ロズベルグは今回、3番手を走っていたフェラーリのセバスチャン・ベッテルに対する安全策を採る形で3回のピットストップを実施しました。これと異なる戦略としてまず思い浮かぶのは、2ストップ作戦です。しかし前述の通り、今回のレースではハミルトンの方がタイヤに厳しかったため、実際以上に長いスティントを走るのは、難しかったと思われます。もしハミルトンが2ストップを実施していたら、ベッテルの先行すら許してしまう可能性もあったでしょう。
もうひとつ考えられる戦略としては、ロズベルグよりも先にピットに入るということです。これを行えば、ハミルトンはロズベルグに対してアンダーカット(先に新しいタイヤを装着し、そのタイヤの性能を活かして速く走り、ピットストップ前に先行していたライバルの前に出る戦略)を成功させることになり、ロズベルグの前に出ることができたでしょう。しかしチームは、絶対にこれは許可しないはずです。今季ここまでのメルセデスAMGは、ふたりのドライバーのうち先行している方にピットストップの優先権を与えてきました。もし今回、この前提を反故にして、ハミルトンを先にピットに迎え入れてしまえば、ロズベルグの反感を買うことは間違いなく、チーム内の秩序を乱す原因にもなりかねません。
前戦メキシコGPでも、ハミルトンはチームの指示に異議を唱えるシーンがありました(タイヤのライフを考え、安全策としてピットインを命じたチームに対し、「僕のタイヤはまだ大丈夫だ。それはニコの問題だろ?」と無線で発言しました)。チャンピオン獲得を決めても、どん欲に勝利を目指す姿勢はさすがと言えますが、それにしても最近はチームの輪を乱すような発言が目立つような気がします。しかも今回はその上、「タイヤが終わった」「このペースのままじゃ走り切れない」「フロアにダメージを負った」など、“泣き言”も多く、しかも予選後にもロズベルグに負けたことに腹を立ててか、記念撮影に顔を出さないということもありました。すでに今季のタイトル獲得を決めているにも関わらず、現在のハミルトンはロズベルグに追い詰められ、そして苛立っている……そんな風にも見えます。
以上のことから考えると、今回のブラジルGPでハミルトンが勝つのは、スタートで前に出ることができなかった時点で、ほとんど不可能だったと言えると思います。そのくらい、今回のロズベルグのレースは、完璧に近かったということでしょう。