「少なくとも金曜日のフリー走行はうまくいったんだから……」。ポジティブ思考の佐藤琢磨でも、そう考えることしかできなかったろう。ベルギーGPで、琢磨はスパ−フランコルシャンでおなじみの不運に見舞われた。オープニングラップでアクシデントに巻き込まれたのだ。
まずはうまくいった所から振り返ってみよう。金曜日、琢磨を含むBARホンダ・チームの3人は堂々とトップ5に名前を連ね、先のハンガリーGPで発揮した競争力をさらに強化しようとしていた。「すごく励みになったよ」と琢磨は言う。「土曜日の天候は全く予想できないものになるだろうと分かっていた。だから金曜日に取り組むべきことがたくさんあった。技術面でのトラブルは3台のどの車にも出ていなかったし、色々と試しながらタイヤや空力の解析を進めたんだ」
しかし、土曜日に最初の不運が訪れた。予選で雨が降り、琢磨は15番手に沈んだのだ。「ちょうど雨がやんだところで、2種類のレイン用タイヤ、エクストリーム・ウエットとインターミディエイトを用意していたんだ。TVモニターで見ていると、先に走り出した車がものすごい水しぶきを上げていて、僕たちはエクストリーム・ウエットで行くべきだと思った。だけど、実際にはインターミディエイトの方がよかったんだろうね。オー・ルージュを抜けた時点ですでにタイヤの性能がかなり落ちてしまい、ターン3〜5までに全くダメになってしまった。それで残りの部分は本当に苦労することになり、結局グリッドを下げてしまったよ」
さらに悪いことは続く。日曜日のスタート直後、最初の20秒あたりまでは琢磨にとって非常に望ましい展開であった。第1コーナーのラ・スルスで何台かをパスし順位を上げることに成功したのだ。
「最初にクリスチャン・クリエンをパスした。ウイリアムズの車と同じくらいのスピードでうまいスタートを切れたんだ。ブレーキングゾーンの手前ではアントニオ・ピッツォニアのイン側に飛び込んで彼をパスした。僕はラ・スルスのイン側にスペースを見つけていたけど、他の車はアウト側に流れ込んだんだ。それで、すかさずイン側に入ってうまい具合に脱出できた。その間、6、7台はオーバーテイクしたよ!」
「その時、“よし、やったぞ!”って思ったよ。すごく興奮したね。それからオー・ルージュで僕の前にいたマーク・ウエバーが問題を抱えているのが分かった。彼はかなり遅くて普通の状態じゃなかったんだ。彼はおそらくレーシングラインを外れるだろうって思ったんだけどね。すごい速さで彼に近付いてしまって、それで彼を避けるためにブレーキをかけたんだ。そしたら、ファン−パブロ・モントーヤが後方からものすごい勢いで迫ってくるのが見えた。モントーヤが僕の右側に並びかけオーバーテイクしようとしたんだけど、ちょうどその時、僕もウエーバーを右側からパスするところだったんだ。3台がとても接近してたよ。完全にウエーバーを抜いたと思ったけど、彼はすでにフロントウイングを失っていて、ひどいオーバーステアに苦しんでいた。なのにスロットルを戻さず、僕にぶつかってきたんだ」