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【中野信治のF1分析/第12戦】リカルドならではのカムバックアプローチ。加速する角田裕毅とアルファタウリの進化
2023年7月26日
ハンガロリンクを舞台に行われた2023年第12戦ハンガリーGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季9勝目を飾りました。今回アルファタウリから角田裕毅のチームメイトとしてF1復帰を果たしたダニエル・リカルドの走り、そしてリカルド加入によって生まれる角田とアルファタウリにとってのメリットなど、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フェルスタッペンが今季9勝目を飾り、レッドブルが1988年にマクラーレン・ホンダが記録した開幕11連勝記録に並ぶなど、トピックスも多かったハンガリーGPは、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が2年ぶりのポールポジションを獲得した予選も含めて、非常に見応えがありましたね。
今回の予選では、F1の持続可能性に向けた取り組みの一環として“Alternative Tyre Allocation”(ATA/代替的なタイヤ配分)が初めて試行されたことで、予選Q1はハードタイヤ、Q2はミディアムタイヤ、Q3はソフトタイヤの装着が義務となりました。それもあり、車両とタイヤのマッチングも予選重視にするのか、決勝重視なのかで一層変わるため、フリープラクティス(FP)の段階から、より深い部分での戦いが繰り広げられたと感じます。
特にQ1、Q2を突破したい中段以降のチームのなかには、(Q3で使用される)ソフトよりも、ハードやミディアムに合わせ込んでいたと思われるチームもありました。またメルセデスのようにハード、ミディアムでタイムが出ず(編注:ジョージ・ラッセルはQ1敗退で18番手)、でもソフトを履いたQ3ではハミルトンがポールポジションを獲得したりと、ATAによってクルマの(セットアップの)作り方にも変化が見られ、非常に見応えのある予選でした。
■リカルド加入は角田裕毅の成長に繋がる
そして大きな話題として、今回のハンガリーGPよりニック・デ・フリースに代わってダニエル・リカルドがアルファタウリからF1復帰を果たしました。やはり、トップチームで長く走っていたドライバーだけに、リカルドのレースウイークの進め方は見ていて非常に興味深いものでした。急な参戦とはいえ決して無理をすることなく、クルマを理解するというところから確実に進めていました。
アルファタウリでは事前テストもなく、初めて乗るクルマですから、最初は限界を探りながらの走りとはなったでしょう。ただ、そのなかで一番興味深かったのは、リカルドはFPから比較的高速のコーナーには早く順応していて、そこでは早い段階から(角田)裕毅とほとんど差がありませんでした。もっともタイム差が出ていたのはブレーキングです。裕毅は巧みなブレーキングを見せ、FPではリカルドよりも明らかにコーナーの奥でクルマを止めて、タイムを稼いでいました。
FPでのリカルドはかなり手前からブレーキングし、ブレーキング時の踏力も少なめでした。そのためFPではブレーキを使いきれていない、攻めきれていないという印象でした。F1に久しぶりに乗ると、一番タフで戸惑うポイントはブレーキングです。その部分を予選に向けて、雨でFP1を走れなかったなか、FP2からFP3にかけて徐々に修正し、予選のQ1でまとめてきました。
裕毅とリカルドは、同じマシンを走らせますが、ブレーキの使い方、走らせ方は結構違います。ただ、どちらの走らせ方でもクルマの限界を引き出して走っており、それゆえにQ1でもタイム差は0.013秒とほぼ同じ。走らせ方が大きく異なるふたりが乗ってもタイムがほぼ同じということは、クルマの動きの限界に達しているということです。つまり、あとはクルマの方で速くさせるアプローチをしないといけない、そうチームはならざるを得ないですね。
イギリスGPまでは裕毅とデ・フリースの若いふたりでしたから、アルファタウリの立場からするとマシンのポテンシャルやセットアップの部分で見えない部分があったのでしょう。しかし裕毅とは異なる走らせをするリカルドが、裕毅と同じようにクルマの限界を引き出しているので、それがマシン開発のスピードアップにも繋がっていくと考えています。
今回、予選でリカルドは15番手でギリギリQ2進出を果たし13番手。裕毅はリカルドから0.013秒差の17番手でQ1敗退となりました。これにはさまざまな理由があると思います。2021年、2022年と裕毅にはピエール・ガスリーという強力なチームメイトがいて、裕毅は常にガスリーに追いつけ、追い越せという挑戦者の立場でした。その状況は裕毅らしさを存分に発揮できたところもあったと感じます。
2023年シーズンを迎え、フル参戦初年度のデ・フリースが加入したことで、裕毅がアルファタウリのエースとなりました。2シーズンを経験した裕毅は今年開幕からデ・フリースに勝ち続け、過去2シーズンとはまったく違う追われる立場、『勝って当然』と言われるプレッシャーもかかる立場になりました。
それはチームメイトがリカルドに変わっても同じです。そんななか、FPから予選へ向けてリカルドが徐々に、そして確実にドライビングを修正してきていました。それゆえに、裕毅のQ1最後のアタックは、久しぶりにかなり大きなプレッシャーを抱くものとなったのではないでしょうか。これまでとは違ったプレッシャーのなか、最後のアタックではタイムを出しきれずに終わりました。
おそらく、あと0.1秒上げるポテンシャルはあったでしょう。まとめきれなかった理由のひとつとして、少しは『(リカルドに)勝って当然』と言われることでのプレッシャーもドライビングに影響していたのかなとも感じました。ただ、これは裕毅にとってすごくいい意味でのラーニングカーブ(学習曲線)のひとつになると思いますし、今後の成長過程で大切なポイントにもなると思います。
プレッシャーを感じるなかで結果を出せるのが一流のドライバーです。そういった意味でもリカルドの加入は裕毅、そしてアルファタウリにとってもいい環境が出来上がってきたと思います。ひとりがクルマを悪いと言うよりも、ふたりがともに悪いと言う方がチームは響きます。ルーキーのデ・フリースの言葉はチームに届かなかったのかもしれません。でも、F1で8勝を挙げているリカルドの声なら届くでしょう。そうなると、マシン開発のスピードも上がり、裕毅にとって非常にいい状況が生まれる。そういった状況に進みつつあると感じます。
■デ・フリース、アルファタウリ。それぞれの立場
イギリスGPをもってアルファタウリを離れたデ・フリースについては、ドライバーの立場に立てば、せめてあと数戦は走りを見てもよかったのではないかと感じます。今年のアルファタウリのマシンは、昨年デ・フリースがアレクサンダー・アルボンの代役としてイタリアGPにスポット参戦した際のウイリアムズよりも難しいクルマだと思います。
そういった部分でも、デ・フリースは適応に時間がかかってしまったと感じますね。チームメイトの裕毅はアルファタウリ3年目で、チームの作るクルマのくせもわかっていますから、圧倒的に有利な立場にあったのは裕毅です。さらに経験を積んで、ここ3年間のなかでもっとも乗れている裕毅との直接比較というのは、デ・フリースにとっては難しい状況だったことは確かです。
これらの状況を鑑みて、もう数戦はデ・フリースを乗せてもよかったのではと思います。ただ、チームとしてはチャンピオンシップ、コンストラクターズの順位を考えても『もうこれ以上は待てない』という考えだったのでしょう。ここから後半戦に向けて、そして来年に向けてチームの立ち位置としては、チームの価値を下げず、上げていくためにも、すぐにでも変化が必要だったということは頷けます。
もし、アルファタウリのクルマに今よりもスピードがあれば、デ・フリースの習熟のスピードも早かったでしょうし、余裕を持って仕事を進めることができたはずです。しかし、今年のアルファタウリのクルマはそうではなかった。非常に難しいクルマを乗りこなさなければならないという状況のなかで、デ・フリースはF1ルーキーとしての学びを進めるしかなかったのでしょう。
また、裕毅は8勝も経験しているリカルドとハンガリーで互角の走り、トップドライバーの仲間入りをしていると言ってもいい走り見せていました。そんな領域に達したドライバーを相手にデ・フリースは戦わなければならなった。そう考えると……仕方がなかったことなのかもしれません。
【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)
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12/6(金) | フリー走行1回目 | 結果 / レポート |
フリー走行2回目 | 結果 / レポート | |
12/7(土) | フリー走行3回目 | 結果 / レポート |
予選 | 結果 / レポート | |
12/8(日) | 決勝 | 結果 / レポート |
1位 | マックス・フェルスタッペン | 437 |
2位 | ランド・ノリス | 374 |
3位 | シャルル・ルクレール | 356 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 292 |
5位 | カルロス・サインツ | 290 |
6位 | ジョージ・ラッセル | 245 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 223 |
8位 | セルジオ・ペレス | 152 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 70 |
10位 | ピエール・ガスリー | 42 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 666 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 652 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 589 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 468 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 94 |
6位 | BWTアルピーヌF1チーム | 65 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 58 |
8位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 46 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 4 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |