなにも疑問がなくなりましたよね。


 その開幕戦を振り返っていこうと思います。まずは予選についてですが、僕たちはQ3を戦う想定で最初からプランを立てました。数値的にはQ1をソフトタイヤ1セットで通過できる予想だったのですが、大きなミスや黄旗でQ1敗退ということだけは避けたかったので2回走ることにしました。結果的にはケビンもミックも1度目のアタックのタイムで大丈夫でしたが、開幕戦なので慎重にQ1を通過することを優先しました。


 Q2では2アタックの予定でした。ミックは残念ながら2度目のアタックを上手くまとめられずに12番手でQ2敗退となりました。競争力のあるクルマで速いチームメイトと走るということは、それなりにプレッシャーになるので、今回はこれを上手く処理できなかった感じですね。ミックにとっては少なくともF1ではこれが初めての経験なので、この状況を自分のなかでどう消化して対応するのかというのが当面の課題になります。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ミック・シューマッハー(ハース)


 一方のケビンは、非の打ち所のない予選をしてくれたと思います。油圧関連の問題があって、Q1の2回のアタックの間にもオイルを補給していたのですが、状況は悪化するばかりでした。Q2の1回目のアタックを終えた段階で、どう考えても走れるのはあと1周あるかないか。Q2でもう一度アタックをすれば、仮にQ3に進出できたとしても、まったく走れないことが予測されました。幸い1回目のタイムがよかったので、このタイムでQ2を通過する可能性にかけて、アタック後はガレージでセッションが終わるのを待ち、無事に7番手でQ2を通過しました。


 Q3では新品タイヤを2セット持っていたものの、この問題で1周走れるかどうかだったので、セッション終盤までガレージで待機。そして最後の1回のアタックにかけて、残り時間3分15秒になったところでケビンをコースに送り出しました。しかし心配していた通りアタックラップ中のターン8を通過したところでオイルレベルが完全に低下し、油圧も下がっていきました。油圧がある一定のレベル以下になればパワステもなくなりますし、ギヤボックスも壊れます。とにかく危険なのでアタックをいつやめさせるか、コーナー毎にランオフエリアの状況を頭に浮かべながらデータを見ていました。


 だからこそ最終コーナーを通過してくれた時はホントにホッとしました。とにかく壊れる寸前だったのでコントロールラインを通過してすぐに1コーナーでクルマを止めるように指示を出しました。最後のアタックではケビンもミラーでオイル漏れを見ており、リヤタイヤが滑っている感じもしたとのことです。こんな状況でしたが最高の仕事をしてくれたと思います。


 アタックの前にはパワステを突然失う可能性もあることを伝えましたが、彼は一言「わかった」と言ってまったく動揺もせずに出ていきました。予選後には「アタックさせてくれてありがとう!」なんて逆に感謝されましたが、僕は「いやいや、パワステがなくなるかもしれない危険な状態でこんなアタックをしてくれてこちらこそありがとう」って。ケビン本当に成長したなぁって思いました。予選結果は7番手だったわけですが、Q2のタイムを考えるとバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)を抑えて6番手も可能だったと思います。フェラーリ、レッドブル、メルセデスのビッグ3に次ぐ位置なのでとても嬉しかったです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

ギュンター・シュタイナー代表&ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP予選 7番グリッド獲得を喜ぶギュンター・シュタイナー代表&ケビン・マグヌッセン(ハース)

■ミスのない走りでケビンが5位入賞。信頼性に課題を抱えるも「まだまだ伸び代はある」

 レース戦略は基本的に2ストップを想定していました。ミックは1周目にエステバン・オコン(アルピーヌ)にぶつけられてスピンしてしまい、ポジションを落としました。第2スティントはミディアムタイヤで行きましたが、なかなかペースが上がらず。ソフトに戻した第3スティントはいいペースで走れました。


 セーフティカーが出た時は10番手で、もしピットインすれば後ろの3台に抜かれる位置でした。ただし、ピットインしなかった場合に彼らより古いタイヤでポジションを守れるかどうかはかなり疑問で、ミックに「タイヤはこのままで再スタートいけそうか?」聞いたところ「いけると思う!」と言うので、そのまま行きました。が、結果的にはこれがミスで、リスタート後にその3台に抜かれて11位フィニッシュ。ピットインして1台でも抜き返せていれば10位だったので、これは失敗しました。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ミック・シューマッハー(ハース)


 ケビンは最初のスティントでセルジオ・ペレス(レッドブル)やジョージ・ラッセル(メルセデス)とバトルをしてちょっとタイヤを痛めてしまいましたが、それでも慎重にピエール・ガスリー(アルファタウリ)を抑えて走行。第2スティントは予定通りソフトで行き、ミディアムを履いたガスリーに差をつけることができました。そして2回目のストップは、ガスリーに反応する形でピットイン。タイヤの温まりが悪く一度は抜かれたものの、ガスリーがハードタイヤを履いていたこともありすぐに抜き返すことができました。


 そのガスリーが止まりセーフティカーが出た際に後ろのボッタスがピットインしたことを受けて、ケビンも再度ピットイン。レース再開後はこれまたまったくミスのない走りでボッタスを抑えきり、見事5位入賞。最高のカムバックとなりました。


 昨年とは大きく変わった今年のクルマですが、確実に前車についていきやすくなりました。また、今年のウチのクルマは競争力があるので接近戦もできてホントに楽しかったです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 開幕戦を終えての手ごたえとしては、やはりバルセロナテスト2日目にポンと出せた1分21秒5というタイムの評価は正しかったんだなと。それでもビッグ3に続けるとは思っていなかったので、今このレベルにいることはチームにとってとても明るいニュースです。昨年1年をすべて棒に振って開発してきたことが実り本当に嬉しいです。


 信頼性という意味では予選の問題でもわかるように、まだまだ綱渡り状態でまったく安心できません。次戦サウジアラビアGPでも信頼性の確保は第一目標です。今はまだ問題を抱えているチームがあるので、彼らが手こずっている間になんとしても完走してポイントを稼がなきゃいけないんです。大きいチームはそのうちどんどん速くなってきます。それまでにとにかく獲れるだけポイントを獲らないといけません。しかし信頼性第一でやっているので、いろいろな面でクルマの性能すべてを引き出すところまではいっていないというのが現状です。ですから性能的にまだまだ伸びしろがあるので、信頼性を確保しながら性能面をどれだけ早く詰めていけるかというバランスが重要になります。

小松礼雄エンジニアリングディレクター&ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP 小松礼雄エンジニアリングディレクター&ミック・シューマッハー(ハース)

2022年F1第1戦バーレーンGP ケビン・マグヌッセンの5位入賞を祝うハースF1チーム
2022年F1第1戦バーレーンGP ケビン・マグヌッセンの5位入賞を祝うハースF1チーム



(Ayao Komatsu)




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