カナダGP直前に大幅な人事の変更を伴う組織改革を発表。中本修平エンジニアリング・ディレクターをチームの技術部門のトップとなるシニア・テクニカル・ディレクターに任命したホンダ・レーシングF1だが、その中本氏は先週のカナダGPに続いてインディアポリスも欠席している。
これまでマシン開発を含めてチームの技術部門を統括してきたジェフ・ウィリスの去就も依然としてハッキリしないまま、事実上の休職ともいうべき「ガーデニングリーブ」(契約上はチームの一員の身分のまま、自宅待機状態となること)が続いており、突然の組織改変による余波でチーム内は少なからぬ混乱に陥っているようだ。
公式には「日本のホンダサイドとの技術的融和を高め、チーム内の組織をより分業化することで、ジェフ・ウィリスに集中していた負担を分散させることが目的」と言われている今回の組織変更だが、ウィリスが自主的に休職状態を選んだという事実から、彼がこの人事強い抵抗を感じていることは間違いない。
チーム代表のニック・フライが「ウィリスとの関係は依然として良好」とコメントしているものの、チームが不振に苦しんでいるこの大事な時期にウィリスが現場を放棄するという状況から察するに、チームとの関係はかなり悪化していると見るのが妥当だろう。これはウィリス本人との関係のみならず、彼が長年チームを組んできた他のエンジニアとの関係についても同じであり、チーム内には少なからぬ混乱が生じているものと思われる。事実、あるチーム首脳はあくまで「可能性」という意味でだが、ウィリスがチームを完全に離れる可能性についても否定していない。
これは逆の見方をすれば、ホンダ側が現在のテクニカル・ディレクターであるジェフ・ウィリスを失うリスクをある程度理解した上で、敢えて今回の組織改変に踏み切ったことを意味しており、シーズン前半の不振に対してホンダの日本サイドからウィリスへの不満が噴出した結果と見ることもできるかもしれない。
100%ホンダ資本となった今シーズンのスタート時点では、昨年までのチーム体制をそのまま維持するという方針を選んだホンダだが、大きな期待と共に臨んだ今シーズン前半戦がジリ貧の状態で推移するなかで、日本のホンダサイドから改めて体制見直しの声が高まりはじめ、より日本側の意思がダイレクトに反映される形を求めた結果が、今回の「大手術」へと繋がったようだ。
果たしてその決断が正しかったのか? その答えを知るには、今後、かなりの時間が必要になるものと思われるが、いずれにせよ、シーズン途中のこのタイミングでチームの組織に大きく手を入れたことによる混乱は少なくないはずで、中本シニア・テクニカル・ディレクターが2戦連続で北米ラウンドを欠席したのも、イギリスのファクトリーで新体制の整備と混乱の収拾に忙殺されてためのようだ。