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今宮純が語るF1日本GP、今年だからこその鈴鹿の見どころ

2017年7月13日

■3年連続の可能性も。F1鈴鹿が達成中の偉大な記録


 F1日本GP鈴鹿は、孤高の“F1世界記録”を持っている。それは出走全車完走レース、2015年(20台)と2016年(22台)、2年連続でリタイアが皆無だった。1950年からのF1史上、全車完走レースはわずか7回、その2回が高速テクニカルコースの鈴鹿で続いて達成された。
 
 難易度が高い鈴鹿でマシンが1台も壊れず、ドライバーはひとりもマシンを壊さずにパーフェクトレースが繰り広げられた。スポーツとしてショーとして、最後までファンに応えた1位から最下位のパフォーマーたち。2年続きの『ミラクル・グランプリ』、鈴鹿日本GPは世界にひとつだ。


■ベルガーが語る、鈴鹿とファンのリスペクト

2017年F1第9戦オーストリアGP ゲルハルト・ベルガー
2017年F1第9戦オーストリアGP ゲルハルト・ベルガー


 30年前は100秒サーキットだった。1987年ポールシッターのゲルハルト・ベルガー(フェラーリ)1分40秒042、26位ロベルト・モレノ(AGS)1分50秒212。初めて地上最速F1マシン群が鈴鹿を駆けめぐるさまに、各コーナーで観客は見とれた(自分もそのひとり)。


 国内凱旋のホンダ勢を期待していたのに、フェラーリとベルガーのPPウインに砕かれた。マニアだけでなく多くの人が『エフワン』にスポーツ・ナショナリズムを感じた87年。


 陸上100mが9秒台前半、マラソンが2時間を切るかというタイム挑戦譜は、F1にも当てはまる。1991年から01年まで鈴鹿コースレコード、1分34秒700を所持してきたのはベルガー。それをある会食の場で言うと彼は覚えてなく、「タイムレコードにそれほど関心があるのは日本くらい。どうもありがとう(笑)」と好物の神戸ビーフをぱくついた。


「鈴鹿のファンは目が肥えている、知識も記憶もすべて。トップの者だけでなく、ドライバー全員をリスペクトしてくれる。こんなことはモナコ、シルバーストーンでもない」


 何人ものチャンピオンたちがそう言った。このサーキットで下手なことはできない、すべて見られている、いいところを見せてやろうじゃないか……。ファンが彼らをその気にさせるグランプリはとても少ない。


■2016年の予選の明暗を分けたセクターポイント

2016年 F1日本GP PPを獲得したニコ・ロズベルグ
2016年 F1日本GP PPを獲得したニコ・ロズベルグ

 1列目メルセデス、2列目フェラーリ、3列目レッドブル、きれいに色分けされた昨年のトップ6グリッド。PPは3年連続ニコ・ロズベルグ、またもルイス・ハミルトンは逃し、一度も獲得できない鈴鹿コンプレックスを口にした。


 超接戦になった昨年の日本GP予選タイムアタック。メルセデス勢は0.013秒差、フェラーリ勢も0.079秒差、レッドブル勢が0.062秒差。チームメイト同士これほどの僅差は極めて稀なこと。ではどこでタイム勝負が決したのか。


 予選セクター3タイム順位は1位ロズベルグ17秒545、2位ハミルトン17秒549、3位キミ・ライコネン17秒663、4位セバスチャン・ベッテル17秒724、5位フェルスタッペン17秒769、6位リカルド17秒867……ここだった。


 西コースのスプーンを立ち上がり、バックストレート途中からがセクター3、130Rとシケインと最終コーナーがある。ドライならほぼ全開で高速130Rを駆け抜け、シケインにヘビーブレーキング進入。


 右・左と切り返す俊敏な回頭性でボトムスピードをキープ、出口でのトラクションが重要になる。そして最後のコーナー、近年難易度が上がり(しばしばハーフスピンも)、旋回速度を高く維持してメインストレートにつなげなければならない。


 点と線のコーディネーション、鈴鹿のキーゾーンはここだ。3つの点とは130R、シケイン、最終コーナー。それぞれを高速線で結び、1周アタックを完成するのだ。


 どのサーキットも最後のセクターまで来ると、タイヤ特性はさまざまな意味で限界域にさらされる。タイヤ表面がオーバーヒートしてグリップが変調、前後4本バランスの差異がハンドリングを惑わせる。


 鈴鹿の場合、その状態で最高速コーナリング(130R)が強いられる。さらに最大減速(シケイン)を数秒後にしなければならない。そして最高トラクション(最終コーナー)で下る18番目のカーブ。ドライバーは最後までありったけの集中力でマシンとタイヤのバランスをコントロール。全身×全霊×全力の1周=90秒間が見る者をひきずりこむ。


■鈴鹿での予選最速タイムが期待される今シーズン

2006年のF1日本GP予選Q2で鈴鹿のコースレコードをマークしたミハエル・シューマッハー
2006年のF1日本GP予選Q2で鈴鹿のコースレコードをマークしたミハエル・シューマッハー

 ミハエル・シューマッハーが2006年予選Q2に記録した1分28秒954、このタイムは鈴鹿の絶対コースレコードだ(PPベストはフェリペ・マッサ1分29秒599)。記録だけでなく記憶に残るスーパーパーフェクトラップだった。その凄さを言おう。


 彼はセクタータイムを30秒032/40秒221/18秒701で刻み、1分28秒954をマーク。それぞれの最速セクタータイムをきっちり揃えた。フェラーリ最後のシーズン、シューマッハーが鈴鹿に刻んだ遺産と言うべき絶対コースレコード、これが今年、遂に破られる(はずの)時が来た。

F1第9戦オーストリアGP終了時点で5回のポールポジションを獲得しているルイス・ハミルトン
F1第9戦オーストリアGP終了時点で5回のポールポジションを獲得しているルイス・ハミルトン

 20年ぶり20cmワイドになったマシン、フロント6cm/リヤ8cm幅広のピレリタイヤ、PUシーズン4になってパワー&トルクもアップした。この2017年新規定の特徴は規制強化と逆の規制緩和、毎年スピードを抑えてきたレギュレーションを逆に高める方向へシフト。前半戦の各GPでも大幅タイムアップ、レコードタイムが叩き出されてきた。 


 この5年のPPタイムをおさらい。


2016年 1分30秒647
2015年 1分32秒584
2014年 1分32秒506
2013年 1分30秒915
2012年 1分30秒839。


 一進一退だった。昨年PPロズベルグは06年シューマッハーの1.693秒落ち、ではどこが劣ったのか。


 一部コース改修など変化はあるが、分かりやすくセクタータイムを比較すると、セクター1で+2.201秒、セクター2も+0.498秒、しかしセクター3は-0.256秒。セクター3だけは2016年メルセデス・マシンが上回った。そこに居た方は鈴鹿最速パフォーマンスを生目撃したことになる。


■レコードタイムへのキーポイントはS字
 今シーズン終盤、最終バージョンに進化した2017年マシンのダイナミック・ダウンフォースは、前年度対比30%(推定)に達する。セクター1のS字ではひとつ高いギヤで攻める、新しいハイリズム・コーナリングが見られるだろう。


 余談だがFIA内部では『F1よりスーパーフォーミュラのほうがS字は速い』という国内の動きを察知、それが2017年規定改革のひとつのきっかけになったとか……。


 シューマッハーの30秒032がセクター1のターゲットタイム、個人的にはダンロップ・コーナーがキーだと思う。次のセクター2はデグナーからヘアピンのアプローチがより高速化、精密なライン選びとブレーキロックを慎むスキルが見どころになる。


 スプーンに向かう全開加速ゾーンはPU対決、向かい風になるのが多いだけに究極のトルク&パワー勝負だ。シューマッハー40秒719を切る30秒台は濃厚だが、それだけにスプーンでのオーバーランが増す可能性も。


 鈴鹿アタックの肝、締め、トリは、繰り返しになるが昨年最過去最速17秒545がマークされたセクター3だ。もしここまで2つのセクターを70秒以下でクリアしてきたなら……レコードタイム、1分28秒954を抜けるか、ここにかかってくる。


 シューマッハーを超える鈴鹿レコード・ブレーカーは誰か。ポールシッターにポイントは与えられなくとも誉れを授かる。


 鈴鹿でのPPウインのデータは50%未満。それでもウイナーに匹敵するPPドライバー力がリスペクトされるのが鈴鹿日本GP。世界一速い男がここで決まると言ってもいいと思う。シューマッハーもアイルトン・セナも同意してくれるはずだ。



(Jun Imamiya)


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