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フランツ・トストが語るホンダF1「彼らはレーシングスピリットを持つ企業だ。だからこそ成功を収めている」

2021年10月18日

 ホンダF1ラストイヤーとなる2021年、あらためて2015年からのホンダのF1活動を総括するシリーズ分冊『HONDA Racing Addict』。第1弾『Honda RA615H』、第2弾『Honda RA616H-617H』に続いて、第3弾『Honda RA618H-619H』が10月14日に発売された。マクラーレンと袂を分かちスクーデリア・トロロッソと再スタートを切った2018年から、レッドブルにパワーユニットを供給し3勝を挙げるまでになった2019年までをフィーチャーした本書は、ホンダF1関係者が今だから話せる逸話や開発ストーリーをまとめている。


 今回は、本誌のなかでトロロッソ(現スクーデリア・アルファタウリ)代表のフランツ・トストが、ホンダとの契約締結からレッドブルへの橋渡しまでをあらためて語ってくれた独占インタビューをピックアップする。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


──2017年当時、ホンダはマクラーレンとの間に問題を抱えていました。トロロッソとホンダの話はどのように進んだのか教えてください。


「私が初めてホンダを訪れ、HRD Sakuraを視察したのは2015年のことだった。新井(康久)さんがF1プロジェクトの総責任者だった時代だ。それ以来ずっと、我々は連絡を取り合い、翌年には手を組もうという話をしていた。だが、そのときはパフォーマンスに問題があった。我々はそれまでにフェラーリやルノーと組んでいたが、当時のホンダはまだそこまでのレベルに達していなかったのだ。そのため、我々はスイッチしないことに決めた」


「その後、ホンダはマクラーレンとの間に問題を抱えてはいたが、パワーユニットが年々改善していっているのは明らかだった。だから我々としては、2018年からホンダのパワーユニットで走るという決断をすべきだと思うようになった。私はHRD Sakuraを何度か訪れて、彼らはこれからパワーユニットを大きく向上させていくだろうと確信した。実際そうなったのは見てのとおりだ。そうして我々は『よし、このパワーユニットを使うことにしよう』という決断を下した。実際に彼らのパワーユニットがいい働きをしたら、レッドブル・レーシングもホンダにスイッチする。そういう計画だった」


──契約の際、どのようにホンダを説得したのですか?


「私が覚えているのは、社長に会いに行ったときに、3つの約束をしたことだ。『2018年は難しいシーズンになります』と前置きした。F1では上にいる者に追いつくには時間がかかるからね。そのうえで約束したのは、まず、『鈴鹿のFP1で日本人ドライバーを走らせます』ということだった。それは実行した。第二に、『あなたたちは2019年にレッドブル・レーシングと組んでレースに勝ちますよ』ということだった。3つめは『日本人ドライバーをF1に連れてきます』という約束だった。つまり、約束したことはすべて実現したことになる」


「今はICE(内燃機関)だけではなく、複雑な構造を持つパワーユニットの開発をしなければならない。マネジメントについて理解し、最適化する必要があるんだ。MGU-Hをどう使うのか、MGU-Kをどう使うのか、バッテリーを最適なかたちで使うにはどうするべきなのか。ICE自体のハードウェアやソフトウェア以外のこういった部分において、ホンダは大きな前進を遂げた。特に2020年末から2021年の冬の間に、さらに大きく前進させた。提携がスタートしたころと比較すると、大きなステップだ。そして今、ホンダのパワーユニットはメルセデスのレベルに達していると私は思う。素晴らしいパワーユニットだ」

約束1:鈴鹿のFP1で日本人ドライバーに走行機会を与える/2019年日本GPのFP1で2018年のスーパーフォーミュラ&スーパーGTチャンピオンの山本尚貴がF1の公式セッションに初出走。ダニール・クビアトから0.098秒遅れの1分32秒018で17位を記録。
約束1:鈴鹿のFP1で日本人ドライバーに走行機会を与える/2019年日本GPのFP1で2018年のスーパーフォーミュラ&スーパーGTチャンピオンの山本尚貴がF1の公式セッションに初出走。ダニール・クビアトから0.098秒遅れの1分32秒018で17位を記録。

■ペナルティも戦略の一部

──2017年、マクラーレンとホンダは、まるでうまくいっていなかった結婚生活がついに壊れてしまったかのように、関係を終えました。にもかかわらず、2018年には無理でも2019年にはホンダのスタッフたちが成果を出せるようになると、当時、何を見て確信したのでしょう。


「エンジニアたちを含め、人々との話し合いのなかでそう思ったのだ。HRD Sakuraとはうまくコミュニケーションが取れていた。エンジニアと話をして、彼らが以前話をしていたときよりもあらゆることについて理解を深めているということが分かった。彼らはやり方さえ見つけられれば、成果に結びつけることができる。私は日本人のことをよく知っていたから、そう思ったんだ。実際、彼らはうまくやってみせた」


──そして迎えた2018年シーズン、ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)が第2戦バーレーンGPで4位を獲得しました。あれでプレッシャーがある程度取り除かれたのではないですか?


「たしかに、素晴らしいかたちでシーズンをスタートすることができた。バーレーンは強力なパワーユニットが必要とされるサーキットだ。そこで、ホンダが正しい方向に向かっているということを、シーズン序盤の段階で示すことができたのだからね」


──しかし、初年度はグリッドダウンペナルティが多かったですね。戦略の一部だったのだと思いますが、新しいアップデートが入れられることは分かっていたのですか?


「我々の哲学ははっきりしていた。私はホンダのエンジニアたちに『信頼性のことは考えないでください』と言った。『来年、レッドブル・レーシングとともに勝ちたいのであれば、今はパワーユニットから最高のパフォーマンスを引き出すことを目指してください』と言ったのだ。その結果としてペナルティを何度か受けた。それは戦略の一部だった」


──2018年のモントリオール(カナダGP)では、あなたはオフィスでホンダとほかのパワーユニットのグラフを見せて、ホンダがどれだけ強力なのかを私に解説してくれましたね。レッドブルが(パワーユニットパートナーを)選択する期限が迫ってきていたころのことです。レッドブルが決断を下すにはいいタイミングでした。


「期限がきたからというよりも、プロセスが進行した結果、ああいう結論にいたったのだ。レッドブル・テクノロジーズ(RBT)からはすべての情報を要求されていた。彼らは詳細にいたるすべての点について明確に把握することを望むからね。特定の日があって、その日のうちに決めるというようなことではなかった。彼らはホンダの仕事を非常に注意深く、きわめて詳細に、集中的に調査した。その結果、ホンダと契約することに決めたのだ」


──レッドブルが様子見していた2018年は、あなた方は単独でマニュファクチャラーのワークス待遇でした。エンジニアにとっては協力し合って働くことができて非常にやりやすかったでしょうし、素晴らしい1年だったのではありませんか?


「もちろんだ。ワークスチームという立場に立ったのは初めてのことだった。パワーユニット側のデザイナーと我々のデザイナーが一緒にじっくり話し合い、エキゾーストシステムやさまざまなユニットを最適化し、重心の面で最も都合がいいように、適切な位置に収めるための道を探った。もちろん、空力についての最適化も考慮に入れる。これは我々にとってまったく新しい感覚であり、経験だった。以前はサプライヤーからパワーユニットを渡されて、『はい、ではこれをマシンに積んでください』と言われて終わりだった。我々は、そのパワーユニットを元にしてマシンを作り上げるしかなかった」


「しかしこのとき初めて、我々のエンジニアの意見も入れて、パワーユニットや周囲のパーツなどのポジションを最適化し、それをもとにしてすべてのことを決めていくことができたのだ。これは非常に大きなアドバンテージになった」


──それによってトロロッソのメンバーは多くのことを学んだことでしょう。その間に経験を積み、前進していくことができたと思います。しかし、2019年にはレッドブルもホンダを搭載することになりました。


「RBTとの協業は、次なる重要なステップだった。私は、RBTはF1で最も優れたエンジニアリング部門だと考えている。彼らが関与するようになってからは、彼らがやり方を決めるようになった。だが、それは我々にとってはプラスでしかない。そこからもまた学ぶことができるのだから」


──トロロッソは長年レッドブル・レーシングのために若手ドライバーたちを鍛える役割を果たしてきました。ホンダを搭載するようになり、レッドブルがあなた方のチームを技術的な観点からもより観察し、事態を見守るようになったことによって、何か状況は変わりましたか?


「活動を始めてから2008年までは、2チームは緊密に協力し合っていた。その後も我々は協力し合うことを望んでいたが、どういうわけか彼らと我々は別のエンジンを使うことが多かった。それによって我々は違うギヤボックスやリヤサスペンションを使うことになった。私はいつも思っていた。『なぜ自分たちでギヤボックスを作らなければならないのだ。RBTから提供してもらうべきなのに』とね。だが、エンジンが違っていては仕方がない。今は同じパワーユニットを搭載しているので、RBTからリヤパートを引き継ぐことができている」

約束2:2019年にレッドブルで勝利する/第9戦オーストリアGPでフェラーリのシャルル・ルクレールとの激闘の末、マックス・フェルスタッペンが優勝。ホンダにとって2015年のF1復帰後初、2006年以来の13年ぶりとなる勝利となった。
約束2:2019年にレッドブルで勝利する/第9戦オーストリアGPでフェラーリのシャルル・ルクレールとの激闘の末、マックス・フェルスタッペンが優勝。ホンダにとって2015年のF1復帰後初、2006年以来の13年ぶりとなる勝利となった。

■優勝後に届いたメッセージ

──2019年は開発面においてホンダはトップチームのレッドブルを重視するようになりました。それでもトロロッソはポイントを獲得し、好結果を挙げていました。ドイツGPで3位、ブラジルGPでは2位を獲得しましたね。


「この数年、我々のチームは技術面で大きく進歩してきた。新しいエンジニアも何人か雇い入れている。かなり改善したと考えている。エアロ部門も設計部門も優れているし、ビークルパフォーマンスの担当者も非常に良い仕事をしている。レースエンジニアもそうだ。こういった要素がすべて揃った結果、競争力の高いマシンを作り出すことができた。もちろん、RBTとの緊密な協力関係も助けになっている。また、ホンダが大きく前進したことは、我々全員にとってプラスに働いている」


──そしてアルファタウリとなった2020年、イタリアGPで優勝し、また一段、上へと踏み出しました。フェラーリのホームでホンダに勝利をもたらしたのです。そんな夢のような出来事が起こるなんて、誰も想像していなかったでしょうね。


「もちろん、チーム全体にとって、ドライバーにとって、非常に感動的な出来事だった。ホンダにとってもそうだ。私はホンダに対して常に『レッドブル・レーシングはあなた方と一緒に優勝しますよ』と言い続けていた。彼らは『なぜあなたたちとではないんですか』と言い、私は『レッドブル・レーシングほど優れたインフラがないですから』と答えた。ところが私たちも優勝することができたんだ。そのとき、社長から『あなた方も優勝できましたね!』というメッセージをもらった。素晴らしい出来事だった。全員にとって喜ぶべきことだった」


──あなたはファクトリーに行って、彼らならやれると判断し、ここまで4年間一緒に仕事をしてきました。あらためてホンダのスタッフについてお聞かせください。


「昔から彼らを知っているが、非常に優秀だ。知識も、情熱も、資金力もある。F1で成功するために必要な要素をすべて持ち合わせている。ホンダはレーシングスピリットを持つ企業だ。だからこそ彼らは成功を収めているんだ」

2020年イタリアGPでガスリーが優勝し、トストは「ホンダの協力と力強いパワーユニットのおかげ」と感謝を語った。
2020年イタリアGPでガスリーが優勝し、トストは「ホンダの協力と力強いパワーユニットのおかげ」と感謝を語った。

約束3:日本人ドライバーをF1に連れてくる/トストは当時、将来的にという約束だった。だが2020年のFIA-F2で角田裕毅が4勝を挙げてランキング3位となり、F1デビュー資格を得たため2021年に7年ぶり日本人F1ドライバーに。
約束3:日本人ドライバーをF1に連れてくる/トストは当時、将来的にという約束だった。だが2020年のFIA-F2で角田裕毅が4勝を挙げてランキング3位となり、F1デビュー資格を得たため2021年に7年ぶり日本人F1ドライバーに。


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『Honda RA618-619H HONDA Racing Addict Vol.3』
発売日:2021年10月14日
定価:1300円(1182円+税)


■HONDA Racing Addict 全4巻購入者全員へのスペシャルプレゼントキャンペーン実施中
 全4巻でホンダF1第四期活動を完全網羅する『HONDA Racing Addict』では、全4巻購入の読者全員へホンダ歴代F1マシンを掲げた特性ポスターをプレゼントいたします。


 さらにこのポスターにはホンダF1第一期から第三期までの全マシンを特集した『グランプリカー名車列伝Vol.8(208ページ)』が無料購読できる電子書籍アクセスコードがついていますので、ホンダF1の全歴史をご堪能ください。キャンペーンの応募には毎号誌面についてくる『応募券』4枚が必要になります。詳細は『HONDA Racing Addict』の誌面をご確認ください。

『Honda RA618-619H HONDA Racing Addict Vol.3』の詳細はこちら
『Honda RA618-619H HONDA Racing Addict Vol.3』の詳細はこちら




(Text:Adam Cooper
Translation:F1 Sokuho)


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