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【中野信治のF1分析第2戦後編】ハミルトンに酷似するノリスのスピード感覚。ワークス勢を襲うピンク・メルセデスの脅威

2020年7月16日

 3か月遅れながら、ついに始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。前回の第2戦の雨の予選に続いて、後編はメルセデスのワンサイドゲームになった決勝の分岐点、そして中野氏が注目する次代を担う若手F1ドライバーをピックアップします。


  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 第2戦の決勝に関しては開幕戦の答え合わせのような、ある意味、今のそれぞれのクルマの能力の現状、そして勢力図を知るうえでわかりやすいレースになりましたよね。


 メルセデスがレースでも速くて、レッドブル・ホンダとしてはノーミスだったと思いますが、今回はメルセデスに勝つにはノーチャンスでしたね。レッドブルのクルマはメルセデスに比べて明らかにピーキーな挙動で、第1スティントに装着したソフトタイヤでは厳しいなと思っていました。


 レッドブルが逆転できるチャンスとしては、第2スティントでミディアムタイヤを装着したときだと見ていました。もしかしたらメルセデスよりもレースペースが速くなる可能性があるかなと思っていましたので、第2スティントの走り出しのお互いのタイムでレースの勝敗が決まると予想していました。


 レッドブルもそれを理解していたか、(マックス)フェルスタッペンを早めにミディアムタイヤに換える作戦を採りました。それでも(ルイス)ハミルトンもすぐにフェルスタッペンに合わせてきて、しかもハミルトンのペースがミディアムタイヤでも速かった。この時点である意味、今回のレースの勝敗は見えました。そして、両者のクルマのポテンシャルの差がまだ大きいということも証明されてしまいました。今回の差は、さすがにドライバーの能力ではいかんともしがたい差です。


 その状況でも、レースでのフェルスタッペンの走りは凄まじかった。2番手を走行しながらトップのハミルトンに序々に離されていく展開でしたが、僕は実際のクルマのポテンシャル差は、あのタイム差以上にあったと思います。それくらい、フェルスタッペンは本当にあのピーキーなクルマを毎周毎周、予選のアタックのようにものすごい集中力とテクニックで走らせていました。


 チームメイトの(アレクサンダー)アルボンも決して遅いドライバーではないと思いますし、レッドブルのクルマが若干、フェルスタッペン寄りなのかなと思いますので一概には比べられないですけど、アルボンとフェルスタッペンのラップタイムには差がありました(第1スティントではフェルスタッペンが1分8秒台後半、アルボンが1分9秒台前半)。


 フェルスタッペンはピーキーなクルマの特性をゼロカウンターからカウンターを当てるギリギリのところ、クルマがスピンしないギリギリのところでステアリングとスロットルをコントロールして毎周同じように攻め続けていました。これはなかなかできることではないですし、改めてフェルスタッペンのすごさを見せつけられました。


 フェルスタッペンは予選のように走っているので当然、タイヤには厳しくなるので、それぞれのスティント後半は苦しくなってしまう。最後は(バルテリ)ボッタスにも逆転されてしまいましたが、その抜かれるところでもフェルスタッペンの意地を見ましたし、どういう状況になってもフェルスタッペンはアピールするところはきっちりアピールするし、その実力、巧さも見せました。


 オーストリアのコースは高低差も大きくて特にリヤのトラクションが厳しくなりやすいのですが、その中でもフェルスタッペンのクルマはどんどんオーバーステア気味になって、中高速コーナーが厳しくなっていきます。他のタイヤにやさしいコースだとフェルスタッペン、そしてレッドブルはもう少し勝負できたのかなと思います。


 優勝争い以外でも、今回のレースは中団勢の戦いがとても面白かったですよね。なんと言っても、まずはピンク・メルセデス(笑)。(レーシングポイントの今季型マシンが昨年のメルセデスのマシンの外観に酷似していることから、関係者の間では通称ピンク・メルセデス)


 今年はフェラーリの調子がよくないので、メルセデス、レッドブルに続くチームとして、フェラーリに代わってピンク・メルセデスのようなチームが出てきて、見ている側としてはとても面白いですよね。ピンク・メルセデス、(セルジオ)ペレスが連続でファステストタイムを出していましたが、レース後半のラップタイムはトップのハミルトンが抑えていたとはいえ、メルセデスと近いタイムでしたからね。


 ペース的にはペレスはアルボンの前に出る速さでしたし、レースで追い上げて追い上げてタイヤを使ってのタイムなので、すごいですよね。ただ速いだけでなくてピンク・メルセデスはタイヤにやさしいクルマと言えますし、ペレスもタイヤマネジメントが上手いドライバーですので、その良さがレースで出ていましたよね。


 一方、ペレスは雨の予選で17番手でしたが、おそらくあのクルマはウエットのセットアップを全然煮詰め切れていないのだと思います。チームはまだクルマの特性を理解し切れていなくて、言い換えれば、あのピンク・メルセデスはこれからまだまだ速くなるポテンシャルがあると思っています。


 これからもタイヤに厳しいサーキットではピンク・メルセデスのコンビ、特にペレスはかなり面白い存在になるのではないでしょうか。

■中野信治氏が注目する若手ドライバー、ランド・ノリス。その類い希なるドライビング。FIA-F2の角田裕毅の今後について

 フェラーリは予選の雨でも速くなかったので、パワーユニットだけの問題ではないのかなと思います。雨で速かったらコーナリングは悪くない、車体側は悪くないというイメージを持てたのですが、ウエットの予選ではトラクションが全然なかったですし、ストレートスピードだけの問題ではないなと。開幕戦は(シャルル)ルクレールの巧さ、レース展開で2位まで持っていきましたが、雨の予選を見てちょっと心配になりましたね。


 決勝の(セバスチャン)ベッテルとルクレールの接触も、本当に悪い時には悪いことが重なりますよね。あの接触もお互い行き場がほとんどなくて、ルクレールも空いているイン側にどうしても行ってしまうので、仕方がない接触とも言えます。あれだけ力のあるチームなのでシーズン中でもいろいろアップデートして修正してくると思いますが、流れが悪い時はこういうことが起こりやすいですね。


 あと、今回のレースで僕が気になったのはマクラーレンの(ランド)ノリスです。ノリスは僕のイメージだとクルマの感じ方、クルマの動かし方がちょっとハミルトンに似ているんです。もちろんハミルトンはより完成されていて、ノリスはまだちょっと荒削りでタイヤをいじめやすい部分があるんですけど、クルマの向きの変え方とかスピード感覚は似ていて、ファイティングスピリットみたいなところも面白いですよね。


 具体的には、コーナーに入る時のブレーキの残し方とステアリング切り込むタイミング、クルマの向きを変えてアクセルを踏むタイミングが独特で、僕が見ている限りハミルトンに似て若干、カートのようにマシンを動かすんです。チームメイトの(カルロス)サインツJr.と比べると、サインツJr.が四輪ドライバーの走りで、ノリスがカートドライバーのような走りのようなイメージです。


 クルマの向きを変えるスピードがサインツJr.より早いイメージで、おそらくコーナリング速度はノリスの方が速いのではないでしょうか。ノリスは今後、ダウンフォースの大きいクルマ、より速いクルマになればなるほどいいタイムを出せるでしょうし、スピード感覚というかセンスのようなものを感じますので、まだまだこれから伸びると思います。今回の最終ラップでもオーバーテイクして順位を上げていましたし、その諦めない姿勢とかもすばらしいですよね。

2020年F1第1戦で3位表彰台を獲得したランド・ノリス(マクラーレン)
2020年F1第1戦で3位表彰台を獲得したランド・ノリス(マクラーレン)


 最後にFIA-F2で初のポールポジション、そして2位表彰台を獲得した角田(裕毅)選手についてですが、ポールポジションからスタートしたレース1の雨の決勝はピットストップのアクシデントで2位のもったいない展開になりましたが、あのアクシデントがなくてもトップの(ロバート)シュワルツマンもいい走りをしていたので、優勝は五分のいい勝負だったかなと思います。


 去年、角田選手がFIA-F3に参戦していた時に僕もベルギーとスペインのレースに行って、チームから走行データを見せてもらいました。去年は厳しいチームだったこともありますが、彼がクルマのポテンシャルを引き出すのが非常に上手いドライバーだということを知っていますので、今年FIA-F2にステップアップして速いクルマになっても、すぐに速く走れるだろうなというのは分かっていました。


 今年、これからのレースも彼はトップコンテンダーとして走ると思いますし、普通にトップで戦えると思っています。結局、結果も大事ですけど、いかにクルマの限界を引き出して走れるかが重要ですので、その能力が高いドライバーはこれから先、どのサーキットに行っても速く走れると思います。


 クルマの走らせ方に関しては彼の中で完成していると思いますので、あとはチームを作り上げていく能力とか、セットアップを外したときにそれをまとめいく能力とか、そういった部分が彼のなかに備わっていけば確実にいいところで戦い続けられると思います。


<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2019年からTEAM MUGENの指揮を執る中野信治監督
2019年からTEAM MUGENの指揮を執る中野信治監督



(Shinji Nakano /まとめ:autosport web)


レース

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5位カルロス・サインツ259
6位ジョージ・ラッセル217
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9位フェルナンド・アロンソ63
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※ラスベガスGP終了時点
1位マクラーレン・フォーミュラ1チーム608
2位スクーデリア・フェラーリ584
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4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム425
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム86
6位マネーグラム・ハースF1チーム50
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