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「ロン・デニスはホンダとの契約に反対だった」元チーム代表が告白するマクラーレン・ホンダ失敗の背景
2021年7月29日
ホンダF1ラストイヤーとなる2021年、あらためて2015年からのホンダのF1活動を総括するシリーズ分冊「HONDA Racing Addict」の第1集が発売された。パワーユニットごとに4つのピリオドで編集される最初の巻は『Honda RA615H』を特集。2008年にF1を撤退したホンダがまた復帰するまでと、その初年度である2015年までをフィーチャーした。
今回は、本誌のなかで元マクラーレン代表のマーティン・ウィットマーシュに行った、ホンダとの契約締結とチーム内紛にまつわる独占インタビューをピックアップしてお届けする。
* * * * * * *
──ホンダとの契約をまとめた時の思い出について教えてください。
「契約書に署名して、その場を後にした時かな。実は、この話をマクラーレンの取締役会にかけた時に、ロン(・デニス/元マクラーレン・グループCEO)はホンダとの提携に反対票を投じていたが、マンスール(・オジェ/元マクラーレン共同オーナー)は私を支持してくれた。つまり、この話は決まったも同然だったんだ。でも、ロンはこれを“ウイットマーシュの契約”と一蹴し、くだらないものだと考えていた」
「ホンダは無償でパワーユニットを提供し、シャシー開発にも毎年数千万ドルを提供することになっていた。しかもドライバーフィーのほとんどを肩代わりし、あらゆるPR活動費も負担していたんだ」
「チームにとっては年間で1億ドル(約109億円)以上の価値があり、我々はその資金を必要としていた。勝つために、ワークスのサポートが不可欠だったからね」
──ホンダとの契約は、どのようにスタートしたのですか。また、前回の契約時と同じスタッフもいたのでしょうか。
「私は文字どおり“あちこち”をまわり、ヒュンダイにもトヨタにも行った。そして、ホンダに行き着いたんだ。たしかに、ホンダのスタッフの何名かは前回と同じ顔ぶれだったよ。我々はワークス契約を求めていたから、積極的に売り込んだ」
「しかし、この話をまとめるのには長い時間がかかった。私ともうひとり、より積極的に動いていたのがジョン・クーバー(マクラーレン・コマーシャル&ファイナンシャルディレクター)で、彼は“ミスター頑固”と呼ばれるような人物だった。折衝に当たったのはジョンと私のふたりだけで、当時は2週間に一度のペースで日本を行き来していた」
「私が会議などでホンダに行けないこともあったので、ジョンがすべての交渉をこなさなければならなかったんだ。ホンダとの契約がまとまってから取締役会にかけ、そこでロンが反対票を投じたのは、先ほど話したとおりさ。ホンダとは7年の契約だったよ」
──デニスは何をしたかったのでしょう?
「私の契約じゃなければ、なんでも良かったのだろう。彼がどうしたかったのかは、知る由もない。代替案を出すわけでもなく、ただ承認することに反対していたんだ」
■カスタマーがワークスチームを打ち負かすことは困難
──新たにハイブリッドルールが導入された2014年、マクラーレンはメルセデス製パワーユニットを使用し、翌年からホンダ製パワーユニットを搭載しました。今、振り返ってみるとホンダと組んだ時期が少し早すぎ、あと2、3年は暫定措置としてメルセデスを使用していた方が良かったのではないでしょうか。
「たしかに2、3年なら、妥当な解決策だっただろう。とはいえ、競争力のある優良なワークス契約というのは、そう簡単に転がっているものではない」
「だから、なんとしてでも手に入れなくてはいけないものなんだ。毎年、タイトル獲得を目指しているが、最終的には長期的な勝利を求めているわけだからね。そのためには痛みも受け入れる必要がある」
「最初にホンダと組んだ時代の話だが、1992年のモンツァで川本(信彦/元社長)さんから『この年いっぱいでF1活動を止める』と言われた時に、私はその場にいた。そして、結果がどうなったのかというと、『事前にロンには伝えていたが、彼は聞いていなかった、もしくは理解していなかった』というものだった」
「まあ、よくある話なんだけどね。私は川本さんに『ずっと勝っているし、これからも勝ち続けますよ』と伝えたが、『マーティンさん、勝つだけでは足りないのです』と返された。私は内心、『そのために、我々はここにいるんだ!』と思ったけど、今でも忘れられないやり取りだね」
「実際にホンダは1992年限りでF1活動を止めてしまったので、我々は慌てて駆けずりまわり、同年の12月にコスワースとの契約にこぎ着けた。だが、その時はカスタマーエンジンだったことに胸が痛んだよ……」
──2014年に話を戻しますが、結果的にメルセデスとは最悪の関係になってしまいましたね。
「ディーター・ツェッチェ(元ダイムラーCEO)は、ロンのことが好きではなかったからね。自分を嫌っている相手の顧客になるというのは、あまり良い立場とは言えない」
「メルセデスのカスタマーは、現在ならそれほど悪くないかもしれないが、それでもワークスチームを打ち負かすことは難しい。パワーのあるエンジンを提供してくれるはずがないし、かといってメルセデスと肩を並べて投資するような経済力もチームにはなかったからね」
■我慢の限界で反旗を翻す
──2015年からホンダ製パワーユニットを搭載しましたが、チームは低迷し続けました。なぜ、マクラーレンとホンダの関係はうまくいかなかったのでしょう?
「うまくマネージメントできなかったからだ。我々が最初にメルセデス・エンジンにスイッチした時、実際はメルセデス・ベンツの支援を受けたイルモア製エンジンだった。あのエンジンを使った最初の数年間、特にポール・モーガンが亡くなってからは大きなトラウマになるほどで、パワーも信頼性もなかった」
「そこで私はメルセデスHPP(メルセデス・ハイパフォーマンス・パワートレインズ)を設立し、アンディ・コーウェルを採用した。そして、イルモアのマリオ(イリエン)と衝突しながらも、なんとかして競争力のあるエンジンに仕上げたんだ」
「しかし、2015年にホンダと組んだ時には、そういったマネージメントができていなかった。チームはフェルナンド(・アロンソ)がホンダを批判するのに寛容すぎたし、本来なら止めさせるべきだった」
「というのも、戦略的にパフォーマンスを上げていくには1〜2年はかかるものだし、ドライバーはそんなことを気にはせず、次のレースのことだけ考えていればいいんだ。だが、チームは明らかにフェルナンドに振りまわされていた。彼が事実上の“チーム代表”になっていたからだ。しかし、フェルナンドは2020年のことなど気にもしていなかったし、その頃にはF1から引退するつもりだった」
──今から思えば、最大の過ちはアロンソと契約したことになるのでしょうか。
「フェルナンドをチームに迎え入れたものの、マクラーレン側の準備は整っておらず、うまくマネージメントすることができなかったのだと思う。事実上のチーム代表となったフェルナンドは、もっとも強力な存在となっていたからね」
「ドライバーが力を持ちすぎるのはよくあることで、現在のメルセデスがまさにそうだが、トト(・ウォルフ/チーム代表)はそれに抵抗しようとしている」
「ドライバーはチームの長期的な利益を考えているわけではなく、本質的には利己的なんだ。それこそがドライバーに求める資質であり、だからこそ彼らは強くなり、勝者になれる。だから、チームはドライバーに頼るのではなく、しっかりマネージメントする必要があるんだ」
「でも、当時のマクラーレンではマンスールやザック(・ブラウン/チーフエグゼクティブオフィサー)にも大きな影響力を持つフェルナンドが采配を振るっており、それは本当に馬鹿げていた。その状況に耐えきれなくなった私は4、5年前にマンスールと口論になり、反旗を翻したんだ」
「マクラーレンを離れた後も、2、3年は『もう自分には関係ない』と考えていたほどだ。その後、マンスールと仲直りはしたものの、少なくとも1年間は彼と関係がこじれたままだった。今となっては、マンスールと大喧嘩してしまったことを後悔しているよ」
■革新ではなく蓄積
──予定よりも早く2017年にホンダとの契約が解消になった時は、どう思いましたか。
「2018年はレッドブルではなくトロロッソ(現アルファタウリ)にホンダ製パワーユニットが供給されることになっていたが、将来的にどこに行き着くのか、その結末は明白だった」
「マクラーレンがホンダとの提携解消を発表した翌日に、シェイク・モハメド(バーレーン・マクラーレン筆頭株主)と食事をしたのだが、彼が来るなり私は『モハメド、今夜は眠れそうにもないのですが、なぜだか分かりますか? 2020年か2021年にはレッドブルがホンダと優勝するようになるからです』と伝えたんだ」
「マクラーレンは、なんと愚かな決断をしたのか! 最終的にマクラーレンは年間1億ドル以上に相当する契約と、2021年の世界選手権を制覇する可能性を持ったパワーユニットの契約を両方とも破棄してしまったんだ」
──しかもマクラーレンは、以前のような経済的に強い立場にはいませんよね。
「状況は、つねに変化するものだよ。私がチームに加わった1989年当時、F1はタバコ産業の一部であり、まるでタバコのパッケージを走らせているようだった。でも我々は、ホンダという切り札を手にしていた。彼らはメインスポンサーであり、当時最強のエンジンメーカーでもあったんだ」
「我々は次々とチャンピオンシップを制覇したが、おそらく他のどのチームよりも多くの資金を手にしていた。それが最高のドライバーと最高のエンジニアをチームに惹きつけることができた理由だよ」
──正直なところ、マクラーレンは今季レッドブルが連勝を重ねているのが、相当悔しいのではないですか。
「まさに、“完璧なチケット”だったからね。もし、パワーユニットがトロロッソだけに供給されると考えていたのだとしたら、マクラーレンは大きな読み違いをしていたことになる。パフォーマンスさえ良ければ、いずれレッドブルに供給されるのは明らかだったからね」
「ホンダには独特の文化があり、最初の頃は一緒に働くことができてうれしかったものだ。他のどのメーカーよりも、レース文化が根付いていたと思う。当時は本田(宗一郎)さんがご存命だったことも大きかった」
「そして、そのレース文化は今も残っている。彼らの仕事は極限まで徹底されていて、F1の歴代優勝エンジンを見ると、革新ではなく技術の蓄積に磨きをかけることで偉業が達成されているからだ」
「ロンは性急にことを進めようとしたが、そういう時に人は心を閉ざしてしまうものだ。そこでロンはスタッフをマネージメントするのではなく、“たたいて”動かすことにした。ロンが背後で彼らの頭をたたき、チームはフェルナンドが公の場でホンダを批判するのを許してしまったんだ。そんな状況では、ホンダの力を引き出せるわけがない」
──現在のレッドブルが行っているような情報の共有を、マクラーレンがしていなかったことも明らかですよね。
「同じチームにいても、ロンと私は文化的にまるで違っていたことを覚えていてほしい。ロンは古いタイプの人間で、『情報は与えないもの』だと考えていた。かつてロータスのコーリン・チャップマンも『すべては秘密のまま』にしていたが、私の視点はつねに異なっていた」
「共同作業なのだから、相手を信頼できなければ、一緒に仕事をするべきではない。信頼することで、より多くのことが得られるからだ」
「私が社内やパートナーに対してオープンであることに、ロンはつねに反対していた。そして、彼は大きな影響力を持っていたので、すべてをたたきつぶしてしまったんだ。自分で言うのもおこがましいが、私ならホンダとマクラーレンを長期に組ませることができていただろう。両社がうまくいくことは分かっている。以前にも一緒に戦い、大きな成功を収めた経験があるのだからね」
■Honda RA615H HONDA Racing Addict Vol.1 2013-2015
発売日:2021年7月28日(水)
定価:1300円 (本体価格1182円)
(Text:Adam Cooper
Translation:F1 Sokuho)
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フリー走行2回目 | 結果 / レポート | |
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11/24(日) | 決勝 | 15:00〜 |
1位 | マックス・フェルスタッペン | 393 |
2位 | ランド・ノリス | 331 |
3位 | シャルル・ルクレール | 307 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 262 |
5位 | カルロス・サインツ | 244 |
6位 | ジョージ・ラッセル | 192 |
7位 | ルイス・ハミルトン | 190 |
8位 | セルジオ・ペレス | 151 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 593 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 557 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 544 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 382 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | BWTアルピーヌF1チーム | 49 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
8位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 44 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
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