イタリアGPでの佐藤琢磨は、自分自身よりもチームのために走っていた。この週末、ポイントを獲得することが絶対条件であり、自身の栄光を求めることは二の次だったのだ。
そして琢磨は、チームメイトのジェンソン・バトンに続く4位という素晴らしい成績でレースを終えた。結果、大変重大なことだが、BARホンダはコンストラクターズ・チャンピオンシップでルノーを抜き、2位に浮上した。任務完了だ。
BARにとってのモンツァ・サーキットの週末は、レース自体に関する限り、非常に穏やかなものであった。「こういうことはあまりないんだが、基本的に問題の全くないグランプリだったね」と琢磨は言う。「フリー走行の間、僕らはどんどん良くなっていった。前の週、とても良いテストができていたし、テスト結果からプラスになる情報をたくさん得ていたんだ。金曜日にはすごく安定した走りができた。これは、いつもそうなんだが、レースにおいては重要なポイントなんだ。1周だけ速くても、レースで勝つことはできないからね」
BARの2台は、他のライバルたちよりも多めに燃料を積んで予選に臨んだ。非常に接近した戦いの中、琢磨はバトンを従えて5番手に収まった。「とてもコンペティティブなセッションだった。誰もが“あと0.1秒速かったら、フロントロウだったのに!”って思っていたんじゃないかな。だけど、僕らにとって直接のライバルであるルノー2台の間に割って入ることが重要だったから、5番手、6番手という順位でも満足すべきだった。それに、僕らが2台揃って大量のポイントを獲得するのも大事なことだった。だから、スーパーラップを刻むより、安全に行かなくちゃいけなかったんだ。ターン1を過ぎる時は、ちょっと慎重すぎたかもしれないけど、それ以外はすごく満足だったよ」
午前中の激しい雨は、レースの30分前に上がった。明るい日差しが降り注ぎ、コースはどんどん乾き始める。BARはドライタイヤを選択した。「僕らは(ドライでうまく行くという)自信があった。なぜなら、ミシュランのドライタイヤは、湿った路面状況に強いことを知っていたからね」と琢磨。
「スタート後、ターン1まではOKだった。だけど、最初のシケインの出口で全く加速できなかった。トラクション・コントロールが、あの状況でうまく効いてくれなかったんだ。ほとんど止まるんじゃないかと思うような加速の悪さで、すごく苦労したよ! 前にいたみんなは遠ざかって行き、さらにキミ・ライコネンにも抜かれた」
「2つ目のシケインでは、キミの外側に向かってブレーキングしたんだ。シケインの入り口でサイドbyサイドで並んだけど、彼がこっちにかなり接近してくるように見えたから、シケインを横切るしかなかった。それで彼の前に出たんだけど、(シケイン不通過の)ペナルティーを受けないように彼を前に出すしかなかった。キミとの間にスペースを作ったら勢いを失ってしまって、同時にジェンソンにも抜かれてしまったよ」
「数周の間はちょっと苦心した。普段、ウエットコンディションは好きなんだけど、F1マシンで濡れた路面をドライタイヤで走るレースは初めてだったんだ。それに、このレースこそ完走してポイントを獲得しなきゃいけなかったから、全速で駆け抜けるより、すごく慎重な走りを心がけたよ」
だが、路面が乾くと、琢磨は前を行く車に追いつき、そこでファン−パブロ・モントーヤと見事なバトルを繰り広げた。「引っ張られるようにして、最初のシケインで彼に追いついた。その後、2つ目のシケインに向かう所で彼は左側にいたから、僕は右側に動いたんだ。彼は気付いて反応したよ。2つ目のシケインの入り口で彼とサイドbyサイドになった。だけど、出口で彼は勢いを失ったから、彼と交差して、最後に彼を抜いたんだ」
「ドライコンディションでの車はすごく良くて、ハンドリングにも満足だったよ。フェラーリは全くの別世界にいた。だから、レースで優勝するには、僕らはさらに大幅に進歩しなくてはいけないだろう。それでも残り3戦に向け、すごく勢いに乗っているし、コンストラクターズ・チャンピオンシップで2位になれたんだからね」