しかし、第4スティントでは最初から最後までDRS圏内からロズベルグを攻めながら、ハミルトンには抜けなかった。オースティンと違うのは、インテルラゴスではタイヤの性能低下が大きく、前のマシンに近づくとインフィールドでタイムをロスしてしまう点だ。ターン9、ターン11を上手く脱出してターン12のブレーキングで真後ろにつけなければ、出口で引き離されてしまう。“全開”と言っても、大きく弧を描くターン13、ターン14では前後方向と横方向、同時にGがかかるため乱気流を受けるとタイヤに厳しい。DRSゾーンが始まるのはずっと先――ハミルトンが毎ラップのようにセクター1の区間ファステストを更新しても1コーナーでオーバーテイクをしかけるところまで到達できなかったのは、その手前で引き離されていたからだった。1コーナー手前のTポイントはハミルトン334.4km/h、ロズベルグ318.8km/h。しかしこれはロズベルグが余裕をもって減速していたからで、コントロールラインの通過速度はハミルトン335.1km/h、ロズベルグ333.3km/h。追われているように見えても、ロズベルグの動きはハミルトンよりずっと安定していた。1年前までは、引き離さないことによって相手のタイヤにダメージを与えるのは、首位を走るドライバーに許された作戦のひとつだったのだ。
「あのストップのことは、申し訳ない」と、ゴールの後でエンジニアがハミルトンに言った。2周のステイアウトは失敗。しかしチームは終盤の展開を予測して“他に選択肢がない”ということを知っていたのかもしれない。
久しぶりのタイヤ耐久レースでは、首位を走るアドバンテージが戻ってきた。シーズン10回目のポールポジションを記録したニコが、得意分野を勝利に活かすことに成功した。緻密にセットアップを仕上げ、ドライビングの自信へとつなげるロズベルグが“静”なら、トライ&エラーを繰り返しながら最終的には速さをつかみ、攻めるレースを得意とする“動”のハミルトン。「1レース遅れたけれど、課題を克服して大きく進歩することができた」というニコの言葉が本物なら、ふたりの力は拮抗する。17ポイントの差は小さいのかもしれない。
(今宮雅子)