グレッグ・ベーカーは、ヤルノ・トゥルーリのマシンのナンバー1メカニックだ。彼はその立場を、世界中のどんなものと引き替えでも、手放すつもりはない。
ルノーF1チームは、レースごとに、100平方メートルよりも狭いスペースの中で、3台のマシンの作業を行っている。スペースが貴重であるため、どの作業もできる限り迅速かつ効果的に行わなくてはならない。各シャシーは、それぞれのグループのメカニックが担当する。ナンバー1メカニック(マシン全体を担当)、ナンバー2メカニックが2名(1名はフロント、もう1名はリヤを担当)、そして、コンポジットを担当するメカニック、ハイドロリックのスペシャリスト、ギヤボックス・テクニシャンがそれぞれ1名ずつだ。これに加えて、総合的な責任を果たすメカニックがさらに3名いる。合計で9名のメカニックが、R24のそれぞれのシャシーにつくことになる。そのうえに、ビリ・シャティヨンから、V10を担当するメカニックが加わり、エンジンとシャシーのエンジニア、エレクトロニクスの技術者、そしてミシュランやエルフ、ブレーキのヒトコの担当者も加わる。つまり、ガレージにはあまりスペースがないのだ! グレッグ・ベーカーは、毎回のレースごとに、ヤルノ・トゥルーリのマシンに関わる作業を統括する責任者だ。
昨シーズンのレギュレーション変更でも、メカニックは少しも楽にはならなかった。以前は、レースのスタート直前までマシンを調整することができたが、今では土曜の予選までにすべて準備を整えておかなくてはならない。「つまり、プレッシャーが非常に高まるということだ。そして、使える時間は限られている。ミスをしやすいので、特に注意を払わなくちゃならないんだ」
自分の担当するマシンがコースに出ているときも、グレッグは片時も無駄にはしない。もしマシンがスローダウンすれば、リアクションは決まっている。「メカニカル・トラブルがあったのか? 私のせいか?」
どのメカニックも、自分のマシンに特別な注意を払っており、ドライバーとの関係も特別なものだ。「ヤルノはいい奴だよ」と、グレッグは説明する。「一緒に仕事をした中で、最高の人物のひとりだ。めったにコースアウトしないが、たとえコースアウトしても、私たちは気にしないよ。我々が何よりも望むのは、100%の力で走るドライバーなんだ」
ピットレーンのいくつかのチームとは異なり、ルノーの哲学は、仕事を楽しむということだ。そのため、ガレージには音楽が鳴り響いている。「ここにいる全員が、仕事を愛しているんだ」と、グレッグは話を締めくくった。「訓練はもちろん必要だが、度を越しても仕方がない。誰もが、自分の責任をわきまえているよ」