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ホンダF1本橋CEが語る角田裕毅のデビュー戦「複雑極まりない操作に難なく対応。表彰台を期待できる体制での飛躍を願う」

2021年4月7日

 スクーデリア・アルファタウリ・ホンダを担当するホンダの本橋正充チーフエンジニアが、2021年F1バーレーンGPでF1にデビューした角田裕毅の戦いぶりを振り返り、短期間でしっかり準備を整え、堂々とした走りを見せたとして、高く評価した。


 角田は予選ではQ2をミディアムタイヤで通過することができずに13番手、決勝スタートでポジションを落とすものの、そこから果敢にオーバーテイクを繰り返し、9位入賞を果たした。日本人F1ドライバーのデビュー戦最高位7位には届かなかったが、現在のポイントシステムの関係で、日本人ドライバーがデビュー戦でポイント獲得を果たしたのは角田が史上初めてだ。


 ホンダは本橋チーフエンジニアのコラムを公開、そのなかで本橋氏は、角田はF1デビュー戦で見事な戦いぶりを見せたと、合格点を与えた。


「9位入賞を果たした角田選手は本当に堂々とした速さを見せてくれましたね。(フェルナンド・)アロンソ選手や(セバスチャン・)ベッテル選手、(キミ・)ライコネン選手といった元チャンピオンを綺麗なオーバーテイクで抜いていく姿は、デビュー戦としては非常に鮮烈でした」と本橋チーフエンジニア。


「予選Q2はタイヤ選択に泣いた部分もあったので、Q3に進出してもう少し前からスタートしていたらどこまで行けたかな? などとも思いましたが、まだ楽しみは先に取っておきましょう。日本でも色々とニュースになっていたようですが、アルファタウリのチームメイトはもちろん、F1パドックにいる他チームやメディアからもすでに一目置かれる存在になっているようで、本当に楽しみです」

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 角田をFIA-F3時代から見守り、2020年のF1テストから一緒に仕事をしてきた本橋チーフエンジニアは、デビュー戦で角田の成長を実感、「『短い期間でよくここまで頑張ってきたな』という印象」と記している。


 特に、F2とF1ではステアリング操作の複雑さが全く異なるが、角田はそれにも難なく対応できていたことに感心したという。旧型車でのテストの時から、角田はエンジニアに指示されていないときでも自分でステアリングスイッチを触りながら、マシンの反応を確かめていたと、本橋チーフエンジニアは言う。


 F1マシンのステアリングには多数のスイッチがついており、複数のスイッチ操作を組み合わせることで、パワーユニット(PU/エンジン)だけでも数万通りの動作パターンが設定されているという。ドライバーはドライビングに集中しながら、同時に複雑なスイッチ操作を行わなければならない。


「レースの際には、我々ホンダのエンジニアはPUから送られてくるデータとレース状況を監視しつつ、チーム・ドライバーの要求と、レース・マシンの状況に対して最適なPUの設定を導き出して、最適な設定に変更するようにチーム側のエンジニアに伝達します。そしてそのエンジニアがドライバーに変更の指示を送っています」と本橋チーフエンジニア。


「基本的にはドライバーはその指示どおりに、いくつかのスイッチを押して充放電などのモードを変更していくわけです。ただ、これまで我々が一緒に仕事をしてきたドライバーの中には、時として自分でレース状況を考えて、我々が指示を伝える前に自分で最適なPUのモードを選択できるといったスキルを持つ人も存在しています」


「簡単に聞こえますが、市販車やゲームのように“3個のモードが用意されていてそれを随時切り替えていく”と言った簡単なものではなく、前述のとおり、最大数万通りの設定から専任のPUエンジニアが最適なモードを随時選択していくものです。したがって、スイッチ操作を自分で行うといっても、その大前提として、複雑な仕組みとそれによるパフォーマンスの違いを正確に理解していることが求められます」


「そうした知見が非常に優れ、エンジニアとして舌を巻くようなドライバーも存在していますし、逆にそういったことを全く行わず指示に忠実にドライブするドライバーもいるので、どちらがいいかは一概には答えられません。ただ、ドライバー自身が自分の感覚や状況に応じてレース中に『あとXX周後のこのコーナーで前のマシンを抜きたい』といったことを考えながらレースを組み立てているはずで、その際に自分の手足となるF1マシンについて、例えば『ここでパワーを使わず、ここで使い切る』といったように、ある程度自分で考え、思いどおりに操作できたほうが、レースを組み立てていく上では強みになるはずです」

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリAT02・ホンダ)

「角田選手がどういったタイプのドライバーなのか、レースを多くこなしていない今はまだ分かりませんが、テストの際に担当エンジニアが『こんなにスイッチを自分で触るドライバーは珍しい』ということも言っていましたし、操作に応じたマシンの挙動やPUのパフォーマンスの違いを、積極的に学ぼうという、とても強い意欲を感じました。少なくともバーレーンGPを見る限りは、そういった部分の理解が非常に深いように思っています」


「フィジカル面についても同じですが、向上していくためにストイックかつ貪欲に努力をしていけるドライバーだという印象です」

■「イタリアのチームでしっかりコミュニケーションをとり多くの味方を作っている」

 また角田はチームとうまくコミュニケーションをとる能力についても優れていると、本橋チーフエンジニアは感じている。


「F1ドライバーに速さが求められることは当然ですが、それ以外にも、自分の走行スタイルにマシンを合わせるため、『エンジニアとメカニックにマシンをセットアップしてもらう能力』というものが必要です。そのため、自分の要望を伝えるコミュニケーション能力に加え、周りを巻き込み、自分の味方につける能力が求められるのですが、角田選手はイタリア人中心のチームの中でも、そういったことがしっかりとできている印象です」


「ちょっとしたことですが、セッションがすべて終わった後に一人ひとり『ありがとう』と伝えたり、サーキット入りした際にも会ったみんなにきちんと挨拶したりといった姿勢が、多くの味方を作ることに繋がっているようにも感じます」

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

「この1年を今後さらに彼がトップドライバーになっていくための飛躍の年にしてほしいと願わずにはいられませんし、私たちも彼が世界を驚かす姿を間近に見られたら、こんなにうれしいことはありません」


「ただ、実際にはルーキーなのでまずは地に足をつけてF1に適応していくことから始まると思います。素晴らしい開幕戦を戦ってくれただけに、周囲の注目度や期待も上がっているように思いますが、ここからも気負わず、これまでどおりの角田選手らしいアグレッシブな走りを見せてほしいと思っています。また、PUからパワーを引き出すために、ホンダとしても最大限のサポートをしていきます」


 本橋チーフエンジニアは、アルファタウリ・ホンダのパフォーマンスについても開幕戦で大きな手応えを得たということで、2021年シーズンには表彰台を獲得できるチャンスがあるかもしれないという期待を持ったということだ。


「私が担当するアルファタウリについてもレッドブルと同じく、うれしさ半分、悔しさ半分という開幕戦でした。2台ともに週末を通して速さを見せていたことを考えると、角田選手の9位入賞のみという結果はチームとしてはやや寂しいですが、マシンとしてもチームとしても力があるという手応えを得られたので、今シーズンに向けてはポジティブです。どこかで表彰台を獲得できるのではないかと今から楽しみにしています」

2021年F1第1戦バーレーンGPに向けて角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)に多数の応援メッセージが寄せられた

 本橋チーフエンジニアのコラム「Behind the Scenes of Honda F1 2021 -ピット裏から見る景色- Vol.03」は以下で読むことができる。




(autosport web)


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