うちのドライバーは、3人とも本当にナイスガイですよ。お互いに仲がいいし。その中でジェンソンは、茫洋としています。ガツガツした感じがない。育ちがいいのかもしれませんが、「俺が、俺が」ってところがないですね。
―よく、「いいヤツは世界チャンピオンになれない」と言われますが。
「そんなことないですよ。もちろん、いいヤツと速いヤツとどっちがほしいときかれれば、速いヤツを取るに決まっている。でも、ジェンソンはその速さも身に付けていますからね。
中でも凄いなと思うのは、プレッシャーのコントロールが完全にできているところですね。ここ一番という時には、ものすごいプレッシャーを受けているはずなのに、そのプレッシャーを、集中力を高める方向に転換できる。まだ24歳で、それができるんです。そして状況に応じて、リラックスして走ることもできる。」
―B・A・Rに来た当初に比べて、さらに速くなった?
「本人は「自分は何も変わってない」と言っていますが、効率良く走らせる術を習得していますね。非常に無駄の少ない走らせ方です。ブレーキングでタイヤをロックさせたり、立ち上がりでホイールスピンしてタイムロスしたり、タイヤを痛めることが少ない。それは言い換えると、器用に乗ってしまうと言うことでもあります。クルマが悪くても、それなりのタイムを出せる。そして、それで満足してしまうことが、ないわけではない。
たとえば、冬のバルセロナテストでコースレコードを更新しましたよね。で、アタックを終えて無線で、「クルマはすごく良かった。みんなありがとう」とみんなに言っているわけですよ。だから僕は、ガレージに戻って来たジェンソンを、叱ったんです。何を言ってるんだ。こんなタイムで世界チャンピオンになれると思ってるのかってね。」
「エンジンだってまだまだだし、ダウンフォースも足りないし、サスペンションも満足できるレベルじゃない。でも運転しているお前が問題ないって言ってしまったら、ここで進歩が止まってしまうんだぞって、言ったんです。」
「そうしたら、ジェンソンは最初は驚いていました。コースレコードを出して怒られるとは思ってなかったから。でもすぐに分かってくれましたよ。ジェンソンには苦言を呈することが多いんですが、チャンピオンを狙えるだけの素質を持っているからこそなんです。もっともっと貪欲になって、進化を続けてほしいですね。」