地中海の暖かな日差しのもと“ヨーロッパラウンドの開幕戦”を迎えたバルセロナ。集まったファンの熱い視線に見守られながら、ルイス・ハミルトンとセバスチャン・ベッテルが展開した優勝争いは期待以上の熱気。2017年のF1でこのコースを攻めれば、ドライバーは強いGにさらされ、接戦はフィジカルな意味でも熾烈な戦いになる。純粋な“スポーツ”が際立った一戦になった。
その一方、表舞台からは見えないところでは、エンジニアたちが頭脳と知恵を結集し、コンピュータを前に静かな戦いを進めていた──。冬のテストで走り込んだコースでも、5月のコンディションはまったく異なる。そこに多くのアップデートを投入するには、冬のデータとの互換性を慎重に見極めていかなくてはならない。その作業を難しくするのが、モンメロの丘の上に吹き荒れる風。ドライバーにとってもエンジニアにとっても、難しいコースなのだ。
ロシアGP以来、見た目も大きくアップデートしたメルセデスは、FP1から好調なタイムを記録し、フェラーリを1秒近く引き離したように映った。しかし、午後になって路面温度が40℃を超えると2チームは接近。ハミルトンから0.4秒遅れのベッテルは、「マシンに速さが備わっていることは感じる。ただ、今のところはうまく使えていないね」と言う。キミ・ライコネンも、金曜日のタイムシートは本当のパフォーマンスを反映するものではないと感じている。
金曜日に感じられたほど、メルセデスは圧倒的な速さを身につけたわけではなかった。ただし、ベッテルやライコネンがタイム以上に警戒したのは、ハミルトンのロングランペース。メルセデスが大幅な改良で実現したのは、これまでも彼らの強みであった一発の速さではなく、レース距離を通して維持できる安定した速さだったのだ。
予選でポールポジションを獲得しつつ、レースのスタートではベッテルに先行されたハミルトン。ロシアGPまでのメルセデスなら、フェラーリはレースの主導権をつかめていたのかもしれない。ところが、2番手にポジションを落としても、ハミルトンは2〜2.5秒の間隔で追ってくる。フェラーリはアンダーカットの脅威を感じ、2台の間隔が2秒になった14周目にベッテルをピットインさせた。
「あそこでステイしても、ルイスがアンダーカットをしかけて前に出ただろう」と、ベッテルはその作戦の正当性を否定しない。メルセデスにとっても14周目のタイヤ交換は早すぎるタイミングで、1回目のピット作戦では即座に対応することもできなかった。
それでも、メルセデスのストラテジストたちは、どうすることもできないフェラーリの作戦をフォローするより、自分たちにとって“最も速い”戦略を模索した。幸いなことに、ベッテルひとりで戦うフェラーリに対して、メルセデスには2台。ハミルトンと、このレースでは伏兵に徹するバルテリ・ボッタスがいる。
ハミルトンはベッテルより7周も長く、スタート時のソフトのまま、コースに留まり続けた。
フレッシュなソフトに交換したベッテルは、1周あたり1秒速いペースで首位ハミルトンとの間隔を詰めていた。結果、21周目にハミルトンがピットインしてミディアムに交換した時点で、ベッテルのリードは8秒。ところがそこから4周の間、ステイアウトしていたボッタスに前を塞がれて10秒近くを失ってしまう──。ハミルトンとの間隔を見れば4秒のロスでも、ソフトを履いたベッテルには1分25秒1のペースが可能だったと思えば、1分27〜28秒台で走った4周のロスは大きい。
メルセデス2台 vs フェラーリ1台。スタート直後、ライコネンとマックス・フェルスタッペンの接触の引き金を引いたのがボッタスであることを思うと、フェラーリにとっては何とも悔しい状況である。
それでも、ベッテルがようやくボッタスをかわした25周目のオーバーテイクは、このレースのハイライトのひとつ。右にフェイントをかけ、ディフェンスに動いたボッタスの逆をついて左に動き、メルセデスがそれ以上走路変更できない状態にして再び右のイン側へ──。
「DRSを使ってダウンフォースがないなかで、あれだけアグレッシブにステアリングを操作するのはとてもリスキーだった」
首位を奪い返したベッテルは、ようやく前が開けた状態でハミルトンに対する8秒のリードを取り戻していった。
最終スティントを前にして、ハミルトンにはソフトのニューセットが残っていた。ベッテルはミディアムを履く義務がある。メルセデスが最終スティントに勝負をかけてくることは明白で、ベッテルは20周以上使ったソフトで少しでもリードを広げなくてはならない。