「チェッカーフラッグ。P5。5位だ。本当によくやったよ」
「フゥ〜〜〜! みんな、ありがとう。ポジションを聞いたら、もっと行けばよかったかもって思うけど、まだレースじゃないからね。でも悪くない、実に悪くないよ!」
オーストリアGP、雨まじりの予選でジェンソン・バトンの走りが冴え渡った。マクラーレン・ホンダになってから自身初のQ3進出を果たし、どんどん路面が乾いていく状況で5番手のタイムを記録してみせたのだ。
上位のペナルティによって3番グリッドを得たバトンは、スタートで2番手に浮上。しばらくフェラーリのキミ・ライコネンを抑え込んだ。
「7周目まで抑えられるとはビックリだし、上位のバトルを楽しんだよ」
しかし、9周目にピットストップを終えてしばらくすると、前にはソフトタイヤで引っ張るフェリペ・ナッセが立ちはだかった。今季は下位に低迷しているザウバーとはいえ、ストレートではなかなか抜くことができない。
「オーバーテイクするのには、とても苦労したよ。僕らよりペースが遅いはずのクルマでもストレートの中盤までには消え去ってしまうんだ。ストレートエンドでは捕まえることができるけど、それまでに追いついていないとオーバーテイクを仕掛けることは難しい」
そう振り返るバトンに、レースエンジニアのトム・スタラードから檄が飛んだ。
「ジェンソン、いい仕事だ。ここでナッセを、やっつけろ!」
21周目のターン3でDRSを使ってナッセを抜き去ると、バトンのペースは再び好転した。25周目には、スーパーソフトでスタートから引っ張るロマン・グロージャンも抜いて、7位まで挽回してきた。
その後、セバスチャン・ベッテルのタイヤバーストでセーフティカー導入となり、予定どおりピットに飛び込んで最後のタイヤ交換を終えると、前方にロングスティントで粘るナッセが再び現われた。
タイヤのデグラデーションを気にして攻めきれないバトンに対して、スタラードは再びアタックの許可を出す。
「ここでレースを前に進めよう。(ナッセに対して)マキシマム・アタックをしろ!」
待ってましたとばかりにバトンはプッシュを開始し、翌39周目のターン2でナッセの隙を突いてパス。またも、7位まで浮上した。
そのころフェルナンド・アロンソは「ESパックのエラーが出ている」と訴え、ピットからの指示を受けてシステムのフェイルクリアを実施。実際にERSの回生が止まるわけではないものの、2度のリセットを経てもエラー表示が再発するため、安全を見越してリタイアを選ぶことになった。
一方バトンは、前にいたバルテリ・ボッタスがピットインしたことで6位に浮上。60周目にはダニエル・リカルドまでタイヤの性能低下に耐えかねてピットインしたため5位まで順位が上がったが、バトン自身もタイヤのデグラデーションに不安を抱えていたため、新品のウルトラソフトに換えて猛追してくるリカルドに対しては「頑張って戦わなくていいぞ」とスタラードからアドバイスされ、道を譲った。
それでも上位の自滅がベッテルのみというレースで、3強チームに次ぐ6位を得たことは大きかった。なにより、久々にレースの面白さを味わうことができたのが、バトンにとっては大きな収穫だった。
「ペース自体すごく速かったわけじゃないけど、戦略面でうまくやれたし、クルマも走るたびにどんどん良くなっていった。そういう完璧な週末というのは毎回あるものじゃないからね。とにかく上位で戦えるレースというのは、とても楽しいものだよ」
(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)