「アロンソが出場できなくなったことは残念」
バーレーンGPの金曜日のフリー走行が終了した後、長谷川祐介総責任者はそう言って、オーストラリアGPの事故を振り返り始めた。オーストラリアGPでクラッシュしたパワーユニットは通常であれば、フライアウェイ用のチャーター便でメルボルンからバーレーンへ搬送される予定だった。
しかし、マシンはほぼ全損。損傷の状態を詳しく調査するためには、日本のHRDさくらへ送り返すところである。しかし、ホンダはさくらではなく、前線基地ともいえるイギリスのミルトンキーンズへ輸送した。それは、ダメージの大きさをFIAに見てもらい、ペナルティなしで交換できる可能性を残したためだった。だが、FIAはそのパワーユニットを見る前に、ホンダ側の要求を却下。やむなく、そのパワーユニットをさくらへ送り返した。
ダメージがいかに大きかったのか? 長谷川総責任者は次のように語った。
「完全に壊れていたのは、ヘッドカバーが割れていたぐらいで、そのほかはクランクが折れているとか、目で見てわかるようなダメージはなかったけれど、レースには絶対に使いません。使える部品があっても、油圧が落ちてしまっていることや、あれだけのクラッシュなので、目で見えないストレスもあるだろうから、使うとしても、さくらのテスト用ですね」
つまり、今回のバーレーンGPのフェルナンド・アロンソのマシンに搭載されるパワーユニットは、完全に新しいものだった。ところが、そのパワーユニットを扱う予定だったアロンソが、木曜日のFIAの検査によって、欠場を余儀なくされた。アロンソに代わって、バーレーンGPに出場することになったのは、リザーブドライバーのストフェル・バンドーンだ。
バンドーンはホンダがマクラーレンと組んで行った最初の実走テストである2014年末のアブダビ・テストで、マクラーレン・ホンダのマシンをシェイクダウンしたドライバーである。その後も、マクラーレン・ホンダのテスト走行や、ファクトリーでシミュレーターにも乗っており、チームとはこれまでも何度も仕事してきた。
だが、テストとレースはまったく異なる。そのため、マクラーレンはスーパーフォーミュラのテストからバーレーンに向かう機内で予習しておいてもらうために、コントロール系に関する指示書を何枚もバンドーンへメールしたという。ホンダも当初は、そうしようと考えたが、長谷川総責任者はやめることにしたという。
「昨年からパワーユニットがいろいろと変わっているので、その辺を説明しようかとも思いましたが、あまり事前の情報を与え過ぎても良くないんじゃないかと思い、あらたまって説明しないことにしました」
長谷川総責任者の決断は正しかった。日本から木曜日の深夜便で飛び、金曜日の午前中にバーレーンに到着したバンドーン。到着後は空港からサーキットへ直行。午前11時前にサーキットに到着したバンドーンの元にはマクラーレンのエンジニアが入れ替わり立ち替わり駆け寄り、さまざまな説明を与え続け、とてもパワーユニットの説明まで聞いている余裕など、バンドーンにはなかった。
それでも、金曜日はチームメートのバトンから遅れることコンマ7秒の11番手でデビューレースとなるバーレーンGP初日を終えたバンドーン。ホンダのパワーを使い切るであろう2日目以降に、期待したい。