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【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的解説】F1の今後を見据えて。槍玉に挙がるプライベーターのクローンマシン批判への苦言

2020年6月16日

 ここ数年、物議を醸している同じパワーユニット(PU)/エンジンチームのクローンマシン問題。2020年はレーシングポイントの新車RP20がやり玉に挙げられている。クローン車批判は数年前からフェラーリと関連のあるハースのVFシリーズで始まり、これは現在でも燻ってはいる。


 しかし、ハースからチーム発進時の勢いが衰え、フェラーリらしいパフォーマンスを発揮出来ずにいることで、ライバルチームの持っていたフェラーリクローンへの危機感が薄れ、ハースVFシリーズを名指しでの批判は影を潜めていた。


 また、今シーズンのアルファタウリ(元トロロッソ)AT01はほぼそのまま昨年のレッドブルRB15を使っているのだが、意外とこのチームを名指しで非難する声は小さい。ところが、レーシングポイントRP20へはメルセデスのクローンマシンだとして大きな非難の声が上がった。


 不思議なことに、レーシングポイントRP20はハースVF20やアルファタウリAT01に比べれば遥かにクローン度は低いのに、なぜここまで非難の声があがるのだろう?


 その答えは単純かもしれない。RP20の見た目は昨年のチャンピオンマシン、メルセデスW10に酷似しているからだろう。


 たしかにボディワークはW10型を採用し、見た目のエアロはまさにW10コンセプトを「パクった」と言っても過言ではない。しかし、これをクローン車と批判するのは大きな間違いだ。エアロの酷似を言うなら何もクローン車ばかりでなく、どこのチームも他チームで成功したエアロパーツは必ずそのコピーに近いパーツを自分たちのマシンに登場させているではないか。


 要は批判する者はワールドチャンピオンを総ナメにしてきたメルセデスのソックリさんであることが気に入らないのだ。しかも、開幕前テストでは充分に速かったという事実もあるのだから。


 クローン車は70年の歴史を誇るF1にはこれまで数多く登場し、時には一世を風靡した時代さえあった。70年前のアルファ、そして続くマセラッティ、フェラーリもクーパーもマクラーレンもブラバムもロータスもティレルもF1マシンを他チームへの供給・販売していたのだ。


 しかし80年代に入ってF1チームを定義するために、より厳しくコンストラクターの条件が課された。それ以後、完全なカスタマーカーは大きく規制されるようになった。


 もちろん世界最高峰で争うF1だけに、規則の合間を縫った抜け道は多く“ほぼカスタマーカー”は何台も出現した。


 たとえば2004年ザウバーC23、エンジン、ギヤボックスをフェラーリから供給を受け、車体はザウバー製だが、前年のフェラーリF2003-GAをほぼコピーしている。当時はフェラーリ・クローンとして多少騒がれはしたが、チーム状況からそれ以上の問題には発展しなかった。

■写真で違いがわかるレーシングポイントRP20とメルセデス2019年のW10

 クローンマシンはいつも何らかの反発を買う。これはF1のチーム間格差が広がれば広がるほど、特に直近のライバルチームは強く反発するものだ。
 
 今回のレーシングポイントRP20への反発も、もちろんそんな裏事情が働いているようだ。現実にRP20を検証すれば、見た目はメルセデスW10に酷似するが内容は大きく違い、モノコックもサスペンションも熱交換器等のインターナルエアロもW10と一線を隠している。そのアプローチの仕方は、まさにレーシングポイント的だ。


 多くのメディアは見た目の類似性を指摘するが、RP20のサスペンション、特にフロントは独自のコンセプトを維持していることが、こちらの写真からもわかるだろう。

レーシングポイントRP20のインターナルエアロ
レーシングポイントRP20のインターナルエアロ


メルセデス2019年マシンW10のインターナル
メルセデス2019年マシンW10のインターナルエアロ

 実際、昨年のメルセデスW10のロールロックやシングルトーションバーは採用されず、むしろレッドブル的なシステムを採用していた。もちろんロッカーの回転中心には左右にしっかりとトーションバーが収められ、ロールも許容されていてその制御は巨大なロールダンパーが受け持っている。

レーシングポイントRP20のサスペンション部
レーシングポイントRP20のサスペンション部


メルセデス2019年マシンW10のサスペンション部
メルセデス2019年マシンW10のサスペンション部

 たしかにエアロのコンセプトはW10型を採用しているが、これはギヤボックスがメルセデス製の供給を受けているために、サスペンションのレイアウトやケーシングの形状が低レーキ(マシンの前傾姿勢)でのフロア下エアロへ特化したものなので、「これを最大限に利用するにはW10型エアロが最も効率が良いからだ」と、テクニカルディレクターのアンディー・グリーンも語っている。


 つまり、そもそもレーシングポイントはチーム設立のコンセプトや運営スタンスを見てもハースやアルファタウリとはまったく違っており、レーシングポイントはジョーダン・グランプリから連なる、れっきとした老舗コンストラクターなのだ。


 これから先、F1は規則がより厳しくなり、予算の上限を定めた開発の凍結も始まる。制限が厳しくなったなかの開発でアドバンテージを得るのは極めて難しく、金銭的・リソース的に優位なのは、事実上現在のトップ3を形成するワークスチームでしかないのだ(レッドブルもホンダワークスに准ずると考えればだが)。


 したがって、今後も間違いなくF1ではクローン車は増加してくるはずだ。そうしなければプライベーターは生き残る術がない。新規参入メーカーが出てこない限り、プライベーターが競争力の高いワークス待遇のPUを手に入れいることは現状、ほぼ不可能に近いのだから。


 世の中のメディアやライバルチームは必死に戦うレーシングポイントのRP20に故無き批判をする前に、ワークスチームが君臨する現状のF1グランプリの背景を理解し、しっかりと見据えなければならないことに気づくべきだろう。



(Tetsuo Tsugawa)


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