ゴールの後、ハミルトンは2位グリッドからレースに臨んだ気持ちを説明した。
「様々なシナリオにおいてどんなチャンスが訪れるか、それに対して自分がどうアプローチするのか……本当に理解するため、レースの前にはたくさんのことができる。これまでも何度か経験してきたことだし、僕にはそれを把握しているという自信があったから、あとは“勝てる"という信念で挑むだけだった」
元来オーバーテイクの得意なドライバーは、トラブルによって後方から追い上げるレースをするたび、さらに“引き出し"を増やしてきた。獲物を狙う心境は、ポールポジションからスタートするよりむしろ楽しいものであったかもしれない。ターゲットは1台だけだから急ぐ必要もなかった――第1スティントの間隔は1秒。第2スティント序盤の間隔は2.5秒。チャンスを見極めるまでは意図的に間隔を置き“抜けないスパイラル"を避けながら攻めたハミルトンには余裕があった。鍵は第1〜第2セクター前半でロズベルグのマシンにできるだけ近づき、DRSの権利を手に入れること。それさえ手に入れば、あとは一気に抜き去ること。
「接近して走るのは簡単じゃないし(オーバーテイクの直前にも)少し間隔が開きすぎていたかもしれない。でもターン12へのストレートでは強い向かい風が吹いていたからすごく自信があった。十分に近づいたらインに飛び込もうと、タイミングだけを待っている気持ちだった」
向かい風を切り裂くように進むロズベルグと、スリップストリームに牽引されたハミルトン。大き目のリヤウイングをつけたメルセデスではDRSの効果も大きく、2台の速度差は18km/h――ハミルトンは「ニコはディフェンドしていなかったし、ほとんど気づかれないタイミングで飛び込めた」と言う。ロズベルグは「気づいていたし、半分はディフェンドしている位置を走っていたから、ルイスがあそこで飛び込むとは思わなかった」と振り返る。少し中途半端なディフェンスラインだった。相手が完全な防御に入る一瞬手前で攻め抜くのはハミルトンの得意技。そうとわかっていたニコにとっても、早いタイミングでの攻撃だったのだ。ハミルトンにしてみれば、先んずれば人を制す――完璧な勝利だった。