フリー走行1回目の終了まで、あと5分。国際映像の画面がストフェル・バンドーンの無線を流した。
「ノー・パワー!!」
バンドーンは自力でピットに戻ったものの、ガレージに戻されるやいなやコクピットを降り、メカニックたちがすぐさま作業に取り掛かった。
「「K(MGU-K)の駆動シャフトがメカニカルに壊れました。ただ、それは(突発的なトラブルというより)マイレージが長かったためです。ベンチの上ではもう少し持つはずだったんですが、予想していたよりも早く壊れてしまいました」と長谷川祐介ホンダF1総責任者は語る。
MGU-Kの駆動シャフトは、消耗品である。したがって、ペナルティなしで交換することも可能だった。ただ、そのためには一度パワーユニットを車体から切り直し、さらにMGU-Kを下ろして分解。そして調査しなければならない。
「さすがにそれではフリー走行2回目終了までに準備するのは時間的に不可能」(長谷川総責任者)と判断したホンダはマクラーレンと協議した結果、壊れたMGU-Kの解析はあきらめ、壊れたMGU-Kだけでなく、ターボとMGU-Hも新しくし、5基目に交換する決断を下した。
この5基目の投入にともなって、バンドーンには15番手降格というペナルティが科せられた。
「この段階で5基目を投入しなければならかったことは計算外ですし、問題です」
ただし、トラブルの内容はバーレーンGPとはまったく違う。
「今回のMGU-Kのトラブルはメンテナンスパーツが予想よりも早く壊れただけなので、設計上の問題というような深刻なものではありません。このトラブルは去年ジェンソンがバーレーンGPのレースで起きています。あのときはシャフトではなく、ベアリングですが、そのトラブルによって、われわれはメンテナンスのタイミングを短く設定し直しました。MGU-K周辺の駆動系の部品は4000kmはとても持たないので、レギュレーション上、ペナルティなしで自由に交換できることになっています」
フリー走行1回目の終了間際から開始されたPUの交換作業は、フリー走行2回目が開始される前までに終了。その後、セットアップ変更などを行ったため、バンドーンがコースインしたのはフリー走行2回目が開始されてから13分後のことだった。トラブルがまったくなかったアロンソのコースインが午後3時12分だったから、PU交換によるダメージはほとんどなかったといっていい。
「チームが本当に素晴らしい仕事をしてくれました。チームメンバー全員のハードワークに感謝しています」
フリー走行2回目、バンドーンは24周を走行し、16番手。一方、トラブルフリーだったアロンソは27周を走行し、12番手。2台そろって、トップ10圏内からコンマ5秒差で初日を終えている。
(Text : Masahiro Owari)