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【小松礼雄のF1本音コラム】フェラーリとの予選タイム差“1秒以内”はなんとかクリア。小松エンジニアの2018年総括

2018年12月19日

 現役日本人F1エンジニアとして、ハースF1でチーフを務める小松礼雄エンジニア。F1速報サイトで好評連載中のコラム、今回は最終戦アブダビGPをふり返り、2018年シーズンを総括。現在のF1で起きている真相と、現場エンジニアの本音を読者のみなさまにお届けします。

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 最終戦アブダビGPは、僕らのマシンにとって得意なサーキットではないので、ここでうまく戦えるかどうかが2019年シーズンにつながる重要な1戦だと考えていました。

 前戦ブラジルGPの時点からアブダビに向けて低速コーナーの改善に取り組んできたわけですが、それでもウルトラソフトを履いたFP1はオーバーステアがかなりひどかったです。想定範囲内ではありましたけれども、やはりウチのクルマはこの様なサーキットでは良くないとういうことを再認識されられました。

 しかし、ここからが勝負です。ハイパーソフトに履き替え、マシンのバランスを大きく変えた結果、うまく修正することできて一発はなんとか好タイムを出すことができました。

 以前は2、3回のランを使わないとこの様な状況に対応できていませんでしたが、最終戦では1回のランですぐに的確にクルマを見直してタイムを出せました。この様に対応能力が向上したのが今シーズンの大きな成長のひとつだと思います。日が暮れて温度が下がるFP2でも一発、ロングランともにタイムもよく、自信を持って予選に臨むことができました。

 Q1は、できればニュータイヤを1セットだけで通りたいと考えていました。そうすればQ3で2セットをニュータイヤを使えるため、今回のマシンの出来ならば、予選7、8番手を獲得できるという手応えがあったからです。

 ロマン(グロージャン)はそのプラン通りに1セット目でQ1通過に十分なタイムを記録しましたが、ケビン(マグヌッセン)はバックストレート手前のコーナーで膨み、1回目のアタックを失敗したので2セット目のタイヤも使わざるを得ませんでした。

 その2回目のアタックも良くなく、ロマンから0.359秒落ちのタイムしか出せませんでした。(ピエール)ガスリーのパワーユニット・トラブルがあり、何とかQ1を15番手で通過することができましが、これは正直ラッキーなだけでした。最終コーナーの手前でガスリーはコンマ4秒ケビンのタイムを上回っていたので、彼が問題なく走り終えていればケビンは確実にQ1落ちでした。

 さらに、ケビンは続くQ2の1回目のアタックでコースオフしてクルマを痛めると、その影響で2回目もタイムが上がらずにQ2敗退。リスクを取って攻めるべきところと、そうではないところの見極めがまだまだです。これは2019年シーズンへ向けての大きな課題です。

 一方のロマンは、その後順調にQ2を突破し、Q3の1回目のアタックで素晴らしい走りを見せてくれました。トップ3チームのドライバーに続く1分36秒192を記録し、彼の今までの予選のなかでもベストのひとつだと思います。

 ターン5、8の進入ではかなり攻めていて、ピットウォールにいる僕としては正直、冷や冷やしながらデータを見ていました。普通なら、あそこまでアグレッシブにいってしまうと辻褄が合わなくなってミスをしてしまうものですが、ロマンはうまくまとめて、見事なタイムを出してくれました。本当にすごかったです。彼が本来持っている速さを改めて認識させられました。

 ただし翌日の決勝では、逆に彼の課題が出てしまいました。アメリカGP、ブラジルGPに続いて、1周目にまたアクシデント。今回はルノーの(ニコ)ヒュルケンベルグと接触してしまいました。

 レーシングインシデントだったとはいえ、スタート直後に接触することが多く、なかなかマシンにダメージがない状態でレースをすることができていません。フロントウイングの翼端板があそこまで壊れてしまうとマシンの挙動が安定しないし、レース後に空力のスタッフが調べたところ、かなりのダウンフォースが抜けている状態でした。

 その影響でペースが上がらず9位が精一杯でしたが、普通の状態で走っていれば7位は確実だったので、残念な結果でした。僕自身としても、接触直後にすぐピットインしてフロントウイングを交換すべきだったと反省しています。

 一方のケビンはよく追い上げて、10位でフィニッシュしてくれました。2戦連続のダブル入賞はチーム初めての経験だったので、ギュンター(シュタイナー代表)もスタッフも喜んでいましたが、展開次第では7、8位入賞も可能だったので、悔しさが残るグランプリでもありました。

 ルノーにはあと一歩届かず、最終的にコンストラクターズ5位に終わったわけですが、僕のなかでの今シーズンが始まる前の目標は、フェラーリの1秒以内で予選を走ることでした。ハースはフェラーリからパワーユニットやギヤボックスの提供を受けているため、ラップタイムの基準は彼らになると考えているからです。最終戦アブダビGPでは予選3番手のベッテルからロマンがちょうど1秒落ちでした。

 今季、コンスタントにフェラーリから1秒落ちで戦うことはできませんでしたが、ラスト2戦の予選で続けてフェラーリの1秒から1.1秒落ちで行けたことは良かったと思っています。うちが得意としているオーストリアではコンマ4秒落ちまでつめられましたが、さすがにまだこの様な速さを安定して出すまでには3年目のチームでは至りませんでした。

 もうひとつの目標は安定感、つまりどのサーキットに行っても一定して良いパフォーマンスを発揮することでした。結果的に21戦中17戦でQ3進出を果たし、アップデートを投入した以降、ほぼ毎戦中団グループの先頭で戦えていたので、これも昨年に比べて大きな進歩だと思っています。今年はチーム創立以来、初めて1シーズン通じてクルマを開発した年でした。それをやり遂げ、ここまでの速さを見せられたのはとても嬉しいです。

 レースでも13戦でポイントを獲得。失格裁定となったイタリアGP(フロア規定違反)、アメリカGP(規定燃料以上を消費した違反)も加えれば、15レースでポイント圏内フィニッシュを果たしていたことになるので、予選から決勝に向けた戦い方という意味でも、チームとしてかなり進化したと思っています。

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