2015年の春に、フォース・インディアのボブ・ファーンリーが提案した「タイヤのコンパウンド自由選択案」。当初ピレリのモータースポーツディレクター、ポール・ヘンベリーは「馬鹿げたアイデアだ」と一蹴していたが、夏に入ってから「我々はルールに従うだけだ」と態度を軟化している。その裏にはバーニー・エクレストンから、レースを盛り上げるために協力してほしいという要請があったのではないかと推測されている。
というのも、ピレリのF1単独供給の契約は2016年シーズン限りとなっており、2017年以降については未定。2017年以降のF1タイヤ供給への入札は、ピレリとミシュラン2社のみが申請を提出している。両者はFIAによる技術面と安全面の調査を終え、現在は商業面での審査が行われている段階だ。その最終審査を行う人物は、F1グループを統括するエクレストンだと言われている。ピレリが2016年限りでF1から撤退するのであれば従来どおりの体制で問題ないが、2017年以降もF1活動を続けたいならエクレストンに逆らう理由はない。もとより、F1が盛り上がることはピレリにとっても大きなメリットとなる。
だが、企業として参戦している以上、経済的なデメリットは被りたくない。コンパウンド自由選択といっても、それが完全な自由選択なのか、限定的な自由選択かによって、かかるコストは大きく異なる。現在トラックで輸送しないフライアウェイ・ラウンドの輸送は船便を使用しているため、最低でも60日前にはトルコの工場からタイヤを出荷しなければならない。つまり4月上旬開催となる来年のオーストラリアGPのタイヤを工場から出荷するのは2月上旬であり、3月の合同テストを待ってからでは船便は使用できない。したがってタイヤ自由選択を導入するとしても、陸送が可能なヨーロッパ限定となる可能性は高い。