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【中野信治のF1分析/第7戦】ホンダPUと戦術を武器にメルセデスを圧倒したレッドブルと繊細なドライバーのメンタル

2021年6月24日

 2021年F1シーズンも序盤を終え、早くもタイトル候補が絞られてきました。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界期待の角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。第7戦は最初から最後まで緊張感高まるトップ争いの背景と、ドライバーのメンタルなど多岐にわたってレースの背景を振り返ります。


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 がっぷり四つの優勝争いが繰り広げられた2021年F1第7戦フランスGPですが、そのフランスGPを前にメルセデスがお互いのシャシーを交換し合いました。シーズン中にドライバー同士でシャシー交換するということは、なかなかないことです。報道された記事を読むと、シーズンの初めからシャシーを交換することが決まっていたようですね。


 シーズン前半はルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスの結果やタイムに差がありました。メルセデスとしては、ボッタスのシャシーは『問題ない』と考えているようなので、今回のシャシー交換はハミルトンには悪いけれど、それを証明するということになるのでしょうか。


 もちろん、だいたい成績がよくないほうがシャシーなどの問題を気にします。セットアップの違いやシャシー剛性などチームも間違いなく細かくクルマをチェックしていますし、現代F1の技術なら見えない部分はほとんどないはずです。そのあたりにチームとしても『ボッタスのシャシーは問題ない』という自信があったのだと思います。そしてフランスGPでボッタスのシャシーをハミルトンが走らせることになりましたが、きちんと速さを見せていました。


 今回のシャシー交換で、チームにとって一番重要なことはボッタスが自信を取り戻すことです。チームはボッタスの精神的なケアをするためにシャシー交換を決断したと考えるのが、僕は正しいと思います。そういった意味では今回のシャシー交換は正解だったのかなと思います。前回のアゼルバイジャンでは予選10番手でしたが、今回はハミルトンと僅差の3番手。集中しているときのボッタスは本当に速いです。


 シャシー交換というのは結構勇気のある決断で、当然リスクもあります。もし本当にシャシーに問題があった場合、ハミルトンが遅くなってしまう可能性もありまし、そうなってしまったら、レッドブル・ホンダと1ポイントを争っているメルセデスとしては一大事になってしまいます。それを考えると、よくメルセデスはシャシー交換を決断したなと思います。当然ハミルトンも納得して行ったと思いますが、そこはチームとの信頼関係ですね。ただ一方、裏読みをすれば本当にシャシーを変えたのか、という疑念もありますけどね(苦笑)。


 そのフランスGPですが予選、そして決勝の最後までレッドブル・ホンダとメルセデスの戦いが目の離せない展開になりました。スタートの1コーナーではフェルスタッペンが少し飛び出してハミルトンにトップを奪われてしまいましたが、ポール・リカール・サーキットの1コーナーは見た目以上に難しいコーナーです。


 もともとブレーキングポイントが平坦でわかりずらい上に、イン側から進入するとさらに見えなくなり、コース幅も意外とタイトで実際の走行ラインは狭く、路面は下ってから上がるアンジュレーションがあります。そういういろいろな要素があって、綺麗にブレーキングでクルマを止めづらいコーナーでもあります。クルマのセットアップをさらに難しくしている典型的なコーナーですね。


 フェルスタッペンはあの瞬間、1コーナーの進入時に自分の右側にいるハミルトンをミラーでちらっと見ながらブレーキングをしていたので、そこでブレーキングポイントがズレてしまいました。姿勢が乱れた後はなんとかカウンターステアでこらえましたが、ハミルトンには先行を許してしまいましたね。フェルスタッペンは完全にブレーキングポイントをミスしました。


 結果的にはそこからレースが面白くなりました。その後はフェルスタッペンが先にピットインしてハミルトンのアンダーカットに成功しました。その背景には、今回の決勝では意外とタイヤの持ちが悪かったということがあります。決勝日の朝に雨が降り、サポートレースのFIA-F3の解説もDAZNで担当していたのですが、その時はウエットレースで行われ、前日まででき上がっていたラバーグリップも雨で流されてしまいました。


 さらに風も強く吹いていたようなので、前日までと比べてドライバーとしては『何かクルマがおかしくなったのか?』というくらいの違いを感じたはずです。実際、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)も無線で「クルマのバランスはディサスター(大惨事)だ」と伝えていましたよね。


 そして、ドライバーはそういったコンディション変化で本当にメンタルをやられてしまうときがあります。その状況を冷静に対応できたドライバーと対応できなかったドライバーとで、タイヤを長く持たすことができたか、持たすことができなかったかに別れました。


 ドライバーはコンディション変化などでクルマの挙動が少しでも気になるとマシンのコントロールに注力するあまり、タイヤのマネジメントをおろそかにしてしまうことがあります。そこを冷静にチームとコミュニケーションを取り、風向きや路面状況が変わっていることを理解してタイヤマネジメントができれば、おそらくうまくいったと思います。それができたドライバー、できなかったドライバーというのが最初の第1スティント目は特に差が出たように見えました。


 1回目のピットイン後、フェルスタッペンに前に出られたハミルトンは無線で『何が起こったのか理解できない』というようなことを無線で話していましたが、ハミルトン的にはまったくの予想外の出来事だったのでしょう。フェルスタッペンのアンダーカットはピットストップの時間は両者とも大きくは違わなかったので、イン/アウトラップのタイムとドライバーのタイヤマネジメント、走らせ方が関連していたのだと思います。


 フェルスタッペンはクルマのフロントだけではなく、リヤもうまく使って向きを変えるのが早いドライバーです。ポール・リカールは曲がりこんだコーナーが多く、フロントタイヤをどうしても酷使してしまいます。そこでハミルトンのフロントタイヤを始め、どのクルマにも結構なグレイニング(タイヤがグリップを維持できず、スライドする時に発生。タイヤ表面に粒状のささくれを生成してグリップを低下させる)が出ていました。


 ポール・リカールのセクター3は曲がりこんだ右コーナーが多いため、左フロントタイヤが厳しくなります。タイヤマネジメントの部分で言うと、早く向きを変え荷重移動を早く終わらせて、その次は後ろのタイヤを使って走るドライバーはフロントタイヤをいじめずに済みます。そんなフロントタイヤの負担を減らすことができる技を使って走れていたのが、おそらくフェルスタッペンとハミルトン、そしてランド・ノリス(マクラーレン)でしょうか。当然クルマのセットアップなどもあるので一概には言えませんが、このあたりのドライバーのドライビングがうまく今回のレースにハマっていたのかなと思います。


 タイヤの持ちという部分では、レース後半はハミルトンとボッタスの差が顕著に出ていました。ボッタスはフロントタイヤに頼って走行しているドライビングスタイルで、ハミルトンは最近はスタイルを変えてきていますが、もともとはリヤタイヤを使ってカートのようにコーナーを走らせるドライビングスタイルなので、今回は以前のスタイルでレースをしていたのかもしれません。そういったドライバビングスキルが『見えない技』になりす。


●ハミルトンはどうして2ストップに反応できなかったのか。諸刃の剣でもある角田裕毅の自信


 トップ争いではやはり驚かされたのはフェルスタッペンの2ストップ作戦ですね。1回目のピット後、トップを奪って周回を重ねていたレース中盤、『そこで入るか!』と見ていた方はびっくりしたと思います。このタイミングでピットに入って追い上げられるのかということは外からでは正直分からないですが、チームとしても100パーセントまでは追いつける確信はなかったと思います。勢い的には最終的にオーバーテイクできましたが、周回遅れに引っかかるなどなにかアクシデントが起きたら分からなかったと思います。


 ただ、レッドブルは今回、タイヤのデグラデーションが相当悪いことが決勝レースの走り始めですぐに分かっていて、さらに、決勝日の朝に雨が降ったことを加味して計算していたはずです。そこから戦いは始まっていて、チームとしては『雨が降ってタイヤのデグラデーションは相当酷くなる』ことが予想できていたのだと思います。そこで『もしかしたら2ストップになる』か、それとも『若干気温が下がっているから、その分でタイヤを持たすことができるか』を考慮して戦略を考えていたはずです。


 ただ、2ストップに変更するためには絶対的なスピードが必要なので、その作戦をきっちり完遂できるのは誰かというと、やはりフェルスタッペンかハミルトンしかいないのだと思います。


 その半信半疑のなかで先に動いたのがレッドブルで、メルセデスは“蛇に睨まれた蛙”状態になってしまいました。第5戦のスペインGPでは逆の立場でしたが、今回はまったく逆のことをレッドブルがやり返しました。ですが、もしもフェルスタッペンが2回目のピットに入ったあと、すぐ翌周にメルセデスが反応していたら僕はハミルトンは勝負できていたのかなとも思います。

2021年F1第7戦フランスGP決勝レース
レース終盤、1ピット戦略のハミルトンを2ピット戦略のフェルスタッペンがオーバーテイクして優勝を決めた


 なぜあそこで反応しなかったのか、メルセデスの言葉を聞くと『今回はホンダパワーユニットのストレートスピードが速かった』という内容を話していました。もっと言うと、今回のレッドブル・ホンダはローダウンフォース仕様で勝負をしてきたということで、ストレートで追い抜く・追い抜かせないということを先読みしてクルマを作ってきていました。これは前戦のアゼルバイジャンとはまったく逆のコンセプトです。


 そのローダウンフォース仕様に加えて、今回はホンダのパワーユニットが非常に強力だということもあり、ハミルトンはレース後にも『ホンダパワーユニットはストレートが速い』ということを繰り返し言っていました『ホンダパワーユニットなのか、レッドブルのローダウンフォース仕様のおかげなのかは分からないけどね』ということも言っていたので、僕は遠回しにメルセデスの開発者にもしっかりとプレッシャーを掛けるハミルトンのインタビューを聞いて、今回のレースには負けたけど今後に向けての勝負には負けていないと感じながら聞いていました。


 その上で改めてすごいなと思ったのはレッドブルの戦い方ですね。シーズン序盤はメルセデスが相手の意表を突くような戦い方をしてきましたが、今回は見事にレッドブルが仕返しをしてきました。今年を象徴するようなストラテジストの戦い、AIによる豊富な戦略幅による戦いが繰り広げられ、そして、このふたりのドライバーだからこそできる今回の戦いでした。


 目に見えないところでも争いがあると、見ている方はたまらなく面白いですよね。出たとこ勝負ではなく、どちらも予想して動いていたと思うので、今回のフランスGPはその裏側が面白かったです。本当にいろいろな意味で今年のF1はドライバー、チームともに持てるすべてを使用して戦っています。


 フランスGPはトップ争いがかなり面白かったので、なかなか中段勢に触れることができなかったのですが、当然ながら中段グループもかなり面白い戦いが繰り広げられていました。フェラーリは、やはりまだ少し厳しいのかなと感じますね。前々から申し上げているとおり、予選一発ではパフォーマンスを引き出せますが、レースになると若干厳しそうに見えました。


 モナコとアゼルバイジャンは市街地サーキットでしたが、パーマネントサーキットに戻ってくると、フェラーリは決勝では特にシャルル・ルクレールがそうだったのですが、フロントタイヤがあっという間に酷いことになっていました。ルクレールのマシンはいまいち決まっていないのか、予選のときからアンダーステアに苦しんでいる印象でした。それがレースでも修正できず、さらに酷い状態になってしまって戦えていませんでしたね。


 今回はフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)がすごく頑張っていました。アゼルバイジャンでも6位に入賞したので、なにかキッカケを作ったのかなと思います。アロンソとマクラーレン、そしてガスリーの争いも面白かったですね。前戦からセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)もいい走りを見せていて、アゼルバイジャンの表彰台は自信になったのだと思います。


 当然、その入賞圏内の争いに角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)も加わってほしいところです。今回は予選でのクラッシュがすべてでした。ただ、あまり外から見ている我々がネガティブなことを言うのはどうかなと思いますし、角田本人も当然、ミスをしようとしてしているわけではない。


 自分で自信を持ってあの1コーナーの縁石に乗って、そこでさらにイン側のソーセージ状の縁石に乗ってしまいクルマが跳ねてクラッシュという、あのコーナーだからこその出来事です。本当に1コーナーのイン側はドライバーから見えづらいので、感覚でコーナーに進入していき、そこでの速度を誤ったということと、タイヤが若干温まりきっていなかったのかなという気もします。


 今回に関しても、決勝のペースを見てもクルマを速く走らせる能力に関して疑う余地はないですし、うまくまとめ上げたときには爆発的な速さを発揮することはチームもドライバー自身も理解していると思います。ただ、その理解が過信とまではいかないですが、少しスキになっている感じがあります。


 現時点での角田のメンタルの強さ、自信というのは、いまのところ諸刃の剣の状態なのかなと思いますが、ハマったときは強烈な強さを発揮するので、周りがそれを殺してほしくないなと思います。当然、クルマを壊してはいけないことを学ばないといけないこともありますが、それは当然のこととして置いておいて、もう片方の部分では、いま持っている自信を持ち続けるんだという思いで、僕は角田選手を見ています。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)


レース

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