マシン順に並んだようなグリッドから鮮やかなオーバーテイクがいくつも生まれたのは、ポールポジションのハミルトン、3位スタートのバルテリ・ボッタスがスタートに失敗したからでもある。
ハミルトンはパワーユニットをスタートモードに入れることができないトラブルで加速を得られず、4位に転落した。それでも――スパの一件の後でこの失敗は精神的に大きな負担となったはずだが――焦らずクリーンに挽回したところに強さが表れた。タイヤ交換を終えた時点で首位ロズベルグとの間隔は1.8秒。チームはペースを抑えてタイヤをセーブし終盤に勝負を賭けるようアドバイスしたが、ハミルトンは2周連続でファステストを記録してロズベルグの0.7秒後方に迫った。このプレッシャーが功を奏したのか、直後の29周目にはロズベルグが第1シケインをミス――エスケープロードを通過する感にハミルトンが首位に立って、ふたりの勝負はあっけなく決まった。
「チームの指令を無視したわけじゃない。ただ、ドライバーの方が適切に計算できる場合もある。経験から言って――とりわけ今シーズンは――スティントの最初にアタックすることが必要だと僕は考えた。それによってすべての扉が開くはずだ、と」
ロズベルグにとって、このブレーキングは2回目のミス。FRIC禁止のハンデを挽回してきてはいるものの、低ダウンフォースと最大の減速が組み合わさるモンツァはとくにブレーキが難しい。1ストップ作戦を成功させるため、チームは“フラットスポットを作るより、エスケープに進むほうが賢明"だとアドバイスしていた。
表彰台では、悔しいはず(?)のロズベルグが堂々とイタリア語でスピーチ。それでも一番人気は去年までフェラーリで走ったフェリペ・マッサで、大歓声に包まれた。オーストリア以来ボッタスに圧され気味だったマッサにとって、モンツァの表彰台は絶対に譲れない場所――好スタートからミスもドタバタもなく着実に走って手堅く3位を手に入れた。首位ハミルトンから25秒遅れの3位はシーズン序盤のメルセデスを思い出させるものだが、マッサにとってはウイリアムズ初の表彰台。メルセデスにもっとも接近したレースになった。
スタートでホイールスピン、前のハミルトンをフォローするようなかたちでポジションを落としたボッタスは、ニコ・ヒュルケンベルグ、ライコネン、アロンソ、バトン、マグヌッセン、ベッテルをすべてホームストレートでオーバーテイク。高速コースの得意なウイリアムズだから可能な技だが、ストレートだけでは成就しない――パラボリカの入り口でロック気味になるほどブレーキを遅らせ、上手くイン側にマシンを運び、出口の加速を優先するラインを選択して可能になった“DRSによるオーバーテイク"だった。
チームメイト同士の対決が鮮やかになったイタリアGP。スピード記録はリカルド、ボッタス、ハミルトンの順――滑りやすいモンツァ仕様の勝負には、スピードだけでなく物理的・精神的なグリップが利いている。
(今宮雅子)