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【F1座談会企画(3)ライコネン&アロンソ編】絶大な人気を誇るドライバーの悲劇と裏事情。アロンソF1復帰の可能性

2018年12月30日

 2018年のF1で日本のファンにとって残念だったのが、キミ・ライコネンのフェラーリ離脱(その後ザウバー移籍)や、フェルナンド・アロンソのF1離脱という、人気を誇るふたりのドライバーのニュース。


 F1シーズンオフ企画である座談会の第3弾では、オートスポーツwebでもお馴染みのF1ジャーナリストの柴田久仁夫氏と、全レースの現場取材を16年以上続けている尾張正博氏のおふたりが、ライコネンのザウバー移籍の裏側や、アロンソがF1を離れる理由などを解説する。世界中で絶大な人気を誇る両ドライバーの秘話は、F1ファン必見!

■ライコネンが“宣告”を受けたのはイタリアGPの前だった!

──(MC:オートスポーツweb)まずはライコネンの移籍についてお伺いしようと思います。単刀直入に、ライコネンがザウバーへの移籍を決めた理由は何だったのでしょうか? WRCに再挑戦するのかなと思われましたが、極論すると勝てなくてもF1に残りたかったということなんですよね……。


尾張正博(以下、尾張)「彼がフェラーリを放出された時点で残っていたシートは、ザウバーしかなかった」


柴田久仁夫(以下、柴田)「というか、まだF1で走りたいと思ったのがすごいなと思った」


尾張「想像できなかったですか? 最初にフェラーリを放出された時にラリーをやったけれど(2009〜2011年までWRCに参戦)、やっぱり彼はサーキットでのレースが好きなんでしょう?」


柴田「ライコネンって、あっさりしている人間というイメージがあったからF1へのこだわりもそんなに強くないと思っていた。そもそもフィンランド人てみんなあっさりしている。ミカ・ハッキネンはあれほどの才能がありながら、タイトルを2回獲ってさっさと引退してしまった。普通だったらあり得ないよ。ハッキネンの実力だったら5冠くらいは獲れる可能性はあったと思うんだけど……なんかみんなあっさりしているよね」


尾張「あっさりというか、精神的に繊細なんだと僕は思う。ハッキネンも2001年には九死に一生を得たような事故(開幕戦で2番手を走行中に、右フロントタイヤのサスペンションアームが折れてタイヤバリアに激しくクラッシュ)に遭ったし、いろいろなことを考えたのだと思う」


──ニコ・ロズベルグは2016年にタイトルを獲得した直後に引退しました。彼の場合は母親がドイツ人で、父親のケケ・ロズベルグがフィンランド人ですが……。


柴田「メンタリティ的には、半分くらいフィンランドが入っているでしょう」


尾張「引退発表の時のツイッターを見ても、子供ができたなんだってものすごく繊細で、『ああ、俺たちと同じなのか』という庶民的な感じだった。ワールドチャンピオンになるには生活のほぼ100%を捧げなければいけないので、家族と離れていることに苦しんでいるというのは、あっさりというか繊細。(バルテリ)ボッタスもそれに近い。でも、ライコネンはそれには当てはまらなくて、むしろミカ・サロのキャラクターに近い。『自分のやりたいことをやる』という感じかな。だけどもしセルジオ・マルキオンネ(フェラーリ前会長)が亡くなっていなければ、ライコネンは引退していたかもしれない」


柴田「マルキオンネが、ライコネンのザウバー移籍を許すことはないだろうね」


尾張「マルキオンネが亡くなった後、フェラーリ内部では『残留派』と『放出派』で分かれていたけれど、ライコネンは2019年も乗る気満々だった。だから彼は、イタリアGPの週に2019年に向けての契約更新をしないと言われてびっくりしていた。それから今後どうするのかという話になった時に、フェラーリ側は『進路のことがあるから、自由にしていい』と伝えた。何せ彼はまだF1に乗る気満々だったし、そして火がついたライコネンはイタリアGPで速かったよね」

2018年F1第14戦イタリアGP キミ・ライコネン
2018年F1第14戦イタリアGP キミ・ライコネン


──予選ではポールポジションを獲得し、決勝では惜しくも2位でしたが、速さをみせましたよね。


尾張「チーム内の掟では『接触しなければレースをしていい』となっているから、セバスチャン・ベッテルも何も言えない。日曜日のレース後の会見では、『何か取り決めはなかったのか?』『チームオーダーはなかったのか?』と何度も訊かれていたけれど、ライコネンもベッテルも『それはなかった』と」


柴田「ライコネンへの申し渡しをイタリアGPの後にやっていたら、ベッテルはあそこ(オープニングラップの第2シケイン)で接触していなかっただろうね」


尾張「あのふたりは、木曜日には普通に接していた。だけど土曜日の予選ではベッテルがライコネンのスリップストリームを使わせてもらえず、無線で『Talk you later.(後で話そう)』と言っていたよね。みんな何があったのかと訊いたけれど、ベッテルは答えなかった。だけどあの辺りから何かあったんでしょう。日曜日にも、なぜドライバー間の取り決めをしなかったのかと訊かれていたけど、ベッテルはうやむやにしていた。フェラーリはフロントロウだったし、地元だから勝たなければいけなかったのに。モンツァでの1勝は、3勝ぶんくらいの価値があったはずでしょう」

■“小粒”なチーム代表が続くフェラーリの課題は『マネージメント面』

──イタリアGPの前に、ライコネンへ2019年の契約しない旨を伝えていたことには驚きましたが、どうしてフェラーリの地元レースを前にしてそのようなことになったのでしょうか?


尾張「これもマウリツィオ・アリバベーネ(チーム代表)の人の良さだと思うけれど、ライコネンの今後のことを考えて、彼が少しでも早く将来のために動けるように木曜日に伝えたのだと思う。だけど、それがチームにとっては仇となってしまった。そういうことを考えると、2019年はもう少しうまくやれるとは思うけれど、アリバベーネにはマッティア・ビノット(テクニカルディレクター)とのごたごたがあるからわからない」


柴田「フェラーリのマネージメントは、メルセデスと比べるとレベルが低い。やっぱりジャン・トッド(元フェラーリのチーム代表で、現在はFIA会長)は偉大だったなと思う。もしフェラーリがイタリアGPで勝っていたら、全然展開は違っていたでしょうね」


──フェラーリの今後の課題は、マネージメント面ですね。


尾張「ドイツGPでは、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は『直線でフェラーリよりも0.3秒遅い』と言ったのに、トト・ウォルフ(チーム代表)は『いや、0.5秒だ』とハミルトンよりも大きな数字を言って、彼を守ってあげていた。これはもう、本当にトトの人柄。あのチームはイギリスのチームだけど、オーストリア人のトトがひとり上に立って、チームを見ている」


柴田「ロズベルグとハミルトンが揉めていた時も、トトはゲルマン系だけど(ドイツ人のロズベルグを贔屓することなく)すごく公平にやっていた。何か揉め事があると、彼はできるだけメディアに対して情報を出そうとする。それがフェラーリとは全然違うところ。フェラーリはそういうものを隠すから。もし2019年のフェラーリでベッテルとルクレールが揉めたりしたら、アリバベーネは絶対に収拾がつかなくなるだろうね」


──アリバベーネ代表は、囲み会見をしないんですよね?


尾張「以前は必ず囲み会見があったけれど、2016年からなくなった。だからアリバベーネのコメントを拾う方法は、プレスリリースか、イタリア人記者とアリバベーネの立ち話の内容を教えてもらうくらい。彼と話せる記者は3人くらいだし、メディアとしてそれって『どうなの?』と思うけれど、イギリス人記者ですら見て見ぬふりをして、イタリア人から話を聞いている」


柴田「きっかけはあったんだっけ? 囲み会見は突然なくなったんだよね。それに冬のオフシーズンのテストでもフェラーリだけ一切、取材を受けない。すごく困るし、それこそイタリア人から話を聞かないといけない。あんなことしているのはフェラーリだけ。他のチームは誰かが必ずメディアに対応してくれる」


尾張「トッドの時はどうだったの?」


柴田「トッド自身はそれほど話をしていたわけではなかった。テクニカルディレクターのロス・ブラウンはしょっちゅう話していたけれどね。ステファノ・ドメニカリも良い人だったけれど、トッドの後は小粒の代表が続いている」


──その一方で、ウォルフ代表はきちんと取材に応じてくれるんですか?


柴田「トトは取材を歓迎している。クリスチャン・ホーナー(レッドブルのチーム代表)もメディアにきちんと対応するけど、話に重みがない(笑)。ホーナーが不思議なのは、あれだけチーム内で批判の声もあるのに長期政権を築けていること。とても人望がある人物とは思えないのに」


──やはり、チームをまとめる代表は大事ですね。


柴田「代表はお飾りじゃないからね。マクラーレンが没落したのもチーム代表が理由だし……」

■F1を離れるアロンソは、まるで裸の王様? 魅力溢れるF1王者の悲劇とは

──アロンソは改めて、人気と実力を兼ね備えた存在感の大きいドライバーだと思いますが、どうしてF1を離れてしまうのでしょうか。


尾張「なぜF1辞めるかというのは、『勝てないから』というみんなの思っている通りの答えじゃないかな? それなら他のカテゴリーでチャレンジしよう、と。彼もライコネンと同じように、まだまだレースを辞めたくない。だけどアロンソはライコネンほどあっさりもしていないし、ただレースができれば良いというわけではなくて、政治的に頂点に立ちたいわけでしょう」


──もしトップ3チームのシートが空いていたら……?


尾張「もちろんそこに行ったと思う。でも、その可能性は現実的になかったし、今後も絶対にないだろうね」


柴田「みんな、アロンソが来たらどうなるのかをわかっているからね」


尾張「2007年にそれがわかったから(アロンソとハミルトンの確執)。ああいうことがあったのは大きいよね。だからメルセデスは絶対にアロンソを起用しない。フェラーリは2014年にアロンソとの契約を破棄しているのだから、復帰はない。そして、レッドブルとは合うわけがない。フェルスタペンがいなければ別だけど、わざわざ彼の可能性を潰す必要はないよね。たとえば晩年のアラン・プロストのように教育係をしてくれるというならいいけど、アロンソはそういったタイプではない。彼はもう1回チャンピオンになりたいんだから。だからレッドブルが彼を起用することはないね。その前の段階で、レッドブルとはオファーの有無で揉めていたし」


──レッドブル側は「オファーをしていない」、一方でアロンソ側は「オファーがあった」と両者が真逆の主張をしていましたが、真相はどうだったんでしょうか?


尾張「実際には、レッドブルからのオファーはなかった。だけどアゼルバイジャンGPの時に、フラビオ・ブリアトーレ(アロンソの元マネージャー)がアロンソに『君もレッドブルの候補のひとりだ』と伝えたので、彼はオファーがあったと思ってしまった」


柴田「アロンソはとても魅力的な人間なのに、どうして政治的に動いてしまうんだろうね。なんかやっぱり悲劇のドライバーというか……」


──2018年、アロンソはマクラーレンのチームとはうまくやっていくことができていましたか?


柴田「表面的にはね。ただチーム内がガタガタ、ボロボロだし、クルマが遅いというのもわかっていたから、喧嘩をする意味すらなくなってしまった。喧嘩してクルマが速くなるのであれば、アロンソも喧嘩しただろうけど。それさえないからね」

F1開幕戦オーストラリアGP フェルナンド・アロンソ


──それでも常にバンドーンを上回る予選成績で、レースでも順位を上げていました。


尾張「ドライバーに徹していればよかったのにね(笑)。ブリアトーレもマネージャーのままでいればよかったし、アロンソに関しては完全にマネージメント体制が悪い。2017年のハチ公での一件(※1)にしてもそうだった。僕は今年もある企画を手伝ったけれど、企画をマネージャーに通してOKが出ても、ある日突然ダメになるとか、できることが変わったり、日にちが変わったりした。変わるときは全部がアロンソの裁量で変わるし、全ての決定がそうなっている。だけどアロンソはマネージメントの話を聞いて、どこかで妥協しないと。そうじゃないと、マネージャーのいる意味がない」


柴田「ちょっと裸の王様になっちゃったね」


尾張「自分が踏み込むべきじゃないところまでコントロールしようとしたのが、彼の悲劇だと思う」


柴田「もし2010年にフェラーリでタイトルを獲れていたとしても、その後に勝ちまくるということはなかったでしょうね」


──アロンソが2020年以降にF1に戻ってくる可能性はありますか?


柴田「ないんじゃない? チームもないし、若いドライバーも出て来ている。F1にアロンソの居場所はなくなってしまったんじゃないかな」


座談会(4)に続く


※1. 2017年のF1日本GPを前に、アロンソは渋谷のハチ公前で自身のブランド『kimoa』のイベントを行う予定であったが、路上での撮影許可を取っていなかったことなどが原因で中止となった。


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柴田久仁夫
 静岡県出身。TVディレクターとして数々のテレビ番組を手がけた後、1987年よりF1ライターに転身。現在も各国のグランプリを飛びまわり、『autosport』をはじめ様々な媒体に寄稿している。趣味はトレイルランニングとワイン。


尾張正博
 宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1を取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。



(autosport web)


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