カナダGPを控えた6月20日、ホンダ・レーシング・デベロップメント(HRD)でエンジニアリング・ディレクターを務めていた中本修平氏が、ホンダ・レーシングF1チームのシニア・エンジニアリング・ディレクターに就任するという発表があった。これはHRDとホンダ・レーシングF1チームの組織再編の一環で、テクニカル・ディレクターのジェフ・ウィリスがグランプリの現場から離れたのも、その流れを汲むものだという。
カナダGP金曜日の夕方、HRD社長の和田康弘氏が記者会見を開き、組織再編の狙いなどについて語った。以下はその概要である。
──組織再編の狙い。
「今まではコマーシャルだとかお金だとか管理部門を除くすべてがジェフの管轄下にあったわけです。今までのようにひとりが全部(の権限)を持つ格好にせず、複数人にスプリットした責任分野でやっていこうというのが考えです。来年、再来年に向けて大事な時期ですので、将来に向けた方向性を求めたいというのがホンダの意思です。今年のクルマのパフォーマンスが当初予想したものまで届いていないわけで、その状況の中でチームの中でも何らかの大きな変化が求められていたと思います。我々現場だけで決めたわけでなく、本田技研、青山と栃木も含めての意思として決めたものです。昨年末に100%化(チームの株式を100%取得)したときになぜやらなかったのかという質問が当然出てくると思いますが、あのときは既存の組織をホンダ100%の中でどううまく引き継いでいくかについて、スムーズな着地点を求めていたからです」
──既存の体制打破が狙いか。
「100人程度のF1チーム、あるいは200人くらいのチームはひとりの奇才、天才に引っ張られてクルマが出来てきた時代がつい最近までありました。ところが現在は400人、500人になっています。500人の組織をひとりで仕切るのは難しくなっています。だからといって自動車会社風の細分化した縦割り組織がいいとも思っていません。いい中間を見つけようとしているのが今の動きです」
──旧B・A・Rの体質にもっとホンダらしさを浸透させる動きか。
「それも狙いのひとつです。少しずつ時間をかけて元B・A・Rチームの人たちをホンダ化していきたい、そのためにいろいろやりたいと、100%化した際に言いましたが、待っているわけにはいかないので、もう少しホンダの人を中に入れようということです。ホンダ化プロセスを推進させるという意味では、今回の動きはひとつのステップだと思います」
──中本氏のポジションについて。
「シニア・テクニカル・ディレクターですので、今までのテクニカル・ディレクターのひとつ上になります。これまでも栃木とブラックレー(HRD)の共同作業はいろいろやってきました。今の時期は来年のクルマを決めていく入口になります。2008年にはもっと大きな変化がありそうですから、今年のクルマの後始末、来年のクルマのスタート、再来年のクルマのコンセプトミーティングと、3つが並行して始まっているわけです。その中で栃木がやるべきもの、あるいは栃木のリソースをうまく引き出してやるもの、こっち(HRD)でやるもの。両方分かっている人がひとつ上から全部見ようという考え方です。ジェフが悪いわけではありません。彼はF1のプロとしてブラックレーのオペレーションを今まで引っ張ってきたわけですが、全部(ホンダ栃木研究所とHRD)を掌握して大きな絵を描こうとすると、違った次元が必要だろうというのが今回の結論です。中本の新しいポジションは、必ずしも全レース現場にいなければならないということはありません。ファクトリーでやるべきことがたくさんあれば、そっちに専念することもあります」