11番グリッドからスタートしたアロンソは、ターン3出口でペレスのアウト側にエステバン・オコンが並んだ瞬間、危険を予知してイン側にラインを取った（2台が接触すれば、物理的にマシンや破片はアウト側に飛んでいく）。そして前にいるロマン・グロージャンの動きを警戒してアクセルを緩め、ハースよりさらに左のラインにマシンを進めた。

　アロンソにとってみればいつもの危機対応だが、これができるドライバーは多くはない。1周終了時点でのポジションは9番手。前をいくのは全員がQ3を戦った“ハイパーソフト・スタート”勢。

「ここでは9〜10番手でスタートするより、11番手の方がタイヤ選択の自由があって有利。5〜6番グリッドじゃないかぎり、Q3に進まなかったのは正解」と予選後に語っていた言葉どおり、絶妙のペースコントロールで38周目までウルトラソフトを保たせた──。ここはシンガポール。先にピットインしたマシンは必ず他のライバルに阻まれ、本来のペースで走ることはできない。トップ3チーム以外のQ3進出組は早い段階でタイヤ交換を余儀なくされ、ステイアウトしていた“Bリーグ”の混沌に呑まれていった。

　7番手をいきながら、アロンソは「ピットインは急がずにいこう。セーフティカーが出動したら（カルロス）サインツJr.に抜かれてしまうから」とピットに声をかける。走りながらレースを俯瞰する能力によって、自らのタイヤ／マシンが“まだいける”状態であることをさりげなく伝えているのだ。

XPB Images

　同じウルトラソフトでスタート、ほぼ同ペースで4〜5秒後方を走り続けたサインツJr.は自らのタイヤが限界に達したのと同時、アロンソがペースを上げたのを見て根負けしたようにピットに入った。続く38周目にはアロンソもピットイン──。ポジションを維持したまま、コースに戻った。

「僕らが前だ。みんなグッドジョだね！」と、アロンソがチームを賞賛する。

「フェルナンド、最高の仕事だ。P7、P7だ。ここからは最後まで全力で走っていいよ。集中して、ダッシュの標示をフォローして」と、エンジニアが歓びのコメントを返した。

「僕らはフェルナンドと一緒に彼のレースを楽しむことができる」と言ったのは、ともにタイトルを獲得したルノーのエンジニア。

「類稀なドライビング能力とレース管理能力。強いファイティングスピリットを発揮しながらミスを犯さないから、接戦でもハラハラする以上にエキサイトして楽しくなる」

　そんなアロンソが、マリーナベイのウォールを擦る姿を私たちは一度も見たことがない。マクラーレン・ホンダで走るまではマシンにかかわらず上位フィニッシュを果たしてきた──。今年は最後のシンガポールGP。7位入賞はアロンソとチームにとって「小さな勝利」。でも、F1ファンにはとても大きな、心に残るリザルトだ。

（Masako Imamiya）

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