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2021年のF1に期待したいこと。アロンソ×ルノーの第3スティントとペレス×レッドブルが生む戦術【特別コラム】

2021年1月25日

 With コロナと表現することに心が痛むけれど、受け入れなければならない現実だ。2021年のF1は、その“シーズン2”を迎えようとしている。カレンダー上は23戦が予定されていても、23戦という数字自体が不可抗力による変更を予感させるもので、F1がどれだけコロナ対策に尽力しようと、世界の感染状況、各国政府の判断によって、物理的に開催が不可能になる事態は十分に考えられる。


 2020〜2021年のマシン開発が大幅に制限されるなか、驚くような戦力図の変化も望めない。そんな状況でも、期待を膨らませるのはドライバーという“選手”の要素。ルイス・ハミルトンのメルセデス残留が確定しても、10チーム中7チームが新たなドライバーを迎えて挑むコロナ禍のシーズン2なのだ。


 なかでも注目されるのは、最後にトップチームのシートを獲得したセルジオ・ペレス。レッドブルが育成プログラムの外からドライバーを迎えるのはマーク・ウェバー以来(実質上、初めて)のことで、ペレスにとっては11年目のF1でようやく手にしたトップチームでのチャレンジとなる。


 ペレスが類まれなタイヤ管理能力によって成績を残し、2013年に華々しく移籍したマクラーレンは、その前年にはルイス・ハミルトン、ジェンソン・バトンとともに7勝を挙げていたチームだった。


 しかし2013年、不振に陥ったチームではバトンさえ表彰台に届かず、困難な状況のなかではペレスの経験不足も災いし、粗削りな一面が批判を浴び、1年でチームを去ることになった。失意の底から彼を救い出したのがフォース・インディアで、以後7年間、ペレスはシルバーストンのチームとともに成長を遂げることになった。


 興味深いのは、セルジオ・ペレスというドライバーがデビュー当時とは比較できないほどの進化を示してきた点だ。起点となったのはマクラーレンで味わった失望で、辛い経験ではあったものの「あの経験がなければ今日の僕はいない」と彼は表現する。


「人生のあらゆる局面で言えることだけど、何かが上手くいかない時には、立ち止まって、なぜ上手くいかないのか熟考することが必要だった。誰かにアドバイスされたわけじゃない。僕自身がそう思えることが大切だった」


 具体的には、自らの攻撃性を最大の強みとして接戦に挑んできたドライバーが、視野を広げ、レース距離で“最大限の結果”を引き出す術を身に着けた。


 混戦のなかで“限界”は自分だけで決めるものではなく、相手との相対的な関係によって決まるものだと悟り、抜けない状況では刃を隠し、レース後半に有利な作戦を展開すべくベースを築いた。生来のタイヤ管理能力はもちろん、そんな彼に説得力のあるレース結果をもたらした。

2020年F1第16戦サクヒールGP セルジオ・ペレス(レーシングポイント)
2020年F1第16戦サクヒールGP セルジオ・ペレス(レーシングポイント)


 フォースインディアは「終わりかけていた僕のキャリアを生き返らせてくれたチーム」だとペレスは言う。チームの進化にともなって、ペレスは自らの攻撃性を開放するチャンスをも的確につかんでいった。2020年、トルコGPでの2位、サクヒールGPでの初勝利は、7年間の共同作業の、集大成だったと言っていい。


 レッドブルという新しい環境のなか、セルジオ・ペレスはどんな活躍を見せるだろう――2021年の大きな興味だ。予選ではマックス・フェルスタッペンが先行するだろう。しかしレースにおいては、扱いにくいピレリタイヤを使いこなしてきた“レーシングポイントの企業秘密”がそのまま手に入る状況。


 フェルスタッペンとペレスがお互いの走行データから学び、相乗効果の結果チームが新たな戦術を編み出せば“ハミルトンのメルセデス”を挟み撃ちにする――レッドブルが大好きな状況が生まれるのだ。


 ペレスを手放すという判断は、ローレンス・ストロールによるものだ。アストンマーティンとして2021年に挑むチームにとって、その判断が損失とならないためには、セバスチャン・ベッテルの復活が必須となる。


 コーナーの途中でバランスが変わらない、ベッテルが好む“リズムをつかめる”マシンと、チームのサポートはもちろん。挑戦の行方は、何よりも、ベッテル自身が立ち止まって熟考できるか否かにかかっている。

2020年シーズンは最悪の年になってしまったと言わざるを得ないベッテル。チームが変わり、かつての輝きを取り戻せるか。ベッテル自身の気持ちと姿勢を変えることも重要になるはずだ。
2020年シーズンは最悪の年になってしまったと言わざるを得ないベッテル。チームが変わり、かつての輝きを取り戻せるか。ベッテル自身の気持ちと姿勢を変えることも重要になるはずだ。

??帰ってくるアロンソがリカルドの抜ける穴を埋めてくれる

 フェルナンド・アロンソの復帰も、F1にとって刺激的なニュースだ。マシン開発を制限するトークン制は、トークンを使わず提携チームからの2020年型パーツを受け取れるアストンマーティンやアルファタウリに有利に働く。


 マクラーレンはメルセデスPUからパワーを得る。2020年シーズンをコンストラクターズ選手権5位で終え、チーム名をアルピーヌと改称し、上層部の改革を進めるルノーにとって有利な状況ではない。だからこそ、アロンソが“帰ってきた”意味は大きい。


 F1から離れていた2年間は、アロンソにとっておそらくハンデとはならないだろう――唯一無二の空間認識能力と反射能力、緻密にマシンを操作する“器用さ”は彼が生まれつき備えている特性で、本人ですら言葉で説明できない、他から見ると異次元のものだ。


 ダウンフォースが増した今日のF1マシンではグリップの限界を感じ取る能力と瞬間の反応がタイム差を生み出すが、それこそ、2005〜2006年のF1を制したアロンソが求める世界。当時のルノーは、フラビオ・ブリアトーレ曰く「予算的には5番目のチーム」だった。

2005年、ルノーから参戦していたアロンソは年間19戦中、7度の優勝を含む15回の表彰台を獲得。当時、F1史上最年少でのチャンピオンに輝いた。
2005年、ルノーから参戦していたアロンソは年間19戦中、7度の優勝を含む15回の表彰台を獲得。当時、F1史上最年少でのチャンピオンに輝いた。


 フェラーリ時代の彼が選手権2位に終わった2010年や2012年に関して“最終戦でタイトルを逃した”と表現するメディアもあるが、現実には“アロンソの力で最終戦まで可能性を残した”と言うべきだった。2005〜2006年を含めて、フェルナンド・アロンソがシーズンを通して最強のマシンを手にしたことは一度もない。


 マクラーレン・ホンダの困難な時代、チーム代表を務めたエリック・ブーリエは「フェルナンドはチームの支柱だ」と表現した。「私が言わなくとも、フェルナンドが口を開いただけで全員が現実に耳を傾ける」と。

2021年シーズンのマクラーレンはエンジンをメルセデスにスイッチし、マシン性能も高く、2020年以上の成績が見込めるだろう。果たしてリカルドはマクラーレンにどんな戦績をもたらし、古巣ルノーのアロンソを相手にどんなバトルを見せてくれるだろうか。
2021年シーズンのマクラーレンはエンジンをメルセデスにスイッチし、マシン性能も高く、2020年以上の成績が見込めるだろう。果たしてリカルドはマクラーレンにどんな戦績をもたらし、古巣ルノーのアロンソを相手にどんなバトルを見せてくれるだろうか。


 ワークスチームとして再出発したルノーは、技術的な困難を内包したままの状態でも、ダニエル・リカルドの存在によって“手にしたマシンの最大限を引き出す”軌道を見出してきた。


 HRT、トロロッソ、とりわけPU時代に入ってからのレッドブル・ルノーにおいて、特筆すべきリカルドの才能は“グランプリ現場において、最短の走行距離からベストを引き出す”効率に表れた。彼がルノーPUで走ったフリー走行の周回数は、ほとんどのセッションでライバルより5〜10周少ない。レースにおいても、冷静な状況判断が結果に大きく貢献した。


 そんなリカルドを失う“喪失感”を埋めることができる存在は、アロンソをおいて他になかったはずだ。2005年のサンマリノGP、FP1の走行が始まる前にエンジン内部の損傷を発見したルノーは、ペナルティを避けるためエンジン交換を行わなかった。初めてのタイトルを目指すアロンソは、フリー走行でほとんど走れない選択を受け入れた。当時23歳。0.2秒差でミハエル・シューマッハーを抑えて勝利したレースである。


「フェルナンドが走っていると、心底レースを楽しめる」とルノーのエンジニアが言った。「データをチェックして仕事に集中しながら、一方で、不安なくレースを楽しむ自分がいるんだ」と――。


 湿った路面の走行ラインや、ライバルを真後ろに引き寄せてそのタイヤを疲弊させる技、雨の予選Q3でウエットタイヤを2セット使う判断、モンツァの予選ではスリップストリームでチームメイトと助け合う、タイムを落とさずエンジンとタイヤを労わる……など。


 今では誰もが目指しながら、今も簡単には実現できない技は、多くがアロンソの“勝負魂”から生まれたものだ。


 ルノーとの第3スティントは“名脇役”に留まらず、主役を演じるチャンスが欲しい。チームに誘導されるのではなく主導権を持って戦うドライバーの存在は、レースを引き締め、F1にエンターテイメントを復活させるはずだ。



(Masako Imamiya)


レース

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6位ジョージ・ラッセル217
7位ルイス・ハミルトン208
8位セルジオ・ペレス152
9位フェルナンド・アロンソ63
10位ニコ・ヒュルケンベルグ35

チームランキング

※ラスベガスGP終了時点
1位マクラーレン・フォーミュラ1チーム608
2位スクーデリア・フェラーリ584
3位オラクル・レッドブル・レーシング555
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム425
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム86
6位マネーグラム・ハースF1チーム50
7位BWTアルピーヌF1チーム49
8位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム46
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10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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