今宮雅子氏による中国GPの焦点。レース後に注目を集めたベッテルとクビアトの主張。スタートからの攻防と、ふたりの関係を知れば、ドライバーの真意が見えてくる。序盤に混乱があったものの、健やかなマシンを持ち、攻めどころを知る手練れたちは、きっちりと巻き返してきた。上海のハイライトシーンを、もう一度。
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キミ・ライコネンとセバスチャン・ベッテルの接触、連鎖的に起こった複数の混乱。走行ライン上に残った破片によるダニエル・リカルドのタイヤバースト。4周目のセーフティカー出動と、スーパーソフトを履いていた9人のピットイン。序盤にポジションがシャッフルされた中国GPは、8周が終了した時点で再スタート。さまざまな作戦と多彩なオーバーテイクによってポジションが“整理されていく”展開になった。
上海は、以前のようにストレート速度を頼りにステイアウトして抑え切れるコースではない。タイヤ選択の幅が広がった今年は、その傾向がさらに強まった。大切なのはドライバーが快適と感じるマシンとタイヤのバランスで、それが手に入ればコーナーにも抜くチャンスは点在する。フロントタイヤに厳しいレイアウトでは、きれいな空気を受けて走ることが必須で、そのためにも前を塞がれるパターンに陥ってはならない。序盤にポジションを落としたベッテルもリカルドも、このポイントをしっかりと押さえていた。
4周目のピットストップの際、ノーズ交換のために15番手まで後退したベッテルは、短時間で中団グループを抜け出すためにスーパーソフトからスーパーソフトへ交換というアグレッシブな作戦を選択。セーフティカー明けの再スタート以降は、9周目に3台、10周目に3台をパス。11周目のヘアピンではバルテリ・ボッタスと軽く接触しながらもウイリアムズの前に出ることに成功し、13周目のバックストレートでは、予選で最速のトップスピードを記録していたセルジオ・ペレスを、あっさりかわして5番手へ。ステイアウトしていたフェルナンド・アロンソを抜いた直後にはボッタスとの接触で傷めていた左フロントの翼端板からパーツが飛んだが、さほどハンドリングには影響がなかったため、17周目のピットインではノーズ交換は行わなかった。
22周目には3位まで挽回──攻撃的なリカバリー作戦が成功したのは、ライコネンやボッタスとの接触によって多少のダメージを受けていたものの、マシンが「最高のバランス」を保っていたから。そこからは、このレースの“宿敵”となったダニール・クビアトの攻略に集中した。
スタート直後、チームメイトとの接触は“無謀に”インへ飛び込んできたクビアトが原因だと無線でも批判を続けたベッテル。外から見れば、目の前に大きく広がったイン側のスペースにクビアトが飛び込んだのは当然で、レッドブルのマシンは、ちゃんとドライバーのコントロール下にあった。ベッテルにとって不運だったのは、むしろクビアトに気づいて避けたところへアウト側に膨らんでいたライコネンが戻ってきたこと。チームメイトとの接触は何があっても回避しなければならないが、物理的に、アウト側のライコネンを避けることは不可能だった。クビアトからはライコネンのフェラーリが見えないし、ライコネンからはクビアトが見えない……スタート直後に起こりうるレーシング・インシデントだった。
タイヤに優しい特性がアドバンテージになると期待して挑んだ上海。予選での失敗を挽回しようと、フェラーリのふたりが自分自身にプレッシャーをかけていたことも想像に難くない。そこに飛び込んできたクビアトは、ベッテルにとって天真爛漫な無法者。でも、レッドブル時代の後輩は知らない相手じゃない。表彰台の控室での口論は、険悪というより、兄弟喧嘩のように聞こえてきた。「僕が同じラインで走り続けたら接触するところだったんだ」「じゃあ、走り続けなきゃ……」「左にも他のクルマがいたんだから!」「僕から3台は見えないよ。目はふたつしかないから」「“僕ら”は接触したんだ」「“僕ら”は当たってないけど」「“おまえ”はね!」──テンポが少しコミカルになってきたところで、ベッテルが姿勢を正して後輩を諭し「今回は運が良かったと思うことだな」と締めくくった。表彰台が、うれしくてしかたがないクビアトは「まあまあ、先輩」というニュアンスで、ベッテルの肩をポンポンポンと叩いた。