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【中野信治のF1分析/第6戦】気になるハミルトンのリスタート前の無線。バクーの特殊性と角田裕毅の悪いクセ

2021年6月12日

 2021年F1シーズンも序盤を終え、早くもタイトル候補が絞られてきました。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界期待の角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。第6戦は波乱の展開で新鮮な表彰台の顔ぶれになったアゼルバイジャンGPの特殊性を中心にお届けします。


  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


 2年ぶりにバクー市街地サーキットで行われた2021年F1第6戦アゼルバイジャンGPですが、バクーだからこそ起こるハプニングや、ドライバーのオーバーテイクやミスなども含めていろいろなことが起こり、アゼルバイジャンらしいレースになりましたね。バクー市街地サーキットはストレートが長くスピードが出ますし、オーバーテイクも可能でミスもしやすいコースです。これはモナコもそうなのですが、最近のサーキットでは見られないような場面が多く見られましたね。


 予選ではターン3やターン15など、直角コーナーでのミスが多発しました。ランス・ストロール(アストンマーティン)とアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)がクラッシュしてしまったターン15は一瞬、右にステアリングを切ってから左に曲がっていくコーナーで、しかも若干、下り坂になっているので、どうしてもクルマがアウト側の外に流されてしまいます。


 バクーは見た目以上にアップダウンがあるコースで、路面のアンジュレーション(起伏)も大きい。なおかつ、ターン15にはスピードを乗せながら進入するので、ドライバーは多少スピードが出ていてもクリアできるように錯覚してしまうコーナーでもあります。ですが、実際のところは路面のμが低くコース幅も狭いので、ドライバーが持っているイメージよりもクルマを止めないといけないコーナーになっています。


 ですが予選など、一発のタイムを出さないといけないときには、ほかのサーキットのイメージから『このくらいならいけるだろう』という、ドライバー目線では誘い水に乗ってしまうようなコーナーになっています。そこで実際にコーナーに進入すると、路面のアンジュレーションやアップダウンで『あっ、止まれない!』ということが今回もかなりありました。ターン15に関してはスピードを乗せていきたいコーナーなので、普通のサーキットならいつものイメージでクリアできるかと思いますが、実際はそんなことのない難しいコーナーです。


 そのような見た目以上に難しいコーナーがバクーには多く、ドライバーが予想以上にクルマを止めてから曲がらないといけないコーナーがたくさんあります。予選で角田裕毅選手もクラッシュしてしまった前半部分のターン3もそうです。ターン3はブレーキングそのものが難しいといいますか、市街地サーキットは基本周りがごちゃごちゃしていているので、ブレーキングポイントが掴みづらいことが多いです。


 ドライバーが持っているクルマのイメージと、実際にクルマが持っている限界が若干乖離しているといいますか、市街地サーキットなのにそこそこスピードが乗ってきてからのハードブレーキングなので、余計に乖離の幅が広がってしまうのだと思います。それが予選アタックなどでギリギリを攻めているときにミスしてしまうのは仕方がないことです。


 バクーでは直線スピードを稼ぐために若干ダウンフォースが少なめのセットアップを施すので、ブレーキングは厳しいですし、直線が長いのでフロントタイヤが冷えてしまいます。その影響で余計に直線のあとのコーナーのブレーキングは厳しくなります。ダウンフォースが少ないことに加えタイヤがロックしやすいという、いろいろな難しい条件が重なっているわけです。


 予選Q3は、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)のターン3でのクラッシュによって最後は赤旗終了となり、シャルル・ルクレール(フェラーリ)がポールポジションになりましたが、多くのドライバーが最後のアタックをできていないので、結局どのクルマが速いのかはわかりませんでした。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がアタックできていればポールポジションを獲得していたのかなとも思います。ですので、あの予選結果がそのまま決勝に繋がるイメージはなかったですね。


 その決勝レース、ポールポジションのルクレールがスタート直後からポジションを落としてしまいましたが、これはなんとなく想像できていましたね。やはりフェラーリのクルマのポテンシャルは今一歩、トップには足りていません。クルマはよくなっているのですが、決勝では攻めることができない感じですごく大人しそうに走っていましたし、まだダウンフォースが足りない状況なので決勝になるとタイヤが若干厳しくなってしまいます。モナコと違ってバクーは誤魔化しが効かないので、タイヤが摩耗したときのデグラデーションやクルマのバランスなどを含めて、フェラーリはメルセデスとレッドブル・ホンダに対してまだ厳しいところがあります。


 今回、決勝でもうひとつ顕著だったのがセクタータイムの違いで、長いストレートがあるセクター3ではレッドブル・ホンダよりもメルセデスのほうが速い状況でした。ですが、これは単にセットアップのダウンフォース量の違いかなと感じています。自分たちのクルマが得意な方にセットアップを振り、どこでタイムを稼げるかということを考えたとき、メルセデスはダウンフォースを多くしてもセクター2ではそれほどタイムを稼げないと判断したのでしょう。ならばセクター2は我慢して、ほぼ直線しかないセクター3で稼いだほうがいいという結論に至ったのだと思います。


 セクター2とセクター3のどちらかを重視するかはすごく難しいのですが、今回に関してはレッドブル・ホンダのほうがレースを有利に進められたのかなと思います。ダウンフォースが多いほうが決勝でタイヤも労れますし、直線に関しては前車のスリップストリームに入ればそれほど差はつきません。


 レース展開としては、今回はフェルスタッペンとセルジオ・ペレスがワン・ツー・フィニッシュを決めるかと思いましたが、フェルスタッペンが左リヤタイヤのパンクによってリタイアしてしまいました。これは直線が長いこともあってタイヤへの負荷が高まったことも関係していると思います。タイヤへの負荷はストレート区間が一番大きくなるので、タイヤを追い込んでいくとああいったことが起きてしまいます。


 ピレリの発表によるとデブリの影響が考えられるということですが、ランス・ストロール(アストンマーティン)も同じように左リヤタイヤがストレートでパンクしたので、そんなに同じ場所で同じ形でデブリを踏むのかなとも思うので、ちょっとなんとも言えないですね。フェルスタッペンはレース中もプッシュしていたので結構タイヤを酷使していただろうし、ストロールもタイヤを酷使するタイプなので、もしかしたら関連があるかもしれません。本当のところは我々にはわからないことです。


 いずれにしても、フェルスタッペンのリタイアは残念ですし、チャンピオンシップを考えても優勝していればいい流れができそうな感じでした。ですが、これがレースと言えばそうですし、結果としてはルイス・ハミルトン(メルセデス)もノーポイントに終わりました。


 ハミルトンは赤旗後の再スタートのとき、ステアリングのボタンに誤って触れたことでブレーキバランスがフロント寄りになって1コーナーを止まりきれなかったということですが、僕には明らかに突っ込みすぎで、ブレーキングタイミングが遅かったような感じにも見えました(苦笑)。


●ドライバーがチームに許可をもらうときの危険性。ペレス、ベッテルが活躍できたアゼルバイジャンのコース特性


 その直前、リスタート前にハミルトンがトト・ウォルフ(メルセデスAMGチーム代表)と無線をしている段階から、なにかが起きそうな予感がしていて『アタックしてもいいか?』と言うハミルトンに対して、チームも同意するような内容を話していましたよね。僕の経験上、ドライバーがそのようなことを言うと大体、よくないことが起こります。


 『リスクを取りにいかないと勝てない』とドライバーが言うときは、ミスしたときにチームへの言い訳にもなるのでどこかに緩みが出ます。リスクを取りにいくなら自分の判断でアタックして、無線でチームに許可をもらってからではダメです。あの無線はチームに対して『ミスしてもいい?』と聞いていてるようなものです。そういうときのドライバーは大抵ミスをします。ですので、僕は操作ミスよりも、ハミルトンの心理的な部分でのミスなのではないのかなと感じました。


 チャンピオンシップを考えても、ハミルトンは対フェルスタッペンを考えるのなら今回は2位でも十分だったはずです。そこであんなにリスクを取りにいく必要があったのか謎ですね。今回の結果でチャンピオンシップ的には面白くなりましたが、今後のことを考えるとハミルトンに対して『ノー』と言えないウォルフやピーター・ボニントン(担当エンジニア)も気になります。


 まだシーズンの前半だから許されるのかもしれないですが、後半では許されないミスです。相手も今回はフェルスタッペンではなくペレスなので、もしフェルスタッペンだったらハミルトンとメルセデスはおそらく攻めていなかったでしょうね。ハミルトンもペレスには勝たせたくないという思いがあったのかもしれません。なので、いろいろなちょっとしたことの積み重ねでミスを犯してしまったのでしょう。これもマインドゲームですね。


 そして今回は優勝したペレス、そして2位のセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)のベテラン勢が経験や小技を活かしたいいパフォーマンスを見せてくれました。

セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第6戦アゼルバイジャンGP表彰式 セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)


 基本、バクー市街地サーキットはクルマを止めて曲がるコースで、クルマを前に前にと転がしていくコースではありません。いつもならリヤの不安定さを気にするドライバーや、カウンターを当てる反射神経が年齢によって少し落ちてしまったベテランドライバーも、今回のような市街地コースではその条件が緩和され走れてしまいます。逆に言えば、高速サーキットだと純粋な反射神経が必要になりますが、バクーは高速サーキットでも、止めてから曲がるコーナーなので少し違った技が必要になります。その部分でベテランと若手の差が縮まったと思います。ですので、僕的には今回はすごくわかりやすいリザルトでした。


 また今回のバクーではアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーが3位表彰台を獲得したこともすごく大きいですね。ガスリーは今季もこれまで本当にレースがうまくてミスもせず、タイヤの使い方も優れています。今回の3位もいつものガスリーらしいレース展開で、クルマのポテンシャルを最大限に引き出したレースで、今後も同じようなパフォーマンスを発揮できると思います。


 対してチームメイトの角田選手ですが、予選Q3のクラッシュがもったいないと言えばもったいないのですが、逆に『一発のタイムを出すときの力の抜き方』を覚えないといけないクラッシュだったのかなと思います。そのあたりもガスリーはうまくて、Q1、Q2、Q3それぞれの組み立て方が優れています。限界をどこにもっていくか決めているので、そのあたりはさすが経験者だなと感じます。


 角田選手はまだ6戦を終えただけです。今回もQ2で一時4番手タイムを記録するなど速く走らせる能力をを改めて証明しましたので、あとは自分自身のマインドコントロールの部分が重要になります。セッションの組み立て方や順番、タイミングをうまく使いこなすことができるようになれば十分、ガスリーと対等に戦うことができるんじゃないかと僕は思います。


 レース終盤、赤旗後の再スタートで角田選手はポジションを落としてしまいましたが、そこはFIA-F2時代からの角田スタイルなんですよね。最初はペースを抑えてタイヤを労り、最後に逆転するというのがちょっとクセになっています。本当はスタートも苦手ではないはずですが、レースの戦い方に悪いクセがついてしまっているように感じます。ですが、その戦い方を何回か続けて自信をつけ、多少のリスクを犯してもいいような状況になればスタート直後からいい戦い方ができると思います。


 スタートで順位を下げましたが、すぐに抜かれたフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)を抜き返しに並びに行っていました。角田選手がいままで『こうしよう』としていたことを、さらにブラッシュアップさせたり、イメージを変えることができれば今後は全然問題ないと思います。


 今回のアゼルバイジャンGPの結果と内容で、シーズンがさらに面白くなりましたが、その一方でチームの勢力状況が複雑になりました。このまま次のフランスGPではどういった関係になるのか本当にわからないです。メルセデスは若干苦しんでいますが、なんだかんだ言ってもハミルトンはさすがの走りを見せました。フリー走行の結果をあそこまで引っ張り上げてきましたし、あの強さを見ていると、普通の常設サーキットに戻りクルマが改善されれば、また優位な立場に戻る可能性もあるので本当に読めませんし、フェラーリもどこまで速いのかもわかりません。


 このような展開はドライバーとしてもやりがいはあるでしょうね。戦っている側もこれほど面白い戦いはないと思うので、ドライバーのパフォーマンスにチーム全体の知力と体力、そしてサーキットに入る前、そして入ったあとのリアルタイムのストラテジーの部分でも、いままでは戦略を3つ立てていたのが、このような争いが続くとその倍は用意しないといけなくなります。


 現代はAI(人工知能)が使えるので、おそらくビッグチームではとんでもない量の戦略が準備できていると思います。今はシミュレーションもAIで行うので、人間の頭で考えられるキャパシティを超えています。そういうところを各チームがどのように使っているのかが、前半戦を見ていてメルセデスが一歩リードしていると思いました。その後は、レッドブルもそれまでは使っていなかったものを使い始めているのかなと、作戦の立て方を見ていると感じます。


 ですので、今はすべての戦い方が変わってきていますし、見ている側も戦略の想像がつかないです。解説者泣かせではありますが(苦笑)、今シーズンはその争いがすごく面白く感じるのでこれはポジティブですよね。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)


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