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森脇の視点:ホンダには「F1マインド」が必要だ

2016年3月11日

 来週いよいよ2016年のF1シーズンが開幕。やはり気になるのは、マクラーレン・ホンダの仕上がりだ。今回は森脇基恭氏に、新体制で2年目に挑むホンダを、どう見ているのか聞いた。

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 2015年にホンダはF1へと復帰して、大変な苦戦をした。それはF1をやるにあたって「こうじゃないとF1は戦えないんだ」という考えが、ホンダになかったからだと思います。ホンダ特有の「過去にこだわらない、いまの自分たちでやる」という文化があって、それには良いこともあるけれど、悪いこともある。かつてアイザック・ニュートンは、自分が何かを発見したのだとしたら、それは過去の「巨人の肩の上に乗っていたからだ」と言ったという有名な話がある。まったくそのとおりで自分が何かを発明したとしても、自分ひとりで考えたわけじゃない。昔からの積み重ねがあって、誰かの助けを借りて、たまたま閃いたというだけ。だから、過去を捨てることはできないし、捨ててはいけない。

 F1とは何か、何が必要なのか、どういうメンバーをそろえればいいのか、いまのパワーユニットのキモは何なのか、どういう技術があれば勝てるものが作れるのか。そういうところを、F1への挑戦を始める前に、もっと自分たちで揉んで、考えるべきだった。そこが抜け落ちていて、何も知らないまま苦労することになってしまった。

 これじゃダメだろうということで、今季はF1の経験がある長谷川さんをトップに据えた。F1を知っている、経験があるというのは大切なことで、自分たちが、どういう方向に向かって弾を撃って、的に当てるためには、どうすればいいのか──そこを、ちゃんと考えられる人であるならば、そこだけで一段上がると思います。目標を設定するには、レギュレーションを理解して、どうして敵は強くて自分たちはダメなのかを分析しなければいけない。まずは現状を把握すること。最大燃料流量が1時間あたり100キロだと、理論的には1680馬力が出る。最大燃料搭載量は100キロ。それをどうやって使うのか、効率の問題になる。そのためにはエンジン本体を、どうするのか。MGU-Hは回しっぱなしにしてアシストしなければならない。そんな当たり前のことを構築するには、どうすればいいのか。自分たちに、その技術があるのか。シミュレーションがちゃんとできれば、いいものを作る技術はある。そこが一番、抜けていたところでしょう。

 市販車の開発なら、モデルチェンジして燃費もパワーも良くなりましたとなれば、お客さんは満足してくれる。でも、F1で「30馬力上がって、燃費も良くなって、重量も軽くなりました」と言っても、敵が31馬力アップしてきたら負けてしまう。相手のある世界だから、自分たちがどれだけレベルアップしたかは関係ない。じゃあ相手は、どこがすごいのか。ライバルを研究して、どうやって900馬力を出しているのかを考える。MGU-Kには上限があるから、エンジン本体のパワーが圧倒的なんだろうと推測できる。1.6リッターでパワーを出すためには、どれだけブーストをかけなければならないのか。そのためには大きなコンプレッサーが必要だ──これを最初に考えて、相手と戦い、なおかつマクラーレンと話をして、自分たちの主張をする。ライバルに勝つために、こういうパワーユニットを作るから、それをクルマに収めてくれよと話す必要があった。

 新しく総責任者となった長谷川さんが、2016年のパワーユニット開発にどこまで関与できたのか、わかりません。だから新体制での効果が出てくるのは……もしかしたら今シーズン終わりかもしれない。すでに完成しているパワーユニットに対して「これじゃダメだ」と思っても、改善すべきところは、トークンを使って変えられるようなことじゃない。ものの考え方とコンセプトが変わらないと、どうしようもない。そうなると長谷川さんが、どれだけ現状を変えられるのか。

 ただひとつ、変えられる可能性があるのは「F1マインド」を持ち込むこと。全員が「F1とは厳しい世界なんだ」「自分たちが30馬力アップしても喜べる世界じゃないんだ」と理解するだけでも、変わると思います。ホンダはF1に、もう足を突っ込んでしまったんだから「F1マインド」を持って、戦うしかない。

(F1速報)


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