F1で341戦に出走したベテランのキミ・ライコネンは、最近のグランプリ2戦をスイスで観戦することになった。オランダで受けた新型コロナウイルスの感染検査で陽性反応が出たため、あの素晴らしいザントフォールトとモンツァでのレースに参加できず、自宅での自己隔離を余儀なくされたのである。幸いなことに、われらが“アイスマン”は、ソチで開催されるロシアGPでレースに復帰する見込みだ。
しかし、オランダGP欠場が決まる直前に、キミは遠からず私たちに別れを告げることを明らかにした。彼は開幕前から決めていたことを、ついに正式に発表したのだ。2021年のグランプリシーズンは、彼にとって現役最後の年になる。12月にアブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われる今季最終戦をもって、ライコネンはF1を引退する。
その決断を振り返って、キミはこう語った。「今年の開幕前のことだ。長い時間をかけて真剣に考えた末に、アルファロメオ・ザウバーのチーム首脳に『2021年限りで引退する』と伝えた。決して気軽にできる判断ではなかったが、気分はすっきりしているよ」。そして、グランプリ通算21勝をあげてきた彼は、ニヤリと笑いながら付け加えた。「なにしろ、F1を引退するのはこれが初めてのことじゃないからね。すでに一度経験があるんだ」
「すっきりした気分でいられる理由がもうひとつある。グランプリレーシングは僕の人生にとって、とても大きなものだったが、人生のすべてだったわけではない。僕は以前から普通の生活、レースとは何の関係もない生活を大事にしてきた」
そうなると誰もが聞きたいと思うのは、彼がこれからどうするのかだ。キミは言う。「ノープランだ。ひとまず、より多くの時間を家族と過ごしたいという希望があるだけで、あとはゆったりとくつろぎながら、静かな環境で次に何をしたいのか考えたい。F1の世界にいると、日々の生活が信じられないほど組織化されていて、決められたプロセスがあり、タイトなタイムテーブルに縛られる。しばらくの間は、そうしたものから離れていたいんだよ」
「この世界で達成できたことに関しては、ありがたいと思っている。多くのレースで優勝できたし、ワールドチャンピオンにもなれた。それも歴史上最も偉大なグランプリチーム、フェラーリでね。特に誇りに思うのは、こうしたことのすべてを自分に正直であり続け、信念を守りながら成し遂げたことだ。文句を言いたいことなんて、本当に何もない」
キミはドライビングとレースは大好きだが、メディアと仕事をするのはあまり好きではないと公言してきた。彼は笑いながら、こう語っている。「だから、元同僚の多くがやっているように、テレビのコメンテーターとしてサーキットに来るなんてことは期待しないでほしい。2010年と2011年の2年間はF1を休んだけど、その間は一度もグランプリを訪れなかったし、レースを観戦しようとテレビのスイッチを入れたこともなかった。ただの一度もだ!」
「実を言うと、最初の計画では30歳でF1を引退して、その後は人生をエンジョイするつもりだった。だけど、もう42歳近くにもなって、まだグランプリドライバーをやっている。つまり、その当時の考えは間違っていたということだ……」
最後に率直な気持ちを聞いてみた。来年以降、レースが恋しくなることはないだろうか。「もう長いことこの仕事をしてきた。またすぐに戻りたくなるとは思えないね」。そして、ライコネンはこう付け加えた。「モーターレーシングのおかげで、生涯の友だちが何人かできた。それは本当に大切にしたいと思っているよ」
XPB Images
(Mathias Brunner/Translation:Kenji Mizugaki)