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悲願のタイトル獲得が見えるなかで……三部敏宏社長が話すF1撤退後のホンダ:前編【大谷達也のモータースポーツ時評】

2021年7月26日

 モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、国内外のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。今回のテーマは、『F1撤退後のホンダ』についてです。


* * * * * *


 レッドブル・ホンダのタイトル獲得が現実味を帯びてきた。


 こうなると、ホンダのF1撤退に関する決定がいよいよ恨めしく思えてくるが、今回はそんな後ろ向きな話題ではなく、「2021年にF1から撤退して以降のホンダは、なにをしようとしているのか?」について、現時点でわかっている限りのお話しをさせていただこうと思う。


 そう思い立ったのは、2021年4月に本田技研工業の社長に就任した三部敏宏さんにグループインタビューする機会があったからだ。


 今回の参加者は(私を除けば)日本を代表する自動車ジャーナリストばかりで、それも参加者は(私を含めて)5人とごく少数。


 おかげで、大規模な記者会見ではわからない三部新社長の素顔やその考え方に触れることができた。しかも、話題的にもモータースポーツに関連することが少なくなかったので、ここでは私の推測も交えながら「F1撤退後のホンダ」について考えてみたい。


 まずは、カーボンニュートラルへの取り組みについて。“第4期”のF1活動を終了する最大の理由と説明されたカーボンニュートラルについては、その内容が具体性に欠けていたことと、F1撤退の理由としてカーボンニュートラルを持ち出すことがあまりに唐突に思えたため、私は「その場しのぎ的な説明ではないか?」と疑っていた。


 しかし、4月23日に三部新社長が行った就任記者会見で、カーボンニュートラルに向けた具体的な数値目標が明らかにされ、「なるほど、本当にそうだったのか」と納得するにいたった。

2021年4月23日に行われた三部新社長の会見模様
2021年4月23日に行われた三部新社長の会見模様

2050年にHondaは、製品だけでなく、企業活動を含めたライフサイクルでの環境負荷ゼロを目指し、カーボンニュートラル、クリーンエネルギー、リソースサーキュレーションの3つを柱に取り組む。
2050年にHondaは、製品だけでなく、企業活動を含めたライフサイクルでの環境負荷ゼロを目指し、カーボンニュートラル、クリーンエネルギー、リソースサーキュレーションの3つを柱に取り組む。


 それにしてもホンダは、本当にカーボンニュートラルに向けて突き進むつもりなのか。改めて三部社長に確認してみた。


「(4月23日の発表は)社長に就任する前から、2、3年の間、ずーっと環境動向を調べてきたなかで決めたものです。実は、グローバルな視点で見ると、(カーボンニュートラルに対する)日本の反応は少し鈍い。しかも、コロナの影響で私たちの読みよりも(世界の動きは)さらに加速しています。これまでハイブリッドで先行した日本ですが、カーボンニュートラルという面では明確な道筋がまだ見えていません」


「そこで、またもや日本がガラパゴスにならないように、少し数字を挙げて具体的に発表しました。これも社長就任だから行ったわけではありません。目標自体は、八郷(前社長)がF1の終了会見を行ったときに、すでに決まっていました」

Hondaは、先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、そして2040年には、グローバルで100%を目指すと発表。
Hondaは、先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、そして2040年には、グローバルで100%を目指すと発表。

日本においてはEV、FCVの販売比率を2030年に20%、2035年に80%、2040年に100%を目指す。また2030年には、ハイブリッドを含めて100%電動車とすることを発表。さらに、2024年に軽自動車のEVを投入すると提示した。
日本においてはEV、FCVの販売比率を2030年に20%、2035年に80%、2040年に100%を目指す。また2030年には、ハイブリッドを含めて100%電動車とすることを発表。さらに、2024年に軽自動車のEVを投入すると提示した。


 つまり、ホンダがカーボンニュートラルに向けて突き進むのは既定路線であり、そこに迷いはないとの見解だった。


 そのことは、私の「(カーボンニュートラルから)引き返す道はあるか?」という問いに対する、三部社長の次のような答えにも表れている。


「いやー、歴史的にウチはそういうこと(引き返すこと)をしてこなかった。(今回も)いくところまでいくと思いますよ。結構、クリアに腹は括れていますから」


 電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を軸としたカーボンニュートラルの道をホンダが突き進むことは、これでわかった。では、それ以外の選択肢は残されていないのだろうか?


 ちなみに三部社長は、4月23日の記者会見でe-fuel(再生可能エネルギーで生成した燃料のこと。生成過程で二酸化炭素を取り込むため、カーボンニュートラルな燃料と考えられている)の可能性について次のように述べている。


「いろいろな技術の可能性は、残しておくべきです。たとえばe-fuelは、ホンダ内部でも研究しています。ただし、既存の燃料に比べて何十倍もコストが高いので、一般的に普及するのは難しいかもしれません。それでも、たとえばドライビングを楽しむためのクルマに使うという用途に関しては、十分可能性があると思います」


 2050年のカーボンニュートラルを目指すF1グランプリで、e-fuelの可能性が取り沙汰されていることはご存じのとおり。それどころか、内燃機関を用いるモータースポーツは、スーパーGTやスーパーフォーミュラを含め、いずれも燃料をe-fuelに移行する可能性が極めて高い。


 しかも三部社長は、e-fuelの可能性が残されている以上、内燃機関の研究開発を完全に停止させるつもりはないとも言明したのだ。


「e-fuelのことがあるので、内燃機関の研究開発を完全にゼロにするつもりはありません。ホンダがいま取り組んでいる燃料電池やバッテリーの研究だって、実際に担当しているのはエンジン関連の技術者たち。そういう意味でいえば、エンジンを開発してきたエンジニアがホンダにとっては、宝なんです。もちろん、エンジン開発をやめる必要が出てきたらやめるでしょうが、これまでのホンダにとってエンジンが勝ち技だったことは間違いありません」


 ここまでエンジンにこだわるホンダであれば、「e-fuelを用いるF1に復帰してもおかしくない」と結論づけたくなる。それとも、これはやや強引すぎる願望だろうか?


 後編では、もう少し別の角度から「F1撤退後のホンダ」について考えてみたい。

スーパーGT第4戦ツインリンクもてぎに訪れた三部敏宏社長
スーパーGT第4戦ツインリンクもてぎに訪れた三部敏宏社長



(Text:Tatsuya Otani
Photo:Shigenobu Yoshida/Honda)




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